第3章 君がいないと
いつものように屋上に向かってもそこに彼女の姿がなかった。不安が脳裏に駆け巡る。そもそも、自分たちはここに存在してもいいのかもあやふやだった。最近はあまり気にせずに暮らしていたから彼女が言う番人のような人に場所を特定されて連れていかれたかもしれない。それか、元の世界に帰れたのかもしれないそう思った。僕たちは連絡先なんか交換してなかったし、そもそも携帯は電源が付かなくなっていた。今思えば、彼女は初対面の時僕のことを全く疑わずに接しくるようなあまり疑わない人だった。色々な不安が脳内を往復する。でも、彼女を探そうにもどこに行けばいいのか分からない。冷静にならなければと思いながらも、自分できるのは足を動かすことしかないと思い、町中歩き回った。しかし、町にいたとしてもこの探し方で見つかるのかよく分からなくなっていた。
最終的には、以前行った海まで自分の足で行った。気まぐれで海に行きたくなってまた行ったのかもしれないと考えたからだ。砂浜は結構広かったが、くまなく探す。呼びかけてみても、僕の声が海の波の中に消えていくだけだった。そこで、太陽の光で反射して光を放っているものを見つける。拾ってみると、それは彼女がいつも身に着けている腕時計だった。前、訪れた時に失くしたと言っているのを思い出す。この時計は、この町に来てから時間を指さなくなってしまったらしかった。これが、時間の流れを忘れさせる原因の一つでもあった。
それでも、見つからなかったので仕方なくいつものビルに戻ることにした。よく見てなかったけど書置きなんかがあったかもしれないと思ったからだ。しかし、いつものビルの階段を登ろうとしたその時いつものように普通に出会った。
「今日は来るの遅かったから心配したよ。なにかあった?」
「来てもいなかったから心配で探しに行ったんだよ。」
そうすると彼女はなぜいなかったかの説明をはじめた。どうやら、朝早く目が覚めてしまい暇だったので町を探検していたそうだった。公園にいったり、学校(もちろん誰もいない)に行ったりしていたようだった。道理で会わないわけだとつぶやくと彼女は
「心配性だね。そんな君にはこれを授けよう。」
そう言って彼女は僕に最近触れることもなくなっていた機械を僕に手渡した。トランシーバーだった。
「子どもの時おもちゃのCMでこれが流れててずっと欲しかったんだ。それがね、公園にあったんだよ。もうあの公園には誰も行くことないかなと思って、もらってきたの。これで、心配性の君も安心でしょう。」
とからかい口調で言うので安心感で久しぶりに声を出して笑った。すると、彼女も一緒に笑ってくれたのでもっと笑った。
「そういえば、海で失くしたって言ってた時計見つけたよ。」
そう言うと、彼女はトランシーバで
「ありがとう。海まで探しに行ってくれてたんだね。」
と答えた。彼女はその日はトランシーバ越しでしか話さなかった。子どもっぽいところもあるんだなと思う。
夜も遅くなったので帰ることにした。帰路を歩んでいるとトランシーバーが言った。
「心配してくれてありがとう。おやすみ。」
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