第2章 夕焼けを背に
2人の生活にも慣れてきた頃いつものようにビルの屋上に向かうと、到着した途端彼女は言った。
「海行こう!砂浜あるとこ!前見つけたのに行くの忘れてた。場所知ってるでしょ?」
「知ってるけどちょっと遠いよ。いいの?」
僕がそう聞くと彼女は言った。
「時間はいくらでもあるじゃん。それにいいもの持ってるから。」
そう言われて建物の前に止めてあった彼女が言う、いいものを見せられる。
「いいものって、きらきらした青春の象徴で、男が労力を全て背負い女の子は後ろに座るだけの乗り物じゃん。」
「いや自転車にそんな偏見持ってる人いないから。」
遠いっていう説明は彼女の耳に届いてないなと思った。2人乗りで行くことになり、もちろん僕が自転車をこぐことになった。
道中は少し遠いっていうのもあるけど急な坂があったから体力をすごく使った。高校までは部活をしていたから体力に自信はあったが大学に入ってからは全くと言っていいほど運動をしていなかったのも原因の一つだとと思う。それだけじゃなく、疲れた素振りを見せると決まって
「私が重たいみたいじゃん。もっと早く進んでよー。」
彼女は軽すぎるくらいだったが、そういうので自転車を早めに進めたのでさらに体力を使うことなった。
海までの道は、少し町を外れた後は左手にはどこまでも広がる海と防波堤、右手には今にも落石してきそうな裸になった山肌に挟まれているような一本道だった。そんな道をゆっくりと景色を見ながら進む。彼女は僕の服を遠慮気味に掴みながら、後ろに乗っていた。
30分程で砂浜に着いた。そんな海が見せる風景には圧倒された。太陽に照らされて光る水面がそこにはあった。それは僕になんとも言えない安心感みたいなものをくれたし、心も安らいだ。
「海来て正解だったでしょ。」
彼女は夕焼け前の太陽を背にそんなこと言いながら、靴を脱いで海の中に足だけつかりながら自分の足跡を確認するように歩く。
「好きな人と2人で来れたら最高だろうね。」
なぜかそんな風に答ええてしまう僕に、彼女は少し笑って、
「世界で男女2人だけになったらその2人は恋に落ちるのかってよく言うけど、これで永遠の人類最大の疑問の一つが解決するね。」
そんな冗談で放った一言に心踊らされてしまう僕は一生彼女に勝てないことを再認識させられた。気づけば、夕暮れの時間になっていた。彼女は海に足をつけたまま眺めていた。僕から見た彼女は逆光で本当にそこに存在しているのか不安になるほど遠くに感じられた。それでも、彼女はこの夕日の前に在するべく存在して水面を照らす光の一部になっていた。そこで見た景色は色濃く自分の思い出に焼き付けられることを悟った。でもそれは感動をくれたが、それと同時にこの時間は有限であることを暗示しているようにも思えた。
もちろん、帰りも僕が自転車を漕いだ。
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