鐘沢 VS 橘遼

「生意気な後輩の友達は、揃って生意気やなあ。――疾く死ねや」


 吐き捨てるような橘遼の一言。


 そこからの動きは凄まじい早さだった。目にもとまらぬ速さで鐘沢の体に無数の撃閃だけがほとばしる。何かが破裂するかのような強烈な破裂音と共に、鐘沢の体を徐々に後方へと押しやられていく。


「――――――――――がッッッ」


「どや、痛いやろ? やっぱ年下を虐めるのは好きやわ、力の差が如実に現れるもん、なァ!」


「がッ――ッ」


 ドスンッ! と一層力のこもった閃光が鐘沢の腹部にめり込む。拳はそのまま背まで貫くほどの勢いで、鐘沢の体を突き刺していた。


「くく、おもろいなあおもろいなあ。ヒーロー気取りかなんか知らんが、そういう生意気な奴を潰すんはホンマ心地ええわ。ほれ、どけや」


 橘遼は、動かなくなった鐘沢を笑いながら振り払おうとした。


「――まだ・・・だ」


「ああ?」


 しかし、鐘沢はしぶとくも自らを貫かんとする橘遼の拳にしがみつく。

 口元に血を滲ませながら、鋭い眼光で強敵を見据える。


「・・・なんやその目ェ、おまえガチで死にたいんか?」


「言ったでしょ・・・友達の友達維新姜也の友達は、友達俺の友達だって・・・このクラスの人には、危害は加えさせないっすよ・・・俺の命に代えてもね」


 そのまま、鐘沢は小さく詠唱する。


「限定解除――幻影飛雷陣ホロ・ライトニング


 言葉と共に、二人の周囲に雷撃にも似た稲妻が発生する。そして稲妻は二人を円状に囲い、小さなリングを作り上げた。青白い閃光で照らされる不思議な空間によって、二人と1-Aのクラス一員は隔離されたのだ。


「自分にとって有利な状況を作り出すタイプの限定解除、ねえ・・・生意気やわ、ほんと」


 橘遼は少しだけ感心するような顔をして、そのまま――再び無数の打撃を鐘沢に浴びせる。


「こんなんでワイの攻撃を凌げると思ってるあたりが! 誰かを守れるなんて勘違いしてるあたりが! さいっっっっこうに腹立つわァ!!!!!! 」

「ガハッ――」


 鐘沢の限定解除――幻影飛雷陣ホロ・ライトニングは範囲内の人間の行動を制限し、円状の範囲から出てしまった人間に対して致死量の『雷撃』を与える。雷を避ける場所にして、逃げ場のない戦闘場を確保するようなもの。


 つまりそれは、絶対的な力量差によって勝敗が決することを意味していた。


「こんな能力の癖してッ! 肉弾戦に向いてねえお前みたいなクズが、ワイに歯向かってくんなや! ほれッ! どうや苦しいか! なあ!」


 罵倒しながら、止まらない打撃が鐘沢の体を襲う。自らの能力によって制限された行動範囲によって衝撃を外に逃がすこともできず、全てが彼の体にダメージとして蓄積されていた。


「勇気があってもなァ! 力がねえなら意味ないんや! そういうのを無謀っていうんやで!! これで、ホンマに、おしまいやッ――」

 

 七三の髪が崩れ、制服ももはやボロボロになってしまった鐘沢に、橘遼は最後の一撃を繰り出そうとする。


 鐘沢は、またも小さくつぶやいた。


「――雷影・・・万召」


 瞬間、鐘沢の体が稲妻の閃光となって消える。

 橘遼のとどめの一撃は稲妻に打たれた。拳はその影響で焼かれる。


「チッ、変わり身かい――小賢しいやっちゃな・・・


 そういいながら、稲妻に焼かれた拳を瞬間的に治癒させる。能力解除上級者にとって治癒は汎用的な能力であった。


「――で、どないすんの? さっきの技使ったところで、元々狭いこのサークルの中じゃあ逃げようないやん。皆を守りたいならワイを倒すしかないんちゃうん? ま、無理やろうけど」


 鐘沢は、橘遼の背後にやっとの状態で立っていた。雷影万召ライエイバンショウの効果は一時的な変わり身、つまるところ「逃げの一手」。幻影飛雷陣ホロ・ライトニングの一つ目の効果との相性は最悪と言っても良い。

 そもそも、二つの能力は意図して相反的に使われるものである。

 絶対に勝てる相手を逃がさないための幻影飛雷陣ホロ・ライトニング

 絶対に勝てない相手から逃げるための雷影万召ライエイバンショウ


 両者を並行して使用すれば、長所が掻き消えることは自明だった。


 絶望は、加速する。


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