二度目の目覚め
「維新くん、隙あらば気を失ってるわよね・・・まったくもう・・・」
「大丈夫だった? 維新くん・・・ごめんね僕が話しかけちゃったばっかりに・・・」
またも、俺は保健室のベッドで目を覚ます。
「・・・今何時」
「14時よ。前回みたいに何時間も眠ってたわけじゃないから安心して。というか維新くんなんで小刻みに震えてるのよ」
いやトラウマですよトラウマ。保健室で目が覚めて気が付いたら訳の分からないビデオを見せられて・・・ああ、思い出しただけで頭痛くなってきた。
「で、俺はなんでまた気を失ったんだ?」
体育の時間に気を失う種目なんてあったか? 俺は知らんぞ。
そういいながら二人――鈴宮と柚木恋くんのほうを見た。
二人とも丸椅子に腰かけていたが、鈴宮は少しバツが悪そうな横顔を見せる。いつもの長髪をポニーテールで括っていて、普段は隠れているうなじが妙に艶めかしく映った。
「それは・・・その、維新君がよそ見してたからつい・・・バスケットボールを・・・」
いや普通バスケットボールをよそ見してる人間には投げねえよ、
というごく普通のツッコミをしたいところだったが、正直そのレベルの「おかしなこと」は他に起きている「もっとおかしなこと」に比べれば些事たるものなわけで。
「まあ、そんなとこだろうとは思ったよ・・・ったく乱暴この上ねえな」
などと返答してしまう俺だった。俺も「異常」に染まってきているようだ。哀しいね。
首を回し、少し体を動かしてみたところで特に体に問題はなさそうだった。
と、一応、看病してくれたクラスメイトには俺を言ってしかるべきだ。
「君は柚木恋・・・であってるよね? 看病させてしまってごめん・・・いや、ありがとう」
「うん、覚えててくれたんだね、こちらこそありがとうだよ!」
小さく両手を上げて嬉しそうな微笑みを浮かべる柚木くん。
あれ、柚木くん制服に戻ってるけどやっぱ天使みたいだな、男だけど。
男の子だけど!!
「どうしてスゴイ嬉しそうな顔で、体全体から悲しそうなオーラを漂わせているのかしら・・・」
若干引き気味の鈴宮を横目に、俺は柚木君の手をとった。
「ふぇっ!?」
「柚木君、本当にありがとう・・・君が唯一の常識人だ・・・!」
「あわわわわふぇ、あの、僕は――」
柚木君は小動物のようにびくりと跳ね、かわいらしい悲鳴をあげる。
俺は半ば感動しつつ、彼のかわいらしい顔を真っ直ぐ見つめた。
こんな常識人、他にいないもん! この世界でまともなのはこの男の子くらいだろまじで!
突然の事態に混乱したのか、目をぐるぐるとまわす柚木君。何かを言おうとしているがいまいちよく聞き取れない。つーか顔真っ赤だなどうした。
「維新君ちょっと失礼よ、その子は――」
鈴宮が何かを言いかけたその時だった。
「大変だ!!! 維新姜也!!」
保健室の扉が勢いよく開けられ怒号にも似た声が響く。
そこに立っていたのは鐘沢カイト。たまーに俺の席にやってきてぺちゃくちゃ喋っていたあいつだった。
いつもはビジネスマンのようにピシッと決まっている七三分けの髪は崩れ、気品ある制服はところどころ破けてボロボロになっていた。
なんだよ、身ぐるみでもはがされたのか?
「鐘沢? どうしたんだよ急に・・・てかなんでそんなボロボロに・・・」
「細かいことは後だ、と、とにかく教室へ・・・早くっ!」
鐘沢の気迫にそれ以上茶化すことはできなかった。
ぴりつく空気。
不穏な胸騒ぎ。
底知れない不安が、寝起きの俺を襲う。まったく、これだからやってられねえんだよな・・・
鈴宮のうなじといまだ混乱している柚木君を堪能しつつ、そんなことを思った。
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