一難一夜のそのあと

 翌朝、いつも通り気だるげに登校してきた俺を、待ちわびていたかのように二人の美少女が出迎えてくれた。


「おはよう維新くん、今日は珍しく遅かったじゃない、待ちくたびれたわよ。お陰でほら、維新くんの机に私のお尻がのっかって温まっちゃってる。かの有名な秀吉公が懐で信長の草履を温めたのと同じ、さあ、机で私の熱を感じなさい」


「いや信長にも俺にもそんな趣味はねえよ。どんだけ人の温もり求めてんだよ」


 鈴宮の朝っぱらからのボケをさらりと受け流すと、隣の橘が追撃をしかけてくる。


「え、もしかして維新くん、私の温もり求めてたの? ・・・っ、いいよ、維新くんなら、昨日のお詫びもあるし・・・はい、ぎゅ~」


 挟まれる俺。パイ。


「いやぎゅ~じゃないんですよ。まだ登校してきたばかりで荷物も置けてないのにそんな胸に挟まれてももごっ――」


「ちょっと橘さん、あなた相変わらず強引なのよ。維新くんはね、一歩引いて自分のことを棚に上げてくれる超絶美少女の私のような女性が好きなのよ」


「おい鈴宮、お前俺のことを馬鹿にしつつ自分の美しさを自慢したいだけだろ――いや橘さん、だから胸が――ぼふ――」


「維新くん・・・愛してる。胸の底から」


「なんか浅いようで柔らか――ぶふっ」


 おいこいつの脳みそどうなってんだよ、この世のラブコメ映画、ドラマ、漫画、ラノベ全て寄せ集めてもこんな情緒の意味わからねえ奴いねえぞ、多分。


「維新く~ん? なに橘さんのお胸に包まれて恍惚としてるのかしら~? 何? もしかしてまた直々に愛の調教8時間ビデオ視聴コースを堪能したいのかしら~」


「ち、ちが――ばふっ、橘さん――やめて、――俺あのビデオ8時間はきつ――」


「鈴宮さん、悪いけど維新くんはあなたには譲れない。私、まだこっちでは負けてないんだから」


 こっちとはどっちだろう。昨日の戦闘で鈴宮が勝ったのは紛れもない事実なので・・・そうだな、この場合は俺の好感度かむn――


「はい維新くん今私の胸が橘さんに劣ってるとか思ったでしょ懲罰ッ!!!」


「いでええええっ!!!!!――ばふっ」


 つま先を踏んづけられる激痛とその痛みさえ掻き消すように顔を胸に挟まれる悦び(?)

 なにこれ、新手の拷問? 天国と地獄?


 朝っぱらからあまりにも現実離れな学園生活を送っている俺であった。


「・・・おいそこの3人、若さを満喫するのは良いが公然の面前では振る舞いに気をつけなさいよ・・・」


 HRを数分後に控えた教室で、彩音先生があきれ顔でそう言った。


「――あー、あと維新姜也、君はあとで職員室に来なさい。ちと用事がある」


「え、俺ですか?」


「そう、紛れもなく君だ。●●●〇まみれの君だ」


「何エグイ下ネタ言ってんだよ!!! アンタの方がやべえよ!!!!」


 橘さんも鈴宮も軽く引いていた。それくらいに行き過ぎた下ネタであった。しかし当の本人は何食わぬ顔で続ける。


「あーごめん、君はもう一人じゃないんだからそこの二人の●●△――」


「先生俺と職員室に行きましょう、ついでに出頭してしまいましょう! 犯罪が起きてしまう前に!!!!」


 引き続きとんでもない下ネタをぶち込んできた彩音先生を無理くり担いで俺は職員室へと駆ける。先生は案外軽かった。


「維新、キミもしかして私のことが・・・」


 なぜか彩音先生が頬を赤く染める。馬鹿なの??


「私の純潔を奪いたくて・・・」

「結構汚れた願望だなあおい!! どんな目で俺のこと見てんだよ!!」


 結構不純な動機でも頬を赤く染めちゃう先生、意味わからん。


「キミはまるで・・・まるで性獣だ、あ、今のどう? 文学チックじゃない?」

「・・・先生、全国の文学者に謝ってください」

「すいま●●」

「えげつい教師だ!!!!!!!」


 俺は思う。この学園やっぱりろくな人がいないんじゃなかろうかと。


「あーじゃあまあこのついでなんだけどさ、維新姜也」


「なんですか先生・・・」


「キミ宛に新たな決闘の申し出だ。人気者はつらいねえ」


「・・・・・・・・・・・・」


 言葉を失う。しかない。

 

「相手はね・・・えーと誰だったかな・・・あー、あれだ。あのー、三年のあれ。名前が・・・」


 もはやいわずもがな、だが。


「橘の兄貴で確か名前が・・・リョウとか言ったかな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「まあ先生はリョナまで守備範囲だ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 絶句のバーゲンセール。


 鐘沢カイトの言葉を思い出す。

 3つの勢力・・・ね。


 俺には、逃げようのない選択が強いられているようだった。

 

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