ファミレス令嬢会議
もぐもぐ
もぐもぐもぐ
ステーキとライスを同時にかきこむ財閥のご令嬢――鈴宮凛。
「どうしたの維新君ぼーっとしちゃって、折角の料理が冷めるわよ? あ、この付け合わせとっても美味しい。ソテーとはまた違うような、いえもしかしてこれは――」
「・・・・・・はむ」
俺はいまだ呆然としつつ、卓上に置かれたライスを口に含む。ジュージューと胃袋を刺激する鉄板とステーキを食べるにはまだ何も片付いていなった。胃というか脳の容量の方がマックスである。
「あのさ、鈴宮」
「ん? わにひしんすん(なに維新君)」
飲み込んでからでいいけどね。
「えーと、聞きたいことは色々あるんだが・・・」
そもそもあの場に有られた経緯とか、全解除をつかえる件とか橘の正体のこととか山のように疑問符は浮かぶ。が、それよりもまず第一に――
「どうしてファミレスに来てんだよっ!!!!!!!学生の帰り道デートじゃねえんだぞ!!!!!!!!」
「えー? 別によくないかしら? 私ここの「フリースタイルステーキ(500グラム)ライスお替り自由セット」が好きなのよね。はむ、ん~おいひ~」
俺の大声すら掻き消されるほど賑やかなファミレス。鈴宮は俺の疑問など介さずなおもステーキとライスを頬張り続ける。ライスに至ってはもう3杯目のおかわりであった。
徐に、鈴宮は俺の独行を指摘する。
「橘さんの件、調査したいなら堂々とすべきだったわね。火を隠すには森の中っていうじゃない? 暗闇は光の下で暴くべきなんだから」
「それを言うなら木だよ、木」
火を森の中で隠したらただの山火事じゃねえか。
鉄板の上で叫ぶステーキを見つめる。
揚げ足を取ってしまったが、鈴宮の言うことにも一理はある。わざわざ黒赤軍の土俵に上がってやる必要はなかったのかもしれない。鈴宮が居なければ俺はあのまま、――死んでいたのだろう。
「維新君ってほんと単独行動好きよね。私に相談してくれてれば、あんな危険な目に合う必要もなかったのに」
「・・・鈴宮は橘の正体を知ってたのか?」
俺の言葉に、ようやく鈴宮はナイフとフォークの動きを止めた。
その髪はいつもと同じ紫がかった艶やかな髪で、その瞳は光沢のある黒き瞳だった。
「最初から全部知ってたわけじゃないわ。彼女が維新君に接触したときから妙な違和感はあって、そこから財閥のネットワークを駆使して彼女の正体を突き止めたって感じね。今日だって補修の後、抜け駆けで維新君の元に行こうとしてたから後をつけてみればあの様・・・思わぬ副産物だったってわけ」
ふふんと、胸を張ってからまた彼女はステーキを食べだした。随分冷徹な食いしん坊令嬢である。・・・属性多すぎんだろ、まったく。
「で、結局橘は何者なんだ?」
橘楓、黒赤軍、その存在自体がなぞに包まれている。
「あーごめん、残念だけど橘さんが所属してる軍団――"黒赤軍"だったっけ? それについては良く分かってないの。相当隠匿されてるみたいね。まあ、だから私が知ってるのは橘さんの素性だけよ」
「それでもいい、正直何がなんだかさっぱりなんだ」
「うーん、じゃあ――1つだけ条件、飲んでくれる?」
またも不遜な笑み。誘惑するような小悪魔の微笑み。
が、命の恩人と言っても差支えないレベルで助けられてしまった分の借りを返さねばならぬ。――人から借りを作ったままは御免だ。
「ああ、いいぜ別に」
「やった~♡」
「ただし、彼氏になってとか言うのは無しな。あくまで一定の時間内で、行動を伴う何かだけだ」
念のため、予防線は貼っておく。パシリとかなら喜んでやってやろう。
多少はいじけるかと思ったが、鈴宮は――意外なお願いをしてきた。
断る理由もなかった。
「ふふっ、維新君♡ 男に二言はないからね♡」
「・・・はいはい」
また胃もたれしそうなハートをたっぷりお見舞いしてくれやがった。
そんなこんなで語られる橘の素性は、俺の想定を遥かに超える壮絶なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます