たった一人の姉貴
散々な放課後を終え、家に帰った俺はバタンキューでベッドに入った。
はっきり言ってヘトヘトだ。この上なく疲れた。肉体的にも本調子じゃないのに散々な放課後・・・精神的に参ってしまうぜ。
ピロン
「・・・?」
枕に顔を埋めていた俺を電子音が呼んでいる。・・・ポケットのスマホだ。
頼むから厄介ごとであってくれるな。
そう思いながらスマホを開くと――
「姉貴か・・・」
姉貴からのメッセージだった。
――決闘、どうだった~? ばっちり勝ったか~? 姜也ならきっと勝つだろうってことで私は昨日の時点で宴を開いていたぞ~あはは~
負けていた時の返答を考慮してなさそうな、いつもの姉貴らしい文章だった。おまけに酒盛りしている写真までついていやがる。姉貴のマネージャー?らしき付き人と、よくわからない地位の高そうな方々と随分楽しそうにしているようだ。
全くもって心配などしていないが、楽しくやれてるようでなによりだ。いくら完全無欠最強の姉貴とはいえ、海外に行くとなればそれ相応に心配になってしまうのが弟というものだろう。・・・まあ実の弟ではないが。
ブラックジョークもほどほどに、俺は姉貴に返信する。
――なんとか勝ったよ。平穏な学園生活はまだ送れそうにないけど・・・
鈴宮に、橘さん。どちらもこの上なく可愛いスペシャルなクラスメイトであることに変わりはないんだが、如何せんあそこまでグイグイ来られるとこちらとしてもどう対処したらいいのかわからん。姉貴にメッセージを送ってから、そんなことを考える。
・・・俺はそもそも二人のことをほとんど知らないしな・・・
中学の時から、別に友達がたくさんいたわけじゃない。人と仲良くなるとかそういう関係になるっていうこと自体、俺にとっては縁遠い話だと思っている。
俺に、維新姜也に必要なのは、求められているものは「絶対的な強さ」以外に他ならないのだから。
維新鳳仙の弟として、維新家の正統な跡継ぎとして、俺は・・・
また、スマホが軽快な電子音を鳴らす。
――恋に戦いに勉強に、遊びつくせよ~姜也! 後悔しないようにな! 姉ちゃんは先に待ってるぞー!
思ったより早い返信だった。案外忙しくないのだろうか。
・・・いや、違うな。姉貴はいつも俺を心配してくれた。決闘後にすぐ連絡してこなかったのも、俺のことを気遣ってのことなのかもしれない。
姉貴は、そういう人だ。単純そうに見えて実は繊細な、俺のたった一人の姉貴。
少し疲れていたからか、一瞬だけ意識が飛びそうになる。
「――ごめんな姜也、姉ちゃん、不甲斐ないよね・・・ごめんな・・・もっと、もっと強くなるからな・・・」
不意に、幼い日の記憶がフラッシュバックした。俺がまだ小学校に上がるよりも幼いころ・・・俺と姉貴は、泣いていた。今や人類最強を騙っても不思議ではない姉貴が泣いていた。
・・・あれからだろうか、姉貴が泣かなくなったのは。
なんて、眠気と共に変な干渉に浸ってしまった。人は変わる。それはごく自然なことで、特別なことではない。俺が変わってきたように、姉貴も変わる。それだけのことだ。
「恋に戦いに勉強に・・・か」
姉貴のメッセージを見返す。
俺は、人を好きになるのが怖かった。誰かを好きになるということは、誰かを頼るということは、裏返せば究極的な弱さに直結するからだ。
「俺にはなかなか難しいぜ・・・姉貴」
ナイーブになりそうな気持を必死に押さえつけながら、俺は瞳を閉じて眠りにつく。
今日は、早く寝よう。明日からもきっと騒々しい日々が俺を待っているのだから。
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