雄厳学園の首席
現雄厳学園首席――疾風猛(ハヤテ タケル)とその右腕――鋼巌(ハガネ ゲン)は決闘の観客席に居た
「勝者、維新姜也ッ!!!」
決闘の終わりを告げるホイッスルと、勝者の確定宣言が聞こえる。観客席は大きく湧いていた。
――新入生同士の決闘見に行かねえか?
巌が僕を誘ってくれて、急遽見に来た決闘だった。
まあ、入学早々新入生同士でやり合う、というだけでも僕にとっては十分面白そうだった。それに加えて、決闘者として彼が出場するんだから猶更見に行かない理由はなかった。
そんなこんなで、決闘の一部始終を僕らは観客席で見ていた。敗者はビビって気絶しているし、勝者の方も出血で気を失っている。『維新姜也を退学させ隊』とやらの残りのメンバーは、ただただ担架で運ばれる二人を呆然と見つめているだけだ。
勝者の傍らには、必死に叫ぶあの女の姿も見える。
「随分退屈だったなぁ、この決闘。俺はもっと血湧き肉躍る決闘が見れると思ってたのによお。ったく、限定解除にビビって降参とか拍子抜けだぜ。なぁ? 猛」
隣で大箱に入ったポップコーンを食べている巌(ゲン)。校則を堂々と破って黒タンクトップ一枚の姿はやけに目立つが、まあ巌が制服を着たら制服を破ってしまうのだから仕方がない。それくらいに彼の筋肉は以上に発達している。
「んー、大乱闘でもなし、たかだが2,3分の決闘だったと思えば、それほどワクワクする戦いではなかったかもしれないね、でも――」
口ごもる僕に、巌は訝し気な顔をした。
「なんだ、かわい子ちゃんでも見つけたのか?」
「ま、そんなとこかねぇ」
「猛は大体趣味が悪いからなあ。この前の全校決闘の時だって、訳の分かんねえ奴に目付けてボコボコにして・・・あいつあの後自主退学したらしいぜ」
ふむ、そんなことがあったかな、と一瞬だけ巌の言葉に耳を傾けるが、どうにもそんな記憶はない。多分、それほどにどうでも良いことだったのだろう。
注目して期待して、結果何も期待することなど無かったのだと判明しただけ。そんな人間に僕の貴重な記憶容量を取られては困るのだ。
「維新姜也・・・ね」
たかだか数分の決闘であることに変わりはないが、その数分に隠れている裏の策略の方が僕の興味をそそった。1対15という圧倒的な数的不利を覆し、ワンマン対決に持ち込んだ事前策。どれほどの観客が気付いているのかは分からないが、確実に何か策略があったに違いない。――決闘の序盤で維新姜也にスパイクで蹴飛ばされ、うずくまっていた大柄な男が今では呆然と立ち尽くしているし。
「巌みたいな脳筋同士が戦う決闘も良いけど、やっぱり戦いは策あってこそだからね。久々に僕は満足だよ」
「ん……? 俺様馬鹿にされてる……?」
ポップコーンをこぼす巌。
「そういうとこも君の良いところさ」
「おー、なんだやっぱ勘違いかァ、ガハハ、よしよし」
巌はまたすごい勢いでポップコーンを食べ始めた。随分機嫌が良いらしい。
「本日の決闘は、維新姜維の勝利を以て、終了となります。皆さまお気をつけてお帰りください。なお明日以降の――」
場内アナウンスが聞こえてくる。僕の周りにいた観客たちもぞろぞろと撤収していくようだ。
いつか、彼と戦いたい。僕は不意にそう思ってしまった。
「……もっと上まで上がってきなよ、維新くん。待ってるから――」
去り際に、届くはずもない言葉をかける。
「お、あんなとこで売り子がフライドチキン売ってるぜ! 行こうぜ猛!」
巌が観客席の人ごみの中から何かを見つけたらしい。少し気分が良いから、今日は付き合ってもいいだろう。
「あぁ、行くよ、巌」
維新姜也。
必ず僕は、君を―――――――――
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