1対14

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 眼前に、男たちの群れ。

 ああ、儚いものだなと思った。男たちは皆それぞれに武器を持っている。勿論殺傷性は低い武器だ、木刀なり木製の槍なり鎚なりと、とにかく木製ばかり。

 木製なら人を殴っていい、という話にはならないだろうと俺は思うのだが。


 しかしまあ、これが決闘なのだから、仕方ない。

 こういうものだと崇めるからこそ、決闘は決闘足りえるのだ。


 万事を叶える契機として、決闘が存在し続けることが出来るのだ。


――絶対的な力こそ、世界を統べるのに必要不可欠な要素であり、能力である――


 脳裏に言葉が浮かぶ。いつだったか、誰だったか、よく覚えてはいないがその言葉に強く共感する。


 強くなければ、力がなければ、何かを成すことなんて出来やしない。何も為せず、何も得れず、ただ奪われるのみ。


 だから、俺は強くならねばならない。


「おりゃああああああああああああああああ」


 前方から先鋒まず一枚。

 上段構えの剣士――というにはまだあどけなさが残る、巨漢。


「――――」


 振り下ろされる一太刀を、最小限の横移動で避ける。


 強くあるということは、戦い方を知っているということである。

 兵法とは、常に自らを変幻自在に操ることによってのみ体現される。


「まず一人、――っと」


 渾身の一太刀を避けられ、大きな隙を見せたその男を俺は蹴飛ばした。

 蹴飛ばされた男は少しばかり跳ねてグラウンドに転がった。

 別に何のことはない、ただの凡人による蹴りである。すぐに起き上がって反撃の鋭い目を向けてくるのが関の山。


 そう、思うだろう。

 そう思わせれたのなら、俺の勝ちだ。


「う、う、うお、お」

「おいどうした館山!」


 敵将――立昇とか言ったか――が俺に蹴飛ばされた男に声をかける。周りの男たちもそれに続く。

 蹴飛ばされた男はうずくまり、もだえ苦しむような声を上げていた。


「おまえ、館山に何をした!!!」


「何って別に、正当防衛だけど?」


「う。ううううううああああああああああああああああああ」


 館山くん――蹴飛ばさせてもらった男が非常に良いうめき声をあげてくれる。その声に残りの勇士14名は少し後ずさる。先ほどまで俺を潰す勢いで駆けてきていたというのに。


 怯え、それは戦場において死を意味するほど強烈な負の要素。彼らはそれを持ってしまった。


「た、館山、大丈夫か・・・!」


「た、たいちょ・・・うぁあああああああああああ! 血、血だあああああああああああこいつスパイクで俺を、俺をぉおおおおおおおお」


 館山が渾身の動きで両手を真っ赤に染め、更に痛がり呻きを上げる。鮮やかすぎる赤に、完全に残された勇士の戦意は削がれたようだった。

 いやしかし、なぜだろうな。館山くんは『維新姜也を退学させ隊』の中で一番体が大きく力もありそうな体型だ。どうしてこうは考えないのだろう。


 ――なぜ館山くんが先陣を切って俺に、一人で斬りかかってきたのか、と


 それを考えれば答えはすぐに出そうなものなのに、と哀れに思いながら、俺は次の手を打つ。


「ああ、これか、わりーな。君らが武器持ってるから、俺も武器持ってきちゃった」


 言って、靴の裏側をひらひらと躍らせて見せた。


「―――――ッ!」


 瞬間、敵14名は絶句する。それもそうだろう。俺の靴の裏には鋭利な棘が生えていた。スパイク、なんて生易しいレベルではない。もはや人を攻撃するために用意されているかのような棘靴。――なんか棘靴ってありそうだな。


「あんな蹴りでも結構えぐれちゃうのか~、良い買い物しちゃったわ・・・ほらほら、もう少し楽しませてよ。まとめてきてくれてもいいぜ?」


 最大限の余裕をもって、この上なく厭味ったらしい笑みを浮かべながら、俺は挑発する。


「維新姜也、き、貴様・・・!」


「立昇だっけ? なあ、来いよ、大将だろ? 仲間が傷ついてるぞ、怯えてるぞ、大将のお前が頑張らなきゃ、そうだろ? さあ、来いよ!」


 さも俺が悪役のように映っているが念のため伝えておく。

 

 この勝負、端から14対1という至極卑劣な人数差のある決闘なのである。


 なればこそ、必要なのはこういう駆け引き。


 乗ってこい、立昇。ここまでの運びは完璧だ。予想通りだ。

 最悪な展開はここからの乱戦。だが、だがもし

 立昇との一騎打ちさえ出来れば――


 俺の必勝の策が火を噴こうとしている。

 体中から吹き出る嫌な冷や汗を感じながら、それでも俺は虚勢を張って立昇を挑発する。こいつは、立昇ジンという男は、――


「なあ! 鈴宮に惚れてるだけの立昇! ここで俺を倒して、鈴宮にかっこいいとこ見せねえとだよなあ! 俺から奪わねえとだよなあ!」


「―――――――――――貴様」


 ――乗ってきた、よっしゃ


 立昇の目つきが明らかに変わった。それまでの隊長としての威厳や優しさをかなぐり捨てた、ただ殺気だけを纏った目になった瞬間、俺は勝ちに近づいたのを感じた。


 だが、そんな慢心よりも先に、とっくの先に――

 

 立昇の懐から抜かれた鋭い刀によって、俺の腹部は貫かれていた。


「―――っ、は」


「維新姜也、俺は貴様を倒すといったな。あれは撤回する。俺は貴様を――この場で殺すッ」


 ・・・おいおい、この学校、ほんとにろくでもねえ奴しかいねえのか。勿論、俺含め・・・

 

 

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