決闘の3日前

 3日前、教務室。

 彩音先生は深刻そうな顔で俺に告げた。


「決闘方法は、組手だそうだ」


「・・・組手・・・」


「なかなかに厳しい条件だが、まあ頑張れ」


「いやいやいや。何をどう考慮したら1対15の組手になるんですか。誰が決めたんすかそれ!」


「うーん、私も詳しいことは知らないん。この学園には決闘委員会ってのがあってな、教員や理事会の干渉を受けない独立した機関なんだよ。そこからの通達だとしか言えない」


「決闘委員会・・・」


 殴り込みにでも行ってやりたいが、正直無茶苦茶強そうじゃねえか・・・

 にしても、1対15の組手とか聞いたことねえ。勝てる気もしねえ!!!


「ま、そんなわけだから、残りの学園生活をしっかり楽しめよ! 性年!」


「いや勝手に退学する前提で話を進めるな!」


 性年の方にもツッコミたかった。


「ふふ、まあ君のことだ。どうせ何だかんだで勝ってしまうんだろうな」


 彩音先生は煙草をふかしながら、にやついていた。

 何だこの先生マジで。


「・・・まったくその自信はありませんが」

「なに、君があの鳳仙の弟だということは私でも知っている。きっと決闘委員会もそのことを考慮して、君に不利な決闘内容にしたんだろう。維新鳳仙の弟、――入学試験で最高得点をたたき出して入学した"維新姜也"という男を試すために」


「・・・立派な姉を持つと、ろくなことにならないですね」


 姉貴の顔が浮かぶ。まあ、姉貴によって助けられてきた生活だが、同時に姉貴の影が俺の後ろにはチラついている。それはどうにも、重苦しい。


「ま、いくらなんでもこの決闘内容は厳しい気はしているよ。もし負けたら私が何とか掛け合ってみよう。退学は阻止できなくとも、別の入学先なり就職先なりを用意できるはずだ。路頭に迷わせることはないと誓おう」


 思ったより真剣な顔で言う彩音先生。ビッチ教師かと思ったがそれなりに甲斐性はあるらしい。


「ありがとうございます。ただ、負ける気もないです」


 退学になったら、雄厳学園に居られなくなったら、俺が生きている価値は何もない。

 俺は俺の野望を叶えるためだけに雄厳学園に入ったんだ。こんなところで退学になるわけにはいかない。どんな手を使っても、俺は勝つ。


「・・・はは、いい目だ。鳳仙を思い出すね」


「先生、姉貴と知り合いでしたっけ?」


「ん? ああいってなかったか。私と鳳仙は竿姉妹――」


「聞きたくなかったぜ!!!!!」


「冗談冗談、ユリだよ百合」


「それもそれでモヤモヤするなあ!!!」


 相変わらず倫理のねじが外れている担任であった。後で聞いた話だが、彩音先生は姉貴の在学時代の副担任だったらしい。


 まあ、そんなこんなで俺は大多数組手に向けた軍議を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る