第二章 維新姜維の真価
一夜明けて
「よ、維新姜也。昨日は散々だったみたいじゃないか。聞いたぜ、クラスの男子全員から決闘を挑まれたんだってな。入学早々決闘が見れるって学校中が大騒ぎだぜ。決闘内容ってもう決まってんのか? コッソリ俺に教えてくれよ」
「・・・・・・誰だよあんた」
翌朝、つまるところ入学して2日目の俺の前に、見知らぬ顔の男が立っていた。HR前の教室には俺と子の謎の男以外に居なかった。・・・来るのが早すぎたか。
鞄の中身を机の中に移しながら、適当に相手するか。
「おいおい、酷いじゃないか。あんだけ熱い激闘を広げた仲だってのに、俺のこと忘れたのか?」
「激闘・・・?」
なんだ? 昨日の暴漢か? と思ったが、嫌々こいつの全身を眺めていると、思いあたる節を見つけてしまった。スラっとした体躯に、サラサラヘアー。ビジネスマンかよこいつ。
「俺だよ、鐘沢カイト。入学試験ではお前にやられたけど、俺も合格したんだよ。いやービックリだよな。まさか対人試験で敗北しても合格しちゃうなんて、もしかして、いやもしかしなくても俺って天賦の才がある感じか?」
「あー、はいはい、あんたは天才天才。よかったな。よし、帰れ」」
名前までは正直覚えていなかったが、確かに俺はこいつに身ぼおえがあった。
まさに今この場である雄厳学園の入学試験で、俺とこの面倒くさい輩は「対人試験」で対峙していたのだ。まあ、要は力比べみたいなもので、形式自由の戦闘である。
突然、我に返った鐘沢は俺を指差した。
「てか維新姜也! お前あの入学試験の後連絡の一つくらいよこせよ! あの試験の怪我で俺3か月入院だったんだぞ! おかげで体力も筋力も落ちたし、入学早々困難をしいられてんだ! 詫びのメールの一通や二通、見舞金の支援諸々してくれてもいいんじゃあねえのか!?」
そういえば、試験の後にぼろぼろになって担架で運ばれていく男から連絡先を貰ったような気がしなくもない。メモ帳の切れ端みたいなものだったから捨ててしまったが・・・というか、そんな方法で連絡先を渡すのはせいぜいナンパ師くらいのものだろう。
「あぁ、あの件は悪かった。少ないがこれで見舞金としてくれ。いくら試験とは言え、お前を完全にボコボコにしすぎて、試験官たちの強制的な試験終了の合図がなかったらお前はもう二度と俺の前には立てなかったかもしれないが、本当にすまなかった」
「おい謝罪にかこつけて煽ってんじゃねえよ!・・・ったく、見舞金よこすならもっと早く・・・っておいったったの120円じゃねえか! おちょくってんのかお前!」
「おちょくってはねえ。ボコボコにしたんだ」
「うるせえ!!!!」
めんどくさい奴に絡まれたと思っていたが、なんだかおもしろい奴だった。煽りがいがある。
「というか大体、あんただって俺と同じで"武闘派"じゃないんだからケガしたところで衰えるものはないだろ」
俺が知っている限り――といっても入学試験でのみだが――この鐘沢カイトという男は知恵で戦うタイプだ。形式自由の対人試験を経て、この男の知略には一目置く価値があると俺は思っている。智は何よりも尊い力だ。
「いや維新姜也、お前はメチャクチャ武闘派だよ・・・俺だって並以上の体術は心得ているつもりだ。試験とはいえあそこまでボコボコにされてたまるかよ・・・」
「・・・まあ、そういうこともある。同じ学校になったのも何かの縁だ。よろしく。
。よし帰れ」
「お前さっきから冷たくね!? とにかく俺を帰らそうとしてない!?」
だからそう言ってるじゃないか。帰れと。誰かは分かったからもう帰ってくれ。そして俺の平穏な学園生活をこれ以上騒がしくしないでくれ。ただでさえ今日は――
「維新くぅ~ん! おはよ~♡」
俺の席は窓際にある。つまり窓際からは学園に登校してくる生徒たちの様子が見えるわけだ。後はもう、言うまでもなかろう。例の彼女のご登校である。
学園の門を通り過ぎて、鈴宮は2階の俺に向けて手を振っている。
おかしい、俺は昨日あそこであの女から決闘(正式ではないが)を申し込まれたんだぞ。なんであいつ周りの目も気にせず、あんなニコニコでぴょんぴょん跳ねながら、手を振ってるんだ。無駄にかわいいのが腹立つ。無駄に。
「え、あれ鈴宮財閥の令嬢じゃ・・・おい維新姜也おまえ・・・」
「もうそれ以上言ってくれるな。俺が決闘を申し込まれた理由があれだ。さあ帰れ」
「も、もしかしてお前ら!! で、デキて――」
「いやそうじゃねえよ!!! めんどくせえなあ!! もういい! 帰れ!!」
「イクとこまでいって――」
「いってねえ! 何だよお前ウチの担任と気が合いそうだなあおい!! ハウスだ!!」
俺たちの会話がヒートアップするのに合わせて、周りも徐々に騒がしくなってきた。ぞろぞろと俺たち1-Aのクラスメイトたちが教室に入ってくる。昨日に引き続き、男女問わず、痛寒い視線が俺に常時向けられているわけだが、鐘沢という男はそんな俺を見て、
「お前、結構人気者なんだな」
と感心するように言っていた。おいぶっ飛ばすぞお前。
「どこがだよ、男子なんか『維新姜也を退学させ隊』なんて集団を形成してるんだぞ」
「いや、そりゃ男子は嫉妬するぜ、こんな状況なら」
「・・・?」
なんだかよくわからないやつだ。
「お前を見る目が間違いなく獲物を狩る眼だもんな」
「男に狩られてもねえ・・・」
「・・・? お前もしかして気付いてない――ってやべえ! そろそろ戻らねえと室長に殺される!! じゃあな維新姜也! うらやまうらめしいがハーレムはお前に譲ってやるぜ!」
言いながら、鐘沢は爆速で自分のクラスへと戻っていった。
男どもに狙われることをハーレムとは言わねえだろ・・・そう思いながら、俺は一つ小さなため息をついた。開けた窓からさわやかな春の風が流れ込んでくる。
・・・でも、なんで俺は男子はともかく"女子"からも鋭い視線を浴びせられてるんだろうな。なんか、よくわかんねえよ・・・
俺は静かに学園生活を送りたい。
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