第三話 強襲 VS 強襲
健全(?)な"ぱふぱふ"によって強制的に下校を余儀なくされた俺。とんでも美少女との下校である。誰か助けて。
「維新くん知ってる? 学生同士の"決闘"の勝者に与えられる権限」
「・・・知ってるよ、あれだろ。"勝者に敗者は絶対服従"ってやつだろ」
コクリ、とまたもいやらしい笑みで頷く鈴宮。さっきのぱふぱふのせいもあってか俺は鈴宮の顔をそう何度も直視できず、チラチラ見ちゃう男になっていた。いや別に照れているわけではない。
「勝者がどんな要求をしようとも、敗者は従わなければならない。これって何気に凄いことよね。パシリとか宿題代行とかなんでもやりたい放題じゃない」
「・・・やけに控えめな願いだな」
「そりゃ勿論えぐいくらいにドン引きするような要求だってしたいわよ? 例えば、そうね――」
――強制的に彼女彼氏になってもらう、とかね
「・・・強制カップルね」
そういいながら、鈴宮の顔をチラ見したとき、一瞬だけ彼女が照れているようにも見えた。自信満々で不遜な憎たらしい表情ではなく、照れるように俯いて、頬を少し赤く染める。やや紫色の髪が風になびいて、いつになく魅力的に見えた。
こいつも、そういうまともな感情あるんだな。まあ、いくら可愛くてスタイルが良くても、この性格じゃあ相手がかわいそうだが。
出会い頭で決闘挑んでくるような彼女嫌に決まってるだろう。なあ諸君。
「で、付き合ったらイチャイチャして、それでそれで・・・あんなことやこんなことも・・・しまいには・・・キャー、考えただけで動機が♡」
随分ウブな女の子ですね、鈴宮さん。と、一人盛り上がる鈴宮を横目に、俺は平然無常で歩き続ける。俺。一刻も早く家に帰りたいので、あなたの惚気に付き合ってる場合でもないんですよね・・・
「ま、そういうわけだから、こんなとこで負けて退学とかになったりしないでよね。維新くん♡」
「? どういうわけだよ・・・つか、いくらなんでも退学にはならないだろ・・・」
クラスメイト相手に決闘申し込むだけでもぶっ飛んでるが、その勝敗如何で退学させられるなんてたまったもんじゃない。そこまでイカれたクラスメイトではないだろう、多分。
「どうかしら。昼休み、維新くん一人で屋上ボッチランチをキメている時、クラスでは『維新姜也を退学させる隊』が出来上がったって話よ。あくまでクラスの女子友から聞いた話だけどね」
「は!?まじ・・・?」
前言撤回である、俺はイカれたクラスメイトたちに囲まれているようである。冷静に考えてやばいな、いろんな意味で。
「・・・ん? というかなんで鈴宮は俺が屋上で飯食ってたこと知ってるんだ?」
俺がボッチなのは朝の一件で周知とはいえ、俺の所在までは分からないのが普通だろう。そもそもこの学園の広さは並大抵のそれではないし、各学年30近いクラスがひしめく学園のなかで、個人を特定するのは簡単ではない。せいぜいストーキングでもしてないと無理だろう。
「あ、いや、それは・・・」
「それは・・・?」
「維新くんみたいなボッチってオーラ出てるじゃない? あれよあれ」
「出てねえようるせえな」
「と、とにかく、別に維新君のことを追いかけてたら屋上まで言っちゃってて、流石に攻めすぎかな~とか思って日和っちゃったわけじゃないから! 違うから!」
なぜかぷいっとそっぽを向いてしまう鈴宮。なんでだよ・・・別にそんなこと疑ってねえよ。
「・・・ばか」
「おいシンプルに罵倒すんなよ・・・まあ別にそっちは良いとして、男子ども俺を退学させようとしてんのかよ。イカれてるぜ・・・一体俺が何をしたって言うんだ・・・」
「学園一の美少女 鈴宮凛 に淫行したからじゃない?」
「してねえよ! 大体あれはお前が――」
お前が俺にキスをしたんだろう、と言いかけて、その記憶が鮮明によみがえる。柔らかい唇の感触と溶け合ってしまいそうな距離感。思い出すだけで少し恥ずかしい気分になってしまう。
「お前が、なにしたんですっけね~ふふ、かわいい維新くん♡」
「チッ、とぼけやがって・・・」
そろそろこのうんざりしそうな応酬を辞めて、鈴宮を置いて家まで一直線で走ろうかと思った、その時だった。
「ちょっと待ってもらおうか!」
背後から、選手宣誓でもするのかという元気のよい声が聞こえてきた。
声の主はあからさまに男である。
「・・・・・・・・(無視)」
「維新くん、待たないの?」
「おい、ちょっと待ってもらおうか!」
「・・・・・・・・・・・・・・(無視)」
「・・・・・・・・・・・・・・(私も無視でいいか)」
俺は学習している。ちょっと待てと言われて待つのは愚かであると。大体ろくなことじゃないのだから無視でおけ。鈴宮も黙って俺についてきているようだ。
「待てって言ってんだろうがぁぁぁぁっ!!!!!」
だが、この時俺は知らなかった。
待たなくても、それなりに不都合はあるものだと。
次の瞬間、
耳をつんざくような叫び声と共に、俺の眼前にそいつは現れた。
音を置き去りにして、俺の前に立ちふさがり、そして――
「無視してんじゃ、ねええええええええええええええええ!!!!!!!」
そいつは、振りかぶった渾身の右ストレートを俺の顔目掛けて放っていたのである。
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