第一章 維新姜維の災難
第一話 入学早々大事件
20XX年、今からそう遠くない時代。
突如台頭した全世界を統べる権力者"大皇帝"により制定された国際条約――「S.P.W(学生による代理戦争)」
国同士の争いを無くすために制定されたこの条約により、各国の争いは劇的に減少した。
一方で、代理戦争の代表となる学生たちには国を背負って戦う使命と責任が課せられることとなり、各国では代表となる学生の育成、選出に躍起になっていた・・・
そんな熾烈な代理戦争の勝敗を決める方法はただ一つ。
広義での決闘
代表者同士の合意により成立した対戦方法と勝利条件によって、国同士の戦争が行われる。そしてその結果の如何によって国同士の争いごとや条約の条件が締結されていく。
俺が通う「全世界法人雄厳学園(日本呼称)」は「代理戦争の代表者たちが集う養成機関」兼「代理戦争の常時開催場所」として設立された。
いわば、代理戦争のために作られた学校に俺は通っているのである。日々行うのは"決闘"に備えるための高度な学習と身体能力向上のための訓練。実際のところ超高校級の教育機関、といっても差支えはないように思う。ある意味自由な校風で、環境自体は全世界共同出資の学園だけあって素晴らしい。
なぜなら至上命題はただ一つ。
代理戦争での勝利だからである。
勝てば官軍、負ければ賊軍。弱肉強食を地でいく学園に、俺は入学することになった。
が、入学早々大事件。
そう、ホントに早々である。なんなら厳密には入学式前である。
「あなた、維新姜也くんよね。ちょっと用があるんだけど良いかしら」
「は?」
意気揚々と学園の門をくぐろうとしていた俺を呼び止めたのは、同じ制服を着ている女子だった。雄厳学園の制服は特徴的で、普通のセーラー服をベースにしつつ重厚な金色のラインがいたるところに張り巡らされている。いかにも「全世界共通出資」の豪華さを感じさせる。
が、それ以上に目についたのは、彼女の風貌だった。仁王立ちで俺をまっすぐ見つめる彼女の瞳は力強く、それでいて美しい瞳。やや紫がかったのロングヘアーを風になびかせながら、凛とした立ち姿だった。
いやしかし、このままでは入学式に遅れてしまう。腕時計は登園指定時刻をすでに5分ほど過ぎていた。
「私と勝負しましょう。今、ここで」
「・・・」
なーにいってんのこの人。
「ちょ、ま、待ちなさい!」
「いやすんません、俺急いでるんで」
「に、逃げるのですか! というか待ちなさいよ!」
逃げるも何も入学式に遅れる方がまずい。そもそも見知らぬ女子生徒と戦う習性など俺にはない。無視してそのまま俺は歩を進める。玄関口には新入生のクラス分け表が掲示されていた。
俺のクラスは1-Aと記載されていた。まあ、適当な振り分けだろうが悪くない気分だ。
「1-Aか」
「1-Aね」
・・・・・・
聞かなかったことにしよう。きっと空耳である。
「維新くん、もしかして私と――」
「いえ、人違いです」
「いや人違いというか維新姜也くんよね、あなた・・・」
「いえ、同性同名の別人です」
「そんな珍しい名前で同性同名の人なんているかしら・・・」
「いて・・・くれッ!!」
「なんで懇願しているの・・・」
もう祈るしかなかった。
こんな出会い頭で決闘を申し込んでくるような奴に目をつけられたまま学園生活を送るなんて御免だ。
決闘、それはこの学園の至上命題で、すべてだ。
安請け合いしていいものではないのだ。
「とにかく、同じクラスになるのなら、この戦いの続きは入学後かしらね」
「できれば入学後も御免被りたい・・・つかあなたは誰ですか?」
「あぁ、名乗ってなかったわね。私は鈴宮 凛、よろしくね」
「・・・よろしく」
よろしく言うよりも先に決闘申し込んでくるような人とこの先仲良くできるだろうか。いや、無理だ。
「さて、それでは教室へ急ぎましょうか」
誰のせいで遅れてると思ってんだよ、と内心ツッコミながら俺は鈴宮と廊下を歩きだした。1-Aの教室はもうすぐそこだった。
「――あ、そうだ、維新くん」
「ん?」
「これ、前哨戦だから――」
「は――」
何言ってんだ、と俺が言葉をつづける前に、俺の視界と体の自由が一時的に奪われる。
「ん」
「んんんんんん!?」
眼前には鈴宮の顔だけがあって、彼女の唇が俺の唇にしっかりよろしくくっついていた。そして、俺の体は鈴宮に抱きくるめられるように縛られて、一切の身動きが封じられる。
柔らかい唇の感触、優しい香り。一気に頭がぼうっとする。
「ん……キス、初めてだった?」
「ば、ばばばばばばばか何してんだよいきなり!」
少し赤らむ顔で俺に問う鈴宮。なんだこいつ! 無茶苦茶ビッチなのか! 初対面だぞ! 初対面!
「安心して、私も初めてだったから」
「ッ――は、初めてっておま――」
俺の頬が最高潮に熱を持つ。唇は離れたが体はまだしっかりと密着していた。
もうここからどうしたらいいのかわからない、なんだ、学校辞めて夜の街にでも繰り出せばいいのか?
訳の分からない思考が脳を覆う、その刹那だった。
1-Aの教室の扉がガラガラと開く。
「お前らもうHR始まってんぞー、担任居ないから別にいいけど、時間は――」
「あ」
「え、お前ら・・・え? え?」
教室から出てきた男子生徒は俺と鈴宮のくんずほぐれつの四肢を見て、呆れ顔から驚愕の顔に変わる。
「お前ら、朝っぱらから、しかも入学式前に何して――」
「ち、違うんだ! これは、こいつが勝手に――」
「もうッ・・・維新くんたら朝から元気なんだから。昨日もあんなにしたのに♡」
「してねえよ!!!!!!! つか何をだよ!!!!」
「何って・・・私にそんなことまでいわせるの・・・? Sなんだから♡」
「はーと、じゃねえよ!! さっきからその誤解を生みそうな言い方辞めてくれ! クラスメイトに怪しまれr――」
「貴様、維新姜也、だな?」
「・・・へ?」
俺と鈴宮が言い争っているのを見ていた男子生徒(扉を開けたクラスメイト)が俺を見ている。扉の隙間から見える教室内部のクラスメイト達の視線も痛い。
「維新姜也、君に1-A男子全員を代表して宣戦布告させてもらう!!!」
「・・・は?」
宣戦布告。戦いの宣言。
「みんなも異論はないよなあ!? この維新姜也という男は、あの『鈴宮 凛』さんを誘惑し、みだらな行為で彼女を汚しているッ! こんなことを見過ごせる我らではないだろう!」
オーッと力強く野太い男子生徒の叫びが、1-Aの教室から響いてきた。なにその団結力。俺たち同様、君らもまだ出会ってそんなに時間経ってないだろ。
というか宣戦布告は、ほんとうにやばい。この学園の校則によって、「正式な宣戦布告」を宣言されたものは決闘を受けなければならず、逃げたものは「敗北」とみなされ退学に処される。
「ま、待ってくれ、俺と鈴宮は別にそんな関係じゃない! だいたいあったのもついさっき――」
「維新くん、はい♡」
「へ」
俺を縛っていた鈴宮の手が離れたかと思った矢先、鈴宮は俺の手を掴み、そして――
「さみしいなぁ、維新くん。忘れちゃったの? 私の感触」
「いやあんたの感触なんて元から知らな――――――」
俺の手は、鈴宮の両胸にぐいっと押し付けられ、廊下にて女子生徒の胸を揉む男子生徒の様相がここに完成していた。
俺の意思に関係なく、指先は鈴宮によって動かされ、その柔らかい感触を縦横無尽に味わうことを強制される。
や、柔らかい…じゃねえ!!! 何してんだこの女!!
「ん・・・維新くん♡」
「維新姜也、貴様ァーー!!!!」
鈴宮凛の顔は赤らみつつ、それでいて邪悪な笑みを浮かべていた。整った顔の美しさと並び立つ、いやらしい娼婦の笑みとでもいうべきか。
その後、叫び狂う男子生徒諸君らに取り囲まれ、鈴宮から引きはがされた俺は入学早々宣戦布告通知を叩きつけられ、朝のHRからぼっちよろしく四面楚歌状態で記念すべき1年目の学園生活を送るのだった。
「・・・なんでこんなことになってんだよ・・・」
放課後、宣戦布告通知の受理手続きをするため職務室にとぼとぼ向かいながら、そうつぶやいた。
「俺が求めてた学園生活はこんな波乱万丈物語じゃねえっての・・・」
俺の消え入るような呟きだけ、廊下で小さく響いていた。
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