知略があれば学園ハーレム作れるって本当ですか? 

そこらへんの社会人

プロローグ 決闘前夜

「姜也、明日の決闘の準備はもう済んでるの? わたしの武具に不備でもあったら・・・殺すわよ」


「いやこえーな。けど安心してくれ、バッチリだ。ほれこの通り」


 俺はしっかりと手入れした武具たちを見せながら、橘に返答する。橘ほどの実力者なら多少武具に問題があっても何とかなりそうなものだが、彼女曰く、「良き準備が良き精神を生む」らしい。さすが「武器八百」の異名を持つ"橘 楓(タチバナ カエデ)"であるというべきか。


 まあ、だったら決闘前の準備なんて俺に任せるべきではない気もするが、それだけ信用されているということなら悪い気はしない。


「じゃ、じゃあ、私布団用意してるから・・・な」

「ほいほーい、おやすみ~」


 橘はなぜか顔を赤らめながら西方の部屋へと入っていった。


「キョウヤ~、あたしの分もヨーイしといれくれし! 明日は目いっぱい暴れるから、あたしの活躍見ててくれよな!」


 橘と入れ替わりで居間に入ってきた"御堂八千代"は風呂上がりの浴衣姿に瓶の牛乳を片手に持っていた。その成長への心意気やよし。彼女の若干控えめな胸元を見ながら俺は言葉を返す」


「はいはい、期待してまっせ。というか早く寝ろよ~睡眠は大事だ、成長にな」


「変なとこで子ども扱いすんなし~! あ、あたしだってすぐ綾ネエみたいにおっきくなるし!」


「何が大きくなるんだ・・・?」


「そんなのおっぱ――って何言わすんだ、キモ! キョウヤきもい! 変態! 死んじゃえ!」


「俺が死んだら明日の決闘どうすんだよ・・・」


「そ、それは確かに困るけど・・・じゃあ一回だけ死んじゃえ!」


「俺は不死鳥じゃねえから蘇らねえよ・・・」


「と、とにかく、明日に備えて今日は早く寝るから! ・・・その、な!」


「? お、おう、おやすみ~」


 バタン、と扉を閉めて北方の部屋に入る御堂を見届け、俺は居間の机に視線を戻す。明日に備える一人軍議はもう大詰めだった。


「維新くん、軍議に精を出してるみたいだけど、無理しちゃだめよ?」


「あ、早苗さん。ありがとうございます。でも気が済むまでやっとかないと落ち着かないタチでして・・・」


 いつの間にか今に来ていた"不動早苗"さんの優しさが身に染みる。言葉といい語勢と言い、武闘派ぞろいの俺の周りで彼女ほど慎ましやかで美しい人もいないだろう。


「ふふ、維新くんらしいわね。でも無理は禁物、いい?」


「はい、分かってますとも」


「よろしい。じゃあ、その、部屋で・・・待ってる、から」


「ん? 部屋でなんかありましたっけ?」


「・・・もう、とぼけちゃって♡」


 ガラララ、と東方の扉が閉められる。


 うーん、なんかよくわかんねえけど、まあ、これでようやく一人軍議の本番である。


 泊まり込み軍議に参加してくれているさっきの女性3名は、俺の味方のはずなのに、なぜかあたりが厳しいときがある。なんでだろう、みんな個別に居る時は普通なのに、決闘前に、こうして俺の家に集まって泊まり込みの軍議を行う時だけ、このザマである。


 まあ、若干違和感はあるものの、だ。


 明日は運命の決闘当日。

 名軍師「維新姜也」の名を、ついに世界に轟かせる時だ。


 俺は、両軍の情報書類とびっしりと書かれた計略資料を机一杯に広げ、戦略を練り続ける。


***


 一人軍議がひと段落付き、満足感に浸っていた俺。

 居間のソファで一人靴研いでいると、突如として俺の家が大きく揺れた。

 居間の扉が4つ全て一気に開けられたことに起因するものだった。


「なんで私の隣に来てないんだ! 姜也! 私という女が居ながら他の女に手を出そうなどッ――」

「キョウヤ遅いしー! 待ちくたびれたっての! 早く来てくれないと寝落ちしちゃうじゃないか――」

「維新くん、今夜こそ私の初めてもらってくれるんだよね――」

「姜也きゅーん! 待たせたわね、正妻の出番よ♡ ってあれ――?」


「へ・・・?」


 西方から橘、北方から御堂、東方から早苗さん、そして玄関出入口である南方の扉から鈴宮が同時に現れる。なぜか皆肌色成分が多い。へそをだしたり、胸元をはだけさせたり、ショーパンだったりノースリーブだったり・・・え、何この状況。


 俺の頭上で4つの視線がバチバチとはじけあっている感じがした。

 何か知らんが、やばい! 


「あ、えーと、俺は、この辺で寝ようかなあーなんて・・・」


 しかし、俺の逃亡は許されない。


「姜也」

「キョウヤ」

「維新くん」

「姜也きゅん♡」


「・・・はい(若干一名変なのいるけどな)」


「「「「選びなさい!」」」」


 名軍師「維新姜也」の名をとどろかせる前に、俺にはどうやら大きな仕事が残っているようだった。

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