1章「開演」 2話「嘘と虚と執念の女」

ベンツの運転手は若い、25歳くらいに見える男性で、際立って凛々しく見える顔に、赤髪というどうやっても目立つ見た目だった。

というかこんな人が幕張にいるのか。という感じだった。間違いなく目立つだろうし、職務質問でも受けそうだが、と思った。

「やぁ!災難だったね。俺がいなくても平気だったかな?」

と男は篠原にいきなり話しかけた。

「よくいる概念型の攻撃的変化でしたから、

自分の得意、というかそれしか私は対応できない分野の敵でしたよ。」

「そりゃあ良かった。ほら、乗りな。そこの男の子も。.......うん?君見たことない子だね。熾火の子じゃないよね?ねえしのりん、どうしたのこの子。」

「えっと...熾火の所属がどうかわからないのに乗れとか言ったんですか?」

この男と話している時は篠原は随分話しやすそうだ、と思った。これでも話し慣れている相手なのだろう。

「この人...彼は、ただの一般人、のはずです。

名前は柄本亮さん。支給品の簡易的実体結界とはいえ、一般人が無意識に内側に入るなんてことは出来るはずがありません。」

「柄本亮くん...あだ名はエリックだね。」

あの、話を聞いてもらえますか?と篠原が言う。

男は、「まあいいや。どっちにしろエリックにはちゃんとした検査が必要だろう。ほぼないだろうけど、たまたまうまく結界をすり抜けてしまったのかも知れないし、あるいはまだ熾火が確認していない、非公式の変魂師かもしれないしね。何が公式なんだって話だけど。

ほら、早く乗って、とりあえず近場の拠点で見てもらおう。」

ここまで僕は一言も言葉を発さずに、もちろん何か口を挟もうともしたのだが、いた。僕は混乱していた。知らない言葉が多すぎてうまく理解できなかったし、この二人のことを信用できなかった。さっき目撃したことも、彼女の左腕の光も気になった。僕はまず、どこに向かう気なのか尋ねようとしたとき、

「あ、場所は秘密だから。少し眠っててね。おやすみー」

と男が言った。

それと同時に意識がスパッと絶たれた。のだろう。正確なことはわからない。


少し夢を見ていた。

夢では死んだ両親が出てきた。

両親はかがみ込んで僕の顔を覗き、

願い事は? と聞いた。

僕は必死に何が叶えたいことを考えようとするのだが、上手く頭が回らない。

少しして、僕が何も言えないのを見ると、

両親はかがみ込むのをやめて、失望したような目で僕を見た。

ごめんなさい、と言おうとして、


夢から覚めた。

僕は男におぶられていたようだ。

男はぼくをおぶっているのを苦にもせず歩いている。僕が起きたことに気がついたようだ。隣で篠原が暗い顔をして歩いていた。

この場所はどこだろう。立体駐車場の中にいるのだろうが、なぜ、どこの立体駐車場に?

いつのまにか日が落ちて、電灯でついている駐車場の外は真っ暗だ。

「ついたよー」と、楽しそうに男が言う。

続けて、「あの後君は楽しく1時間ぐらい車に乗って、1番近い熾火の拠点に来たんだ。

俺の名前は市川。下の名前も市川。珍しいでしょ?」

「嘘つかないでください。あなたの下の名前は「はしま」でしょ。」

はしま?

「言わないでくれよ。そうなんだ。はしま。

くちばしにあいだで、嘴間。変な名前だよね。今話題のキラキラネームってやつだよ。

子供の気持ちを考えないかなー。まあすぐに親は死んじゃったけど。」

ゆるいトーク中にすごいことを言う。

だが、僕も親をすぐに亡くしたので境遇は似ているのかもしれない。僕はキラキラネームではないが。

「ところでさ、さっきから気になってたと思うけど、今俺らが向かっている 熾火 っていうのは、何かって言うと、えーっとね、秘密結社って感じかな。

なんの結社かって言うと、超能力者。


そんないかがわしい物を見るような顔しないでよ、エリック。エリックの顔を見なくてもわかるよ。ねぇ、しのりん」

篠原は、はあ...というため息をした。

なんだか元気がなさそうだった。

「超能力者と言っても、スプーンを曲げれますとか、透視とか、そういうのじゃないよ?

まぁ、君の素性がはっきりとしないと、あんまり詳しく言えないけど。

ていうか、熾火に連れてきちゃったし、もし君が一般ピーポーだったら、殺されちゃうかもしれないね。」


ん?

死刑?

「だってさっき、悪用被変魂者、あのでっかい男と、こっちのしのりんとのかっくいいバトル、見ちゃったんでしょ?しかも、熾火の存在とかその他諸々の情報は、下手するとなかなかな事態を招いちゃうんだな。

だから、死刑。もしくは一生を監察官とのハッピーセットで送ることになっちゃうだろうね。」

アンハッピーすぎる。

隣の篠原が同情の眼差しを送ってきた。


立体駐車場の突き当たりに着いて、僕は市川に地面に下ろされた。

この立体駐車場、さっきから見ていると一台も車が無い。後方にはさっき僕が乗せられてきた黒いベンツが遠くにポツンと見えた。

なかなか見ることもない光景だ。と思った。

いや、これから死ぬかもしれないのだ。

悠長なことも言ってられない。

突き当たりの剥き出しのコンクリートを市川が指先で触れる。すぐにコンクリートがあった場所が一面、ガラス張りになり、ガラス越しには高級マンションのエントランスのような空間が現れた。

市川が言う。

「見せてもらおうか、幕張の、新しい少年の魂魄とやらを。」

こいつは色々と舐めている。

中学2年生で、おとなしめな僕でもそう思った。







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熾火の怪人 @pushu

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