熾火の怪人
@pushu
1章「開演」 1話「概念分離の少女」
ごく最近。2年前のこと。
僕はその時千葉県の幕張に住んでいて、比較的おとなしめな中学2年生だった。
僕の両親は早くに亡くなった。僕が5歳ぐらいの時だ。それから母方の祖父母に引き取られて大事に育てられた。優しく品のある祖父母で、その影響を受けておとなしくなったのだろう。
市立中学に通っていて、運動は出来なくはないが持久力が無い。勉強は中の上ぐらいできて、趣味は読書。どこにでもいる普通の中学生という感じだった。
でもそんな僕にも事件が2つあって、1つは生まれる前から心臓に小さな穴が開いていたこと。出産直後に手術は難しいということで、
体がある程度大きくなった二歳の時に手術を受けた。手術はかなり上手くいったらしく、
後遺症はないだろうと思われた。
そして僕の事件2つ目は、その後遺症が実はかなりなものだったこと。1ヶ月に1度は心臓の中から熱い火の玉が生まれてくるような感覚がして、眩暈と共に時間と場所を問わず襲ってくる。これは親が亡くなってから少ししてから起き始めた。あまりに僕が苦しそうなので祖父母は僕を大きな病院に連れて行き医者に診せたが、どこにも異常は見つからず、心因性のものではないかと言われた。
これ以外には特に悪いことも良いこともなく、確かに両親は亡くなっていたが、良い環境で育った。
しかし、そうやって普通の人生としてそれなりに安定していた僕にも、不思議なことが起きる。
その頃の僕はクラスの中で浮いたりはしないものの、誰とも話したりしない、暗いやつだと思われていた。
なので普段僕はクラスメートと帰ったりはしなかったし、いつも家に帰る前に、図書室で本をできる限り読んでから帰っていた。
その日も最終下校時間ギリギリまで本を読んでから学校の図書室を出て、人の気配のない通学路を家に向かって歩いていた。
僕の家までは普通の住宅街だが、幕張特有の綺麗な広い道路で、都会のような雰囲気がある。
十字路の交差点に出て、信号機が青になるのを待ちながら、さっきまで読んでいた本についてぼーっと考えていたその時、
そこで僕は、篠原絢と出会うことになる。
後から分かったのだが、彼女は僕と同じ学年で、千葉市に住んでいたらしい。
黒く長い髪は見るといかにも上品な印象を与えて、彼女の顔のぱっちりとした目や小さな唇、大人びた顔立ちによく似合っていた。
そんなお嬢様のような彼女は、体長2メートルはあろうかという大男と戦闘中だった。
篠原は向こう側の歩道にいた。
動きやすいジーンズと少し大きなTシャツを着ている篠原に対し、大男は上半身裸、下半身は元々スーツだったらしい黒い布を纏い、篠原に向かって荒々しく怒りを露わにしている。
しかもどう見てもその大男は普通の人間じゃない。筋骨隆々で、目が血走っていて、口は歪み、何よりその右手で、花束を持っていた。
花束。しかも全部バラ。
当時の僕はそのシュールな光景に笑いそうになってしまったが、しかしそれは一瞬で恐怖に歪むことになる。僕は結構チキンだ。
大男が篠原に向かって車のように突進し、花束を振り下ろした。篠原が避ける。
バキバキバキバキバキッッッ!!
っと板チョコのように地面が陥没した。
舗装の下の土煙のようにが立ち上る。
僕は15メートルほど前で繰り広げられたその光景に、腰を抜かしていた。チキンなのだ。
篠原も流石に驚いたようで、さっと引いて距離を取る。10メートルほどの距離が空く。
篠原がさっとポケットから果物ナイフを抜いたのと、大男の再びの隙を与えまいという突進はほぼ同時だった。
大男が吠える。
篠原は右手にナイフを持ち、腰を低く構えて左腕を前に向かって突き出した。
篠原は華奢な少女だ。あの地面を破壊した一撃なら、受ければ即死だろう。
当時の僕もそれを察していた。
しかし次の瞬間。
彼女の左手から青い光と共に鎖が飛び出し、
花束を拘束した。
大男は何が起きたのか分からず、手に持った花束を振り回していたが、先のような破壊力はもう無くなっていた。混乱している大男の背後にすかさず回り、心臓にそのナイフを刺した。少しして大男は地面に倒れ込み、霧になって消えた。
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十分後。
僕は目撃者ということで篠原から尋問を受けていた。軽く自己紹介させられ、その場に居合わせた理由を聞かれた。彼女はとても話すのに慣れていなさそうで、人付き合いが苦手そうな印象を受けた。5分ぐらいかけて、彼女の名前が篠原絢ということ、中学2年生で、いろいろあってさっきのようなものと戦っている、という説明を受けた。
ただ学校から家に帰る途中だったんだ、と僕が言うと篠原は、一般人は近づけないはずなのに、と言っていた。
それから篠原はスマホを取り出して、どこかにかけた。しばらく会話している。どうやら僕のことについて話しているようだ。
左胸が急に少し痛んだが、そこまで酷くはならなかった。
それからしばらくして、僕たちの横に一台の黒いベンツが止まった。
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