第14話
「ダリル、頼みがある」
騎士団の休憩所で足を伸ばすダリルに声を掛ければ、彼は嫌そうに顔を顰めた。
「……お前が俺に? 気持ち悪い、ふざけんな」
そのまま視界に入れるのも嫌だと言わんばかりに思い切りそっぽを向いてしまう。
フィリップは彼の横顔に重々しく口を開いた。
「今も、ミランダが好きか?」
「大好きだ。そして俺のお姉ちゃんを取ったお前が大嫌いだ」
「結婚……したいか?」
「はあ?」
そこで初めてダリルがフィリップに視線を向けた。
再び忌々しそうに顔を背ける。
「子供の頃はしたかったよ」
彼が恋人について他の団員と話しているのを聞いた事があった。だけどそれだけでは彼の恋人への想いを推し量る事は出来なかったから……
その反応を見て、フィリップはほっと息を吐いた。
「大体、今はお前の婚約者だろうが。破婚なんてしてみろ、お姉ちゃんを泣かせたらお前に決闘を申し込むからな」
「そうか」
「そうだ」
そう言って鼻を鳴らすダリルにフィリップは小さく溜息を吐いて、踵を返した。
「あ? 何だよ。そんだけか、おい?」
呼びかけに一切振り返らないフィリップに舌打ちをしながら、ダリルはその背を見送った。
それから二週間後、フィリップは魔物の暴走で意識を失った。
ダリルは後味の悪い思いを噛み締めている間に、当のフィリップから自分宛に手紙が届き、不気味な思いでそれを開いたのだ。
◇
「成る程、つまりフィリップが新郎で間違いないと?」
そう笑うミルフォードにダリルも笑顔で応じた。
「間違いありません」
「そうか、良かった良かった。彼を連れてきて間違いは無かったようだな。結婚式の邪魔をするなんてと、思ってはいたのだが……よい話も沢山できた事だしね」
ふふ、と笑うミルフォードに顔を顰めるフィリップと、引き攣った顔のセシリアが目に入ったものの。
彼らの描いた絵を実行するのは思っていた以上に大変だったようだと、ミランダはそっと視線を外した。
「ミランダ、行こう」
「フィリップ?」
無理に立ちあがろうとするフィリップをミランダは慌てて支える。
「僕たちの結婚式だ」
「でも、あなた二週間も寝ていたのよ? 歩けるの?」
見るからにふらふらと頼りないフィリップに、流石に日を改めた方がいいと口に出しそうになる。けれど、
「未来を変える為、ここまで来たんだ」
真っ直ぐに見つめられてミランダは息を飲んだ。
「今日じゃなきゃ、意味がない」
「フィリップ……」
言い切るフィリップにミランダの躊躇いは霧散した。
自分もまた同じように思ったから。
しかし急こうとする二人をダリルが止めに入った。
忌々しそうに睨むフィリップにダリルは肩を竦める。
「パジャマ姿の新郎なんて、いくらなんでも格好悪すぎだろう。俺の大事な従姉の式をぶち壊す気か? ……お前の騎士服、新郎の控室に持ってきてあるから、急いでそれに着替えてこい」
目を見開くフィリップの身体を、改めてイーサンが支えた。
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