第2話
「……えーと、ごめんなさい?」
疑問系が悪かったのかなと苦笑するも、セシリアの眦はどんどん釣り上がっていく。
「違う! フィリップ様と、さっさと、別れなさい!!」
「……えっと。それは、どうして?」
「あなた私の話を聞いていなかったの? 私とフィリップ様の運命の出会いを!? 彼の為に私はこうして過去へと回帰し、こうして最善の未来を掴む為に動いているというのに! ……私たちの不変の愛の為よ!!」
そう叫ぶセシリアにミランダはじっと視線を合わせた。
ぱっちりと大きな瞳には長いまつ毛が縁取り、瞬きする度にばさばさと音が聞こえてきそうだ。
金の巻き髪、鮮やかな新緑の瞳。
まごう事なき美少女。
そんな彼女は今、勢いに任せて立ち上がっている。
座るミランダと背丈は同じ。
……十歳位だろうか。
「そんな、もしかしてフィリップ様はロリ……」
「お嬢様!!」
思わず口をつきそうになった台詞を執事の叱責に慌てて飲み込む。
「失礼、セシリア様」
未だふーふーと鼻息荒い少女にミランダは淑女の笑みで笑いかけた。
「何よ」と、ぶすっとした返事にミランダは小首を傾げてみせた。
「あなたは何年後からいらっしゃったのでしたっけ?」
「六年後よ!」
「まあ……」
──と、言う事は。彼女の言う事が正しければ彼女は十六歳。
フィリップは今十八歳だから、六年後は二十四歳。
二十四歳と十六歳なら、まあ……普通だろう。
『ほら! これを見て! ──』
そう言って先程意気揚々と見せられた物を、改めて一瞥する。
……全てが作り話だと言うには、視界にあるそれが邪魔をする……ミランダの心に引っ掛かりを感じるもの。
マリッジブルーというのだろうか。ここ最近、妙に落ち着かない日を送っていたけれど。……もしかしてそれはこれが原因だった、とか。
昨夜も見た、後悔と諦念を繰り返す夢を思い出し、ミランダはふうと溜息を吐いた。
「つまり私は、フィリップ様を諦めなければならない程、酷い怪我を負うんですね」
「お、お嬢様」
狼狽える執事に首を振り、一つ息を吐く。
「そうよ、だから早くフィリップ様の為に破婚なさい。そうして彼は今から私と愛を育むの。……彼ったら幼馴染の婚約者が忘れられないだなんて私の求婚を断ってきたけれど。でも今から親しくなれば、きっと私の方を大好きになるわよね」
「断られ……」
さっき「私たちの不変の愛」とか言ってなかっただろうか。
えーと。
(うーんと)
ミランダはフィリップの顔を思い出し、もし破婚なんて口にすればどうなるかと思いを馳せ──身震いしたのでやめた。
……考えたくない。
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