【完結】回帰した自称ヒロインから、あなたの婚約者は私の運命の相手だから今すぐ別れなさいと迫られた件について
藍生蕗
第1話
「──……と、いう訳ですので、フィリップ様と別れて欲しいのです」
「……はあ」
そう目の前で息巻く令嬢に、ミランダは呆けた相槌しか返せなかった。
そんな主人の様子を見兼ねた老齢の執事の咳払いに、ミランダははたと目を覚ました。
……目の前の彼女曰く、ミランダの婚約者──フィリップは数日後に向かう魔物の討伐隊で、彼は生死の境を彷徨う事になる。
それからやっと目を覚ましたのは二年後。
ミランダは別の相手と結婚してしまった。
というのも、討伐時に撃ち漏れた魔物が王都に入り込み、ミランダは醜い怪我を負うことになった為、だ……そうだ。
フィリップの実家、ガルシア侯爵家は傷物の令嬢となったミランダとの婚約継続を渋り、ミランダもまたフィリップの隣には相応しくないと、自ら身を引いた。
そうしてミランダはフィリップが眠っている間に親戚筋の子爵家へ嫁ぐ事となる──
「失意に暮れるフィリップ様は侯爵家を出奔し、隣国で騎士として立身しました。そこで私と運命的な出会いを果たしたのです……」
「えっと、それがセシルア様……あなたであると……?」
恥じらうように頬を赤らめる令嬢に声を掛けるも、彼女はうっとりとその様を思い描いているようで、こちらに気付きもいない。
かと思えば急に震え出した。
「それなのに……フィリップ様は、自分は生涯結婚はしないと! あなたのせいよ! あなたがさっさと他の人と結婚してフィリップ様から離れてしまったから! 彼に深い心の傷を作ってしまったから!!」
「ええ……っ?」
ミランダは頭を抱えたくなった。
このお嬢さんはさっきから何を言っていんだろう……?
隣国フォートの貴族令嬢が訪ねて来たと、困惑気味の執事から報告を受けたのが四半刻前。
父母か兄宛てだろうかと、けれどそんな言伝も先触れも受けておらず。どうしようかと頭を悩ませている間もなく、ミランダ宛だと聞いて益々混乱し。
セシリア・オッドワークと名前を出されても、誰? とは思ったが、執事がその名前に心当たりがあったらしくて、結果突撃ともいえる訪問にも応じたのだが……
何だろう、この状況は。
「フィリップ様の傷心を回避する為にも、あなたは彼と早急に破婚をすべきなのです」
きっぱりと言い切るセシリアにミランダは瞳を揺らす。
「ええと……」
取り敢えず今の話を頭で反芻すると……
もうすぐ魔物の暴走が始まりフィリップが討伐に向かう事、怪我をする事。
こちらのお嬢さんはそれを伝えに来た……という事。
それは確かに重要な情報だ。
フィリップにはくれぐれも気をつけて討伐に向かって貰おう。そう頷いて改めてセシリアと名乗る令嬢に向き直った。
「貴重な情報をありがとうございます?」
「そうじゃ無いでしょ!」
疑問系でお礼を口にすれば、セシリアはバンとテーブルを叩いて身を乗り出した。
★
今年もよろしくお願いします!
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