月光 第三楽章
焦る思いをあざ笑うかのように
今宵の月が ゆく道を照らす
低音から高音へと響き渡る四連符
落ち着かせるように けれども歯止めがかからない
スタッカートで跳ねる スフォルツァンドの八分音符
この胸騒ぎは 一体なんだ
早く 早く あなたの元へ
焦れる想いとは裏腹に 悪路に中々進まぬ馬車の中
あなたから届いた一通の手紙
記されていたのは 他愛のない日常の様子
けれど
最後に記された言葉
ああ あなたに何があったというのだ
これではまるで 別れの言葉ではないか
早く 早く あなたの元へ
悪路に跳ね上がる馬車を急がせ
やっとのことで 辿り着く
けれど
辿り着いたそこに
あなたの姿は 既になかった
あなたとの時間は 幸せそのものでした
あなたはあなたらしく そのままでいてください
窓から差し込む蒼い月光が
あなたの面影を映し出すように差し込んで
あなたを失った現実に
絶望という感情が渦を巻く
もしもわたしの身分があなたに相応しいものであったなら
もしもわたしがあなたに相応しい人間であったなら
そんな夢物語を思ったところで
あなたはもう 帰らない
それでもわたしは 諦めはしない
必ずこの手で栄光を掴み
いつの日か あなたを迎えに行く
月光よ わたしは今 お前に誓う
必ず彼女を この手に取り戻すことを
私の決意よ
スフォルツアンドの 和音にのせて
力強く 天まで響け
運命の鎖を 断ち切るように
愛するあなたに 届くように
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まず最初に感じるのは、激情。
この曲は、出だしからとても激しい曲なのです。
では、どこからくる「激情」なのか。
最初に思い浮かんだのは、嫉妬。
でも、嫉妬だけではこんな曲にはならない。
では、こんなに激しい感情が沸き起こるのは、何?
自分ではどうすることも出来ない現実への叫び。
そのせいで、大切なものを失ってしまった哀しみ。
絶望感。
そんな風に、感じました。
ただ。
最後はとても力強い。
これは、絶望感だけでは説明できない。
絶望から立ち上がるための、決意。
ではないかと。
それら全てを、月は見ている。
月光は、照らしている。
だからこそ、強い決意をその月光に、誓う。
そんなイメージです。
ベートーヴェンが生きた時代は、身分の差が明確にあったはず。
それ故に、引き裂かれてしまった恋人たちも、多かったのではないかと。
私は、この第三楽章が、大好きです。
人間の、とてもストレートな感情に溢れた曲ではないかと思っています。
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