第428話 アルハルの思惑

登場キャラざっくり紹介


・洞人族

 身長が低く、がっしりとした体格、立派な髭の亜人。採掘や工作を得意としていて、髭の持つ浄化能力で鉱毒などを無毒化出来る。


・サーヒィ

 鷹そっくりの姿をした鷹人族の男性で狩人、妻が3人おり、リーエス、ビーアンネ、ヘイレセ、最近ビーアンネが出産(産卵)したが、孵化はまだ。



――――




 バリスタの試射を終えたなら、流石に鉱山まで見せる訳にはいかないのでそれ以上は進まず、イルク村へと足を向ける。


 その間、セナイとアイハンが元気いっぱいに、いかにフレイムドラゴン狩りが面白かったのかを語り……どこか自慢げでもあるその話に、エイマとアルハルは笑みを浮かべたままでうんうんと頷き、嫌な顔ひとつすることなく話に付き合ってくれて、イービリスやモントも柔らかな表情で見守ってくれる。

 

 するとそれが嬉しいのか、セナイとアイハンの話は止まることなく続き……イルク村に戻っても続くそれに、村の皆はなんとも微笑ましい視線を向けてくる。


 そんな視線に気付いたセナイとアイハンは、気持ちが盛り上がったのか両手を広げてくるくると回って、踊り始める。


「地面がぬかるんでいるから転ぶんじゃないぞ」


 と、私が声をかけるとセナイとアイハンは、


「だいじょーぶ!」

「へーき!」


 なんて言葉を返してきて踊り続け……そうしながら移動していると、神殿近くに建てられている二軒目の産屋……ユルトではなく木材で建てられているその屋根から作業をしている洞人族達の歌が聞こえてくる。


 何もなかったら石を拾おう

 何もなかったら木の枝を拾おう

 それでハンマー作りゃ俺達洞人族

 なんだって作れる、城だって建てられる

 雨の日も、風の日も、雪の日も

 一生懸命家を建てたら町が出来て、酒蔵が出来て、酒屋が出来る

 そうなりゃ俺達は一つだ、死ぬまで一緒だ

 天気が悪くても何があっても、ハンマーと酒がありゃぁ栄耀栄華尽きることなし!


 どこかのんびりとした曲調だが、声はなんとも力強く……そんな歌に合わせてハンマーが振るわれ、木材が組み上げられ……かなり立派な建物が完成まで後少しといった状態となっている。


「……あれは何を作ってるんだ? 神殿の側ってことは写本所か?」


 その様子を見てかアルハルが疑問を口にし、私は隣のユルトを指さしながら答えを返す。


「あの建物は二軒目の産屋だな、あそこにあるユルトが一軒目なんだが、妊婦の数が多くなってきたのと……イルク村には色々な種族がいるからな。

 種族に合わせて……なんて言うと少し大げさだが、まぁ皆が使いやすいように色々な部屋を用意することにしたんだ。

 たとえば鷹人族のサーヒィ達のための部屋も用意してあって……卵を温めやすい場所を作ったり、サーヒィ達でも簡単に出入り出来るようにしたり……それと卵を狙ってくるらしい蛇が入り込めないような仕組みにもなっているそうなんだ。

 あとはまぁ……安全に出産するための部屋を作ったりだな」


 安全に出産するための部屋とはつまり、安産絨毯を使うための部屋で、妊婦に負担をかけることなく安産絨毯を起動出来るよう、隣の部屋から手だけを突っ込むための小窓なんかが用意してある。


 他にも病除けの香を焚くための炉とか、湯を沸かすための竈とか、各種族の体の大きさ、形に合わせたベッドとか……婦人会の意見を取り入れた様々な設備が用意されているらしい。


「フゥン、良いじゃないか。

 妊婦や赤ちゃんを大事にしてるってのは高評価だな、うちの族長もそこら辺には気を使ってたしな。

 まー……若は女に弱いだけなんて言うやつもいたが、あたしはそうは思わないし……うん、本当に良いと思う。

 神殿もしっかりあって……食料はどうなんだ? ここら辺は真っ平らでなんもなさそうだけど、赤ちゃんがどんどん産まれて平気なのか?

 隣国に食料置いてきた辺り平気なんだろうとは思ってるが……」


「ん? 特に問題はないな。

 冬備えはしっかりしたし、ゴブリン達が塩魚をどんどん運んできてくれるし、交易も順調で余っているくらいだ。

 まぁ、これからその隣国に食料を送ったりもするから、油断は出来ないが……それでもまぁ、問題ないと言い切って良い状況だと思うぞ」


 アルハルの疑問に私がそう返すと、アルハルは頭の後ろで手を組み、ぐっと背を反らし……「ふーん」と、そんな声を漏らす。


 そんな言い方をすると質問をしておいて興味ないのかと、そんなことを思ってしまいそうだが、その表情は真剣そのもの、目にも力が込められていて、何かを深く考え込んでいるようで……一体何を考えているのだろうなぁ。


 イルク村のことを案じている……という訳でもないようだし、故郷に思いを馳せているという風でもない。


 ……いや、故郷の皆のことを考えているのかもしれないな、族長や若がどうとか言っていたし……。


 と、そんなことを考えている所に、真っ青な空からサーヒィが飛び込んでくる。


 作りかけの産屋のうち、サーヒィ達のための部屋はすでに完成し、使い始めてもいて……そこに通じる小窓へと物凄い勢いで飛んでいって中に入り……そうして中から騒がしい声や音が聞こえてくる。


 女性……恐らくリーエス達の声とサーヒィの声と。


 あれから他の2人……リーエスとヘイレセも出産をし、リーエス達は3人がかりで10個となった卵を温め、面倒を見ている。


 もちろん婦人会も手伝っていて、人手に関しては余っている状況なのだが、サーヒィも父親として面倒を見たいらしく、時折ああやって産屋へと入っていっている姿を見かけることがある。


 ……が、リーエス達は自分達と婦人会で十分と言うか、女性だけの方が気楽だから入ってこないで欲しいと考えているようで何度かその辺りのことで揉めてしまっていて……どうやら今も揉めてしまっているようだ。


 酷い喧嘩にならなければ良いがと、心配しながら見守っていると、小窓からのそりとなんとも良い顔をしたサーヒィが姿を見せて、それからこちらへと飛び込んでくる。


 腕を上げてやるとそこに止まり、ボサボサとなった羽毛を整え始め……そうしながらクチバシを開く。


「いや、リーエス達の言いたいことも分かるんだけどな、でもオレも父親としてな、様子を見守りたいんだよ。

 こうやって追い出されても自慢の羽毛が荒れちまっても、日に日に卵の中で大きくなる子供の鼓動を感じるってのは、どうしたってやめられないよなぁ。

 だからよ、ディアス……止めないでくれよ」


「……いやまぁ、その辺りのことは夫婦のことだろうから、変に口出しするつもりはないが……喧嘩にだけはならないようにな?」


 私がそう返すとサーヒィは分かっていると頷き……それから一言、


「よし、皆のために新鮮なウサギ肉を狩ってくるぜ」


 と、そう言って飛び立ち……狩りのためか、南の方へと飛び去っていく。


 普段なら狩りと聞けばセナイとアイハンも行きたがるのだが、サーヒィのためなのか何も言わず黙って見送り……それからセナイ達は村の中心の方へと駆けていく。


 するとアルハルとその頭に乗ってエイマはセナイ達を追いかけていって……イービリスもイルク村にいるだろう仲間達の下へ向かい、そうして残ったモントが声をかけてくる。


「ひょっとして……なんだがな、アルハルは帝国に帰るつもりはないのかもしれねぇな。

 ここに定住しようと決めて、だからこそあれこれと生活事情が気になっているのかもしれねぇ。

 ……それか、何の根拠もない話だが、もっと大きなことを考えているのかもなぁ」


「……セナイ達とすっかり仲良しだし、領民になってくれるのならありがたいが……大きなことってのは何だ? 彼女は何をしようとしているんだ?」


 と、私が返すとモントは、何を考えているのか顔をくしゃりと歪めてから……ひねり出すように声を上げる。


「ニャーヂェン族は家族を大切にする一族だからなぁ……アルハル一人だけでここで暮らすというのはありえねぇ、だからこそすぐにでも帰りたがるもんだと思ってたが、どうもその様子がない。

 そうなると……家族を呼んでここで暮らす、なんてことを考えている……のかもしれん。

 いや、我ながら何を言っているんだとは思うが……あの様子を見ているとどうもな……」


「……それは、流石に発想が飛びすぎているというか……。

 イルク村は暮らしやすい良い場所だと思うし、私に家族がいたら呼んでいたかもしれないが……来たばかりのアルハルが家族を巻き込んでそこまでするものかな?」


 と、私が問いかけるとモントは、肩をすくめて何も言わず、セナイ達の後を追うために村の中心へと歩いていく。

 

 それを見送った私は、暫くの間洞人族の作業を見守りながらあれこれと考え込み……それからすぐに考えても仕方ないかと考えるのを止めて、直接聞いてしまった方が早そうだとアルハル達のいる村の中心へと足を向けるのだった。




―――


お読みいただきありがとうございました。


次回はアルハルの話やら何やらです



そしてお知らせです。


まずコミカライズ最新53話がコミックアース・スターにて、52話がニコニコ静画及びピクシブコミックにて公開となりました。


どちらもサーヒィが活躍する話となっていますので、ぜひぜひチェックしてみてください!


そして明日……というか1時間後に小説版第11巻が発売となります!


ゴブリン達初登場、あれやこれやと活躍する彼らのイラストはかなり気合が入っていますので、書店などで見かけた際にはチェックしてみてください!!


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