第429話 久しぶりの……

登場キャラざっくり紹介


・ヒューバート

 人間族(先祖に獣人族)メガネをして細身、男、イルク村の内政全てを担当する内政官で、測量などが大好き、イルク村の生活にも慣れて、好きなだけお茶を飲め砂糖を舐められ、腹いっぱい肉を食べられるのでそういった点では王都よりも良い暮らしをしている。


・ゲラント

 鳩人族、男、姿は鳩そっくりで帽子を被り、服を着ている、隣領の所属で、鳩人諜報隊の隊長。最近は外交官としての勉強もしている。


・ナルバント

 洞人族、男、背が低くがっしりとした体つきで、立派過ぎる髭を生やしている、鍛冶仕事や建築、工作が得意、妻にオーミュン、息子にサナト。息子に長の座を譲りたいと考えているが、サナトの鍛冶仕事がまだまだ未熟で譲れないまま



――――





 イルク村の広場付近に戻ると、フレイムドラゴンの解体が続いている広場から少し東に行った一帯を大量のメーア達が埋め尽くしている光景が視界に入り込む。


 フレイムドラゴン3体が北からやってきて、それに追い立てられた狼が北の山からやってきて……行き場を失った野生のメーア達が保護を求めてやってきたからだ。


 すでに完成していた避難所に逃げ込んだり、イルク村に逃げ込んだり、草原を見回っていた犬人族達に保護を求めたりとし……そうやって一時的な保護を求めたメーアは全部で26人となる。


 それはかなりの数だったが、野生メーアの保護に関してはすでに大体のことを決めていたため、大した混乱もなく受け入れることが出来て……そんな野生メーア達の角には、青色に染められたリボンのような布が巻かれている。


 それは野生のメーアの証であり……そんな青リボンをしたメーアの中には、青リボンだけでなく、同じ角に黄色リボンや赤リボンをつけた者もいて……そのリボンは食事代や宿泊代、つまりはメーア毛の支払いをしている途中、あるいは終えた証となっている。


 避難所に逃げ込むだけとか、数日イルク村で寝て過ごすだけなら特に問題はないのだが、食事までするとなると干し草にも限りがあるのだからタダで……という訳にはいかなかった。


 これから寒さは厳しくなるばかり、そんな中で毛を刈られるのは嫌かもしれないが、毎日無理のない量を少しずつでも良いし、大量の毛を刈った後は、ある程度毛が生え揃うまで暖炉のあるユルトや酒場、もしくは神殿で過ごしても良いとしていて……どうするかは本人達の判断に任せている。


 野生のメーア達に人気なのは酒場か神殿のどちらかであり……木造なり石造りなりのしっかりとした作りが安心出来るのと、ユルトよりも暖かいことが人気の理由となっていた。


 そして今はこれから行われる毛刈り作業の受付が行われていて……多くの野生メーア達がどんな刈り方をされたいか、誰に毛刈りをしてもらいたいかなどを自己申告し……それをシェップ氏族やヒューバートがしっかり聞き取り、紙束に書いて記録し……そして手伝いを申し出たセナイ達やアルハルがメーア達を毛刈りが行われているユルトへと案内していく。


「メァメァメァーメァ」

「メァ~~メァメァ」

「メァッ、メァー」

「メァ~メァ~~~メァ」

「メァーメァメァーメァー」

「メ~~ァ~~~!」


 などなど野生のメーア達は元気に鳴き声を上げていて……ここまでの数となると流石にうるさく感じてしまうなぁ。


 まぁ、静か過ぎる冬というのも気が滅入るものだし、こんな風に賑やかな方が良いんだろうなぁと、そんなことを考えていると、聞くだけで誰がやってきたか分かるポポポポポという音が聞こえてきて……私が腕を上げると、そこに鳩人族のゲラントが降り立ち、クチバシを開く。


「でぃ、ディアス様、お久しぶりでございます。

 ご連絡を受けて確認のため参上したのですが……い、いやはや、本当にフレイムドラゴンが3体もやってきたのですな」


「ああ、いきなり3体も来るものだから驚いたよ。

 まぁ、特に怪我もなく被害もなく片付けられたから、特に問題はないんだが……素材とか魔石の扱いに関してエルダンと相談した方が良いかと思って、鷹人族に手紙を送ってもらったんだ。

 ……いきなり3体分の素材とかは、エルダンも扱いきれないよな?」


 私がそう返すとゲラントは、咳払いをし居住まいを正してから胸を張り、力を込めた言葉を返してくる。


「確かに尋常なことではありませんが、こちらとしましても損の無い話……今年の秋はいつにない豊作に恵まれ、マーハティ領全体が好景気となっておりまして、エルダン様は『時間はかかるかもしれないが、3体の素材全てであってもなんとか受け入れよう』と仰せです。

 いつものようにマーハティ領まで運んでくださっても結構ですし、何しろ物が物ですので、ご依頼さえあればこちらで護衛付きの運搬隊を用意いたしますが……」


「そうか、受け入れてもらえるならありがたい。

 運搬方法に関してはエリー達と相談する必要があるから、少し待ってもらえると―――」


 と、私がそんな言葉を返している時だった。


 妙な違和感というか、変な気配があって私はそちらに意識を持っていかれて口を閉ざす。


 そしてその気配の方に視線を向けていると、私の腕の上のゲラントが「ディアス様?」と声を上げて首を傾げて……そしてすぐに私が何を気にしているのかに気付いて、翼を広げての臨戦態勢? を、取る。


 見回りをしていたマスティ氏族達も、受付作業をしていたシェップ氏族達とヒューバートも気配に気付いたようで……その誰もが視線を向けているメーア達……変な気配がしているのに至って落ち着いた様子で、特に騒いでもいないメーア達の中央辺りから、いつかに聞いたおかしな声が聞こえてくる。


「んん~~、良い光景になってきたようね。

 ……あの御方と会ったようだし、流石にもう捕まえようとはしてこないわよね?

 と、いう訳でお久しぶり、今回も褒美を下賜しにきてあげたわよ。

 まったくあの連中と来たら、まさか3体同時にやってくるなんてねぇ」


 その声はメーアモドキ……いや、大メーアの使いのもので、メーア達の中央から使いがゆったりとした足取りでこちらにやってくる。


「……あ、ああ、もう捕まえたりはしないさ。

 あの時にはとても助けられたし……感謝もしている、あちらには神殿も建立して、それなりの敬意を払っているつもりだ」


 どう返事をすべきなのか、どういった態度で対応すべきなのか……あれこれと頭を悩ませながら言葉を返していると、ゲラントは私と使いのことを交互にバッバッと見やり、クチバシをパクパクとさせて言葉を失っている。


「うんうん、神殿まで用意するとは良い心がけね、褒めてあげる。

 我らが子らをしっかり保護しているみたいだし……それでいて無理矢理自分達の領域に取り込んだりしないのも立派立派、すっかり見違えたわねぇ。

 ……さて、あんまり長居も出来ないから下賜の方を済ませてしまいましょう。

 という訳ではい、今回はこれ……3体のフレイムドラゴンやらの褒美にしては少ないかもしれないけど、前回我らが主……あの御方の力に頼ったのだから文句もないわよね?」


 と、使いがそう言った瞬間、使いの足元が……雪に覆われた地面が盛り上がり、使いのことをかなりの勢いで押し上げる。


 ……いや、地面が盛り上がったのではなく地面から何かが……金属の塊のようなものがせり上がってきたようで、私の両腕で抱えられるか抱えられないかといったくらいの、大きな正方形の……銀のような塊が姿を見せる。


「これからも変わらず……いえ、一層良い心がけでもってあの連中を倒し、子らを保護なさい。

 それはあんた達のためにもなることだし、世界のためにもなるんだから……正しい人間としての責務を果たすように」


 銀の塊の上でそんなことを言った使いは、ぴょんと塊から飛び降り、こちらの様子を伺っているメーア達の群れの中へと飛び込み……その瞬間、気配がぱたっと完全に消え失せる。


 恐らくいつものように姿を消したのだろう、探しても無駄なのだろうと私は使いから銀の塊へと意識を向けて……そっと近付き手で触れてみて……うん、冷たくて硬い金属の塊ということが分かる。


 ……それ以外には何も分からない、撫でても叩いてもただただ金属の塊だなぁというだけで、さて、どうしたものかなと頭を悩ませていると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきて……犬人族からの報告を受けたらしいナルバントがこちらに駆け込んでくる。


 その騒がしさで驚きのあまり硬直し、言葉を失っていたヒューバートや他の皆も動き出して……全員が一斉に銀の塊に近寄り、目の前のそれが何なのかを調べ始める。


 私の腕の上で混乱の極みといった様子だったゲラントも、塊の上に乗ってみたりクチバシでつついてみたりとし……そうやって皆が思い思いの方法で塊に触れる中、塊をそっと撫でて……撫でて撫でて撫で回したナルバントが、力強い声を上げる。


「オラも加工前の塊は初めて目にしたからな、確かなことは言えん、言えんのじゃが……この冷たさときめ細やかな質感と、滑らかな肌触りは……普通の銀ではない、そこらにある金属でもない。

 ……間違いなくこれは始祖の銀であろうよ。

 坊、試しにこれを持ち上げてみると良い、もし始祖の銀であるならば驚く程に軽く、坊の力があれば軽々持ち上がるはずじゃ」


 そう言われて私がその塊を両手を広げて挟むようにして掴み、しっかり腰を下ろした上で持ち上げようとすると……空の木箱でも持ち上げているかのようにすっと持ち上がってしまい、見た目との差というか、金属への認識のずれのせいで転びそうになってしまう。


 それを見てナルバントはにっかりと笑い……、


「こりゃぁ楽しくなってきたのう、これがありゃぁメーア達のためにもなる良いもんが拵えられそうじゃわい!!」


 と、そんな言葉を口にし……力強く、いつになく強く、ぐっと拳を握って突き上げてみせるのだった。




――――


お読みいただきありがとうございました。


予定していたアルハル関連はまた次回に

という訳で次回はアルハルのあれこれと始祖の銀のあれこれの予定です




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