第十五章 雪原を駆ける
第427話 一番手柄
登場キャラざっくり紹介
・セナイとアイハン
森人族の双子、金髪の長耳、ディアスの養子であり、公になっていないものの一応王国貴族ということになる、弓と魔法が大得意
・アルナー
鬼人族、ディアスの婚約者、基本的にはイルク村の家事全体を指揮している、最近は人が増えたので家事全体の量が増えて少し大変
・ゾルグ
鬼人族、アルナーの兄、鬼人族の族長候補、最近はディアスに負けじと鍛錬をしているが、ディアス程筋肉がつかないのが悩み
・イービリス
鮫人族、領民ではなく同盟者、盛んに塩魚交易をしているためイルク村には常に鮫人族が一人はいて、彼らが何かやらかさないように見張るためイービリスも滞在する時間が増えている。
・モント
人間族、元帝国人、領軍の参謀であり西側関所の実質的主、本人はディアスではなくセナイとアイハンに仕えているつもり
・アルハル
猫耳猫尻尾のニャーヂェン族、現帝国人、領民ではなく客人、獣人国で捕虜になっていた時は帰りたくて仕方なかったが、エイマと出会ってからはそれも落ち着いて今はイルク村で異国情緒を堪能したいと考えている
――――
今回のフレイムドラゴン討伐で、一番活躍したのはバリスタと言って良いと思うが、同じくらいに活躍したのがセナイとアイハンだった。
弓矢での攻撃や牽制はもちろん、バリスタの狙いの調整なんかもしていて……バリスタを運用するのは得意だが、狙いをつけるのは苦手な洞人族達を手伝い、見事に空を舞い飛ぶフレイムドラゴンに命中させていた。
弓矢とバリスタでは全然物が違うというか、狙い方も違うと思うのだが、セナイとアイハンが言うには似たようなものなんだそうで……その辺りのことをアルナーやゾルグに聞いてみると、返ってきた答えは、
「……いや、あんなものを弓矢と同じようには扱えないな、セナイ達が特別なんだ」
「目の良さくらいだろ、弓矢の経験が活かせるのは……。
アルナーが何か特別な教え方をしたのかもしれないが、俺には無理だ……」
というものだった。
そうすると森人族が特別凄いのかと思ったが、隣国で森人族の大人達を見たというゾルグが言うには、森人族が特別とは到底思えないとかで……セナイとアイハンだけが特別凄いということなのだろうか?
と、そんなことで頭を悩ませていると、意外な人物から……アルハルから答えが返ってきた。
「多分だがセナイ達は、色んな師に習い、習ったことを自分達なりに解釈して飲み込んで、誰も想像していなかったような成長をしてるんじゃないか?
複数の師を持つことは必ずしも良い結果に繋がるものじゃないんだが……たまにな、複数の師を持ったほうが良い子ってのがいるもんなんだ。
……セナイ、アイハン、弓矢の扱いを習った時、最初に言われたことを覚えているか?」
鉱山近くの街道脇、酷使したバリスタを整備する洞人族達の元気な声が響く雪原で、アルナーとエリーが急ぎで仕立ててくれた冬服を身に纏ったアルハルがそう問いかけると……雪玉を転がして大きくする遊びをしていたセナイとアイハンが、首を傾げながら言葉を返す。
「えっと……アルナーからまず風を読むこと教わった!」
「かぜをみて、ながれをりかいしたうえで、ねらいをつける!」
「……そうか……。
そう教わってお前達はどう風を読んだ? 肌で感じたか? それともその長い耳で感じたのか?」
遠征でその活躍を見ることの出来なかったゾルグやモントの強い希望で行われることになったバリスタの見学会。
それに参加することになったアルナーやゾルグ、それとイービリスやモントや頭の上のエイマが一体何を聞こうとしているのかと訝りながら見守る中、アルハルにそう問われたセナイ達は首を左右に振ってから答えを口にする。
「ううん、目で見た、魔力を集めたら目で見える」
「めでみて、そうぞうして、あとはかぜにおねがいしたりもする」
その答えはどうやらアルナー達にとっても驚くというか意外な内容だったようで、アルナーとゾルグは目を丸くして驚きの感情を表現する。
そんな中アルハルは「やっぱりな」とでも言いたげな顔で頷いて、更に問いを投げかけていく。
「逃げている動物を狙う時、どんなことに気をつけている? 動物の狩り方を誰から習った?」
「えっとね、狩りはね、アルナーにも習ったけど、ディアスの方が分かりやすくて面白かった」
「ふかくかんがえないで、ちょっかんでいい。
はずれてもいい、なんどでもがんばればいい、ただじぶんをしんじる。
そうしてるとまりょくのながれで、どうぶつがこれから、どうやってうごくのかわかる。
わかるから、そこをねらうだけ」
「それはモンスター相手でも一緒か?」
「うん! ディアスもね、戦う時なんとなくで攻撃避けたりするからそれ真似する」
「まりょくやしょうきのながれかたとか、かたまりかたとか、とがったりするのをよくみて、あわせてうごく」
……もちろん私には魔力や瘴気なんてものは見えていない、感じ取ることも出来ていない。
私はただ戦いや狩りの際にあれこれ悩みすぎると、それが隙になるのだと経験で理解していて、自分の直感に全てを任せて悩む間もなく動いて動いて動き続けて、攻撃や回避を繰り返すようにしているのだが……それをセナイ達なりに解釈すると、そういったことになってしまうようだ。
そんな2人のことを、帽子の上からよしよしと撫でたアルハルは、
「セナイ達は生まれつき賢くて才能もあったんだろうが……更にこの環境、色々な人種や才能が集まる村で育ったことが強く影響しているんだろうな。
更に言うなら大人達がああしろこうしろと命令しないで、好きにさせていたのも大きいんだろう。
その結果2人は2人なりの……言い方は悪いが自分勝手な解釈と成長をしたんだろうな。
……まさか帝国が目指す理想像がこんなところで見られるなんてなぁ」
なんてことを言って、腕を組んでからなんとも満足そうにうんうんと頷く。
それからアルハルは、整備が進み、もう少しで試射が出来そうなバリスタへと興味を移してそちらへと足を向け、そんなアルハルのことを追いかけてセナイとアイハンもそちらに駆けていく。
まだまだアルハルとは出会ったばかりのセナイ達だが、エイマと仲が良いことと気安く接してくれることもあって、すっかりとアルハルと仲良くなっていて……アルハルもそんなセナイ達のことを受け入れているようだ。
そのアルハルは帝国人であり、モントと違って帝国戻るつもりで……そんなアルハルにバリスタを見せても良いのか? なんて意見もあったのだがモントの、
『見せちまえば良い、フレイムドラゴンを瞬殺出来るバリスタが本当にあるんだと見せてやって、それが帝国に伝われば良い抑止力になる。
なんでもかんでも隠せば良いってもんじゃぁねぇ、時にはあえて見せつけてやるってのも必要なことだ』
なんて声を受けて、アルハルも見学会に参加して良い、ということになった。
だけども東西の関所内部や倉庫、水源小屋や地下貯蔵庫への立ち入りは禁止になっていて……アルハルは特に気にした様子もなくそれを受け入れ、そんなことよりもここでの暮らしやセナイ達の方が気になるらしく、そちらにばかり意識を向けている。
まぁー……私の事を知っている帝国人でありながら、魂鑑定を使っても悪意も敵意も一切なく、それどころかあれこれ質問をしてきたり、戦争での話を聞きたがったりとするようなアルハルであれば、変な心配はいらないのだろうなぁ。
「よぉぉーし、とりあえず試射出来るようにしたぞ!
一発だけだがな! 今から的を置いてくるからまっといてくれ!」
そうこうしていると整備をしていた洞人族からそんな声が上がり……一人の洞人族が、ボロボロの木箱を頭の上に乗せながら街道を外れて雪原の中を歩いていき……ある程度の距離を進んだ所に放り投げ、こちらに戻ってくる。
短い足で雪をこれでもかと舞い上げて、ヒゲを雪まみれにしながら戻ってきたなら、バリスタの発射準備に取り掛かり……矢の装填や、機構の巻き上げなどが行われた後にアルナーやゾルグによる魔力の充填が行われ……それからセナイとアイハンの指示の元でバリスタの角度などが変更され、狙いがつけられる。
そうして準備が終わると、発射担当の洞人族以外がバリスタから離れ始め……それからセナイ達による、
「今だよ!」
「はっしゃぁ!」
との合図があり、バリスタの発射レバーが引かれる。
直後周囲に凄まじい音が響き渡る、発射音と風切音と、以前見た時から更に改良され威力が向上し……その分だけ本体にダメージが入るようになってしまったらしいバリスタからの破壊音だ。
その直後、木箱があった所からも破壊音が響いてきて……木箱周囲の雪が一気に舞い上がって、一帯を白く染め上げる。
命中したのか、していないのか……雪が落ち着くまで分からないなぁと、その様子を見ていると、セナイとアイハンから、
「やったぁ!」
「あたったー!」
との声が上がり……どうやら命中したらしいことが分かる。
それから少しの時が経って舞い上がっていた雪が落ち着くと、雪原に突き刺さる大きな矢と粉々となって周囲に散らばった木片が視界に入り込み、二度目となるセナイとアイハンと、それとアルハルとエイマの元気いっぱいな歓声が周囲に響き渡るのだった。
――――
お読みいただきありがとうございました。
次回はアルハルのあれこれです。
そしてお知らせです
3月15日発売の小説版第11巻の特集サイトがアース・スターノベルさんのHPで公開になりました。
そちらでカラーイラストを確認出来るのですが、今回はそのうちの一枚を近況ノート公開していますのでチェックしてくださいな!
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