第417話 準備万端





 獣人国への遠征準備は驚く程順調に進んでいった。

 

 まず鬼人族への協力要請は問題なく受け入れて貰えて……と、言うか私達が行かなければ鬼人族だけで行くとまで言う程で、ペイジンとの取引で多くの食料などを手に入れてきた鬼人族としては他人事ではないようだ。


 そういう訳でゾルグ率いる遠征班5人の合計6人が参加と言うことになった。


 次にペイジン達との連絡も上手く行き、上陸地点の確保や必要な物資の手配、正体を隠すための工作など色々な面で協力してもらえることになった。


 ……まぁ、向こうから助けてくれと言ってきておいて協力しないということはあり得ない訳で、いつでも連絡を受け取れるように関所の近くでペイジン・レが待機してくれていたこともあって、すんなりと話がまとまってくれた。


 移動用の船については洞人族が急ぎで作ってくれていて……急遽作る関係で、それなりの大きさのそれなりの作りの船になるらしい。


 それでもまぁ、ゴブリン達の協力があるから航行には問題ないとかで……問題があるとすれば船に乗れる人数だろうか。


 多くて20人、ナルバント達によるとそれが限界なんだそうで……まぁ仕方ないことではあるのだろう。


 食料や武具やら荷物だってたくさん積む必要があるし……うん、仕方ない。


 帆だの何だの、本来であれば船に必要なものをゴブリン達のおかげで作らないで済むのだから、むしろ破格……望外の乗船人数ということになるのだろう。


 体の小さいエイマや、屋根や船首にとまっていれば良いサーヒィ達は除外するとして、鬼人族が6人、モント、ジョー、ロルカで3人、マスティ氏族4人……は体が小さいので2人で1人分と考えるとして、これで11人。


 残り9人をジョー隊、ロルカ隊から選抜して……これで定員ギリギリとなる。


 たったそれだけで上手くやれるのか不安になってしまうが……そこは皆を信じるしかないのだろう。


 そんなジョー達には以前から作っていたドラゴン装備が用意されることになり……その装備は作り始めた当初とは全く別物の、なんとも派手な仕上がりとなっている。


 アースドラゴン、ウィンドドラゴン、フレイムドラゴン、アクアドラゴン。


 それらの素材……と言うか端材というか、余っていた素材をかき集めて全部使っての複合武具。


 武器はもちろん防具や盾なども作られて……洞人族達の技術もあって、クラウスが使っているアースドラゴン装備よりもかなり上の性能となっているらしい。


 硬さが必要な所にはアースドラゴンの素材を使い、軽いと楽な所にはウィンドとフレイム、柔らかく加工しやすいアクアドラゴンは主に関節部などに使われて……外見はなんとも色彩豊かなものとなっている。


 緑だったり赤かったり紫だったり……そんな複合武具を装備するのはジョー、ロルカ、それと9人の領兵達と……エイマの分も用意されている。


 エイマはなんだかんだと私と一緒に戦場に行くことが多く、隣領の騒動では針を武器に敵と戦うこともあった。


 そんなエイマのための装備を用意しておくことは無駄ではないはずで……ナルバントとモント、それとダレル婦人までが参加しての装備作成が行われることになった。


 まずは武器。


 以前使った針はそのまま使うことにし、私が使っている投げ斧に似た形の投げナイフを新たに作ることになった。


 それをそのまま投げても良いし、フックの様にどこかに引っ掛けて使っても良い。


 エイマは体重がとても軽く跳躍力があり……そのナイフを引っ掛けることで壁や敵の体なんかにぶら下がり、そこから更にジャンプしてまたナイフを引っ掛けて更にジャンプして……という感じの曲芸のようなことが出来るらしく、そのための武器となる。


 そして防具。


 跳躍の邪魔にならないよう軽さを重視することになり……また指揮官という立場を考慮して見栄えする意匠にもするそうだ。


 以前騒動を起こしてくれたディアーネ達のようなドレス鎧になるらしく……この意匠案を練るためにダレル婦人が参加しているという感じだ。


 あのドレス鎧、王都の方ではそれなりに人気があるとかで……その見栄えでもって味方の士気を上げることを重視しているんだそうだ。


 もちろん見栄えだけでなく実用性も重視する必要があり、そこら辺はモントとナルバントが良い具合に仕上げてくれるのだろう。

 

 サーヒィや手伝いとして参加してくれる鷹人族の面々は以前作ったウィンドドラゴン装備を使い、マスティ氏族はアースドラゴンの素材を使った竜牙や竜鱗のマントを使い……鬼人族達は持ち前のアースドラゴン弓矢があるので、ほぼ全員がドラゴン装備ということになるなぁ。


 そんな遠征班とは別に、エイマの提案で編成されることになった別働隊……セキ達の準備も進んでいる。


 セキ、サク、アオイの3人とゴルディア、エリー、アイサ、イーライ、それと護衛のマスティ氏族とリヤン隊の何人かと、鬼人族の遠征班から3人。


 そんな面々の仕事は、表向きにはただの行商と言うことになっていて、陸路で獣人国に入り食料……塩魚が詰まった樽を運ぶことが目的ということになっているが……その内実はエイマ達の支援を行うことだったりする。


 情報収集や物資の受け渡し、怪我人などが出たならイルク村まで連れ帰るのが主な仕事で……ゴルディア達は特にそういったことを得意としているとかで、獣人国でも活躍してくれることだろう。


 やたらと多い人数に関しては、情勢不安らしいので護衛を多めにしました、ということで押し切るつもりのようで……状況が悪くなった際にはエイマ達と合流して一緒に戦うことも考慮に入れている。


 ただ表向きはあくまで行商人なので、派手な装備を用意する訳にはいかず……こちらはドラゴン装備は無しとなっている。


 ……まぁ、情勢不安な所にドラゴン装備の自称行商人が来たとなったら面倒なことになるのは確実なので仕方ないのだろう。


「……しかし、エイマが指揮をとりはじめたら、物凄い勢いで準備が進んでいくなぁ」


 話し合いがあってから三日後の昼食後、倉庫で荷物整理をしながらそんな言葉を口にすると、板に貼り付けた紙に倉庫の在庫を書き込んでいた若者……最近成人したらしいシェップ族の若者が言葉を返してくる。


「はい、何しろエイマ先生の指揮ですからね。

 先生に任せておけば何も問題ないです、ディアス様も安心していいと思いますよ」


 その若者はエイマの授業を受けていた子供の一人であり……犬人族とは思えない程に賢く、書類仕事や計算なんかを得意としている。


 エイマの授業を受けたからそうなった……という訳ではなく、授業を受けていた他の子供達は普通に犬人族らしいままなので、エイマのような天才と言ったら良いのか特別な才能を持って生まれた子であるらしい。


「そうか……まぁ、エイマに任せておけば安心というのはその通りだな。

 村に残ると決めた以上、出来ることは少ないし……こういった雑用の手伝いを頑張るしかないかな」


「ディアス様はどっしりと構えて、村と皆を守ったらそれで良いんですよ。

 新婚なのに奥さんを置いていくことになるジョーさん達も、ディアス様がいるからこそ安心して出立できる訳ですし……堂々とした態度で笑顔を浮かべて、皆さんを安心させてあげてください」


「あ、ああ、分かったよ。

 しかしカーリッツ……成人したばかりだと言うのに、随分と大人びたというか、立派になったものだなぁ」


 と、私がそう返すとその犬人族……カーリッツは尻尾をゆらりと振ってから顔を綻ばせ、それからすぐに咳払いをして表情を引き締め、


「もう大人ですからね!

 ほら、ディアス様、次の荷物を出してください、在庫の確認進めますよ!」


 と、そう言って倉庫の中へと大股で歩いていくのだった。





――――



お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、出立やら何やらとなります。

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