第400話 関所の主


――――登場キャラ紹介


 モント 人間族、男 元帝国人、ディアスとの戦いに破れ捕虜となり……素人丸出しのディアス達を放っておけず、あれこれ口を出すうちに仲間のようになり……紆余曲折を経て領民に


――――




 関所に一晩泊まったことで、二つのことに気付くことが出来た。


 一つ目は関所内に貴賓室があること……他の部屋と比べて広く、柱や壁に装飾がされていて、恐らくアルナー達が作ったと思われる絨毯も敷かれている。


 そして立派な作りの家具が並んでいて……洞人族が作ったと思われる物や、そうではない、風変わりな意匠のものもあった。


 領主だからとそこに泊まることになった訳だけど、思っていた以上に快適で驚かされた。


 二つ目は関所内では何人かの獣人族が下働きとして雇われていて、あちこちを駆け回っていたことだ。


 忙しそうに楽しそうに仕事をし……彼らの雑談からすると、結構な給金を貰えているらしい。


 この関所のことはモント達に任せていて、そういった下働きを雇うことは全く問題ないのだけど……まさか隣国の人々を雇うとはと、こちらにも驚かされた。


 雇われた人々の中には子供達の姿もあり……相当に良い条件で働けているようで、モントに懐いていたのも納得だ。


 そうなると風変わりな家具も彼らが作った物、あるいは彼らから買った物だと思われて……関所内のあちこちにある見慣れない小物とかもそうなのだろう。


 しかしこれは……、


「大丈夫なのか? 関所の中を他国の人間に見られたら、いざという時に困るのではないか?」


 関所内にある食堂……大きな長机があり、そこに皆で腰掛ける形の食堂で朝食をとりながら私がそんな問いを投げかけると、モントが手にしていたフォークを軽く振りながら言葉を返してくる。


「ああ、全く問題ねぇよ。

 ジュウハの野郎がよく言っていたことだが、知らないうちに情報が漏れてるってのがヤバいんであって、どの情報がどの程度漏れているのかしっかりと把握しているのなら何の問題もねぇ……重要な場所には立ち入らねぇよう制限はかけてるしな。

 それにだ、あちらさんとしてもここがどんな場所なのか、どんな連中がいる場所なのか分かっていたほうが気が楽になるだろ?

 気が楽になれば恐怖心が薄れ警戒心が薄れ……戦争しようって気がいくらか失せてくれるはずだ。

 関所の内部を知ることでこんなに立派な関所、厄介だから敵に回したくねぇと思ってくれるかもしれねぇし、こんなに襟を開いてくれるなら仲良くしておいた方が良いと思ってくれるかもしれねぇ。

 ……これが俺なりの外交って訳だな」


「ふぅーむ……なるほど、外交かぁ。

 それならまぁ……悪くはない、のか……?」


「このくらいは俺の権限のうちだろ、ご近所さんと仲良くしておこうってだけだしな。

 国同士の大きなことはお前が決めてあれこれとやったら良い。

 こんな立派な……見方を変えれば威圧的な関所をおっ立てておいて、一切交流しませんってのも問題だろ」


「関所に関しては一応獣人国の許可は取ったが……」


「だからそれは国同士のことで、民同士の話じゃぁねぇだろ。

 お偉いさんがどう言おうと不安に思う気持ちが消える訳じゃぁねぇし……そもそもお偉いさんがそこらの住民に事情説明すらしてない可能性だってある。

 不安に思うとあれこれいらんことまで考え始めちまって、変な妄想をするようになって噂話を口にするようになって……そこから偏見が生まれて諍いに繋がるんだ。

 こうやってこちらのことを見せてやって交流してやって、上手く付き合っておいたほうが得だって知らせときゃぁ、そうなる可能性は低くなるって、ただそれだけの話しだ」


「なるほど……確かに言われてみるとその通りだな」


 と、私がそう言うとモントは満足げに鼻息を吐き出し、それから朝食を再開させる。


 私も朝食を再開させ……食べ終わると私より先に食べ終わっていたモントが、こちらに視線を送ってくる。


 それはこっちに来いとか、話があるとか、そんなことを伝えようとしているもので……何か秘密の話でもあるのだろうかと小さく頷き返した私は、なるべくそのことを考えないようにしながら席を立ち……軽く身支度を整えてから、関所に来た時に真っ先に案内されたモントの部屋へと向かう。


「おせぇよ」


 するとモントが一人で、掃除したてかというくらいにきっちり整理整頓された部屋の奥にある椅子に腰掛けながら待っていて……義足の手入れをしながら言葉を続けてくる。


「さっきの話の続き……って訳でもねぇんだが、交流しているうちに耳に入った話があってな。

 なんでも獣人国には獣人以外の種族も暮らしているらしくてな……結構な種類の亜人がいるらしい。

 ……で、獣人国の亜人というと俺達には思い当たることがあってだな……つまりセナイ様とアイハン様の故郷の話になる」


「……ああ、そうか、そう言えばセナイ達はペイジンが連れてきた訳だから……」


 当然獣人国に住んでいる訳だ、セナイ達と同族の森人達が。


「ああ、セナイ様達を追い出したとかいうロクでもねぇ連中の話だ。

 セナイ様達は特に気にした様子もねぇし、雑談ついでにそのことを教えてくださるくらいだ、本気でどうでも良いんだろうが……連中はどうだろうな?

 この調子で獣人国に俺達の話が伝わっていって、彼女らの話が……ここで良い暮らしをしてるなんて話が耳に入ったなら変な手出しをしてくるんじゃねぇかと思ってな……その場合の対応をどうするのか、今のうちに話しておきてぇ」


「どう……と、言われてもな、相手をする気はないな。

 こちらに入ろうとしてくるなら追い返したら良いし、何かを言われても無視したら良い。

 セナイ達や両親が何した訳でもないのに追い出したような連中と交流する気はないからな……災厄がどうこうと言っていたそうだが、セナイ達が原因で悪いことが起きたことなんて一度も無いからなぁ」


 私がそう返すとモントはニヤリとした笑みを浮かべ、くっくっと笑ってから言葉を返してくる。


「なるほど、お前にとって連中は既に敵な訳か。

 お前は敵に容赦がねぇからなぁ……なら俺もその通りにさせてもらおう」


「いや、別に敵だからと容赦しない訳では……」


「真正面から挑んでくる連中にはそうだろうが、ロクでもねぇ連中にはお前、容赦も理性も何もねぇじゃねぇか。

 ……ま、そんなお前の所にたどり着くのは連中にとっても不幸だろうからな、俺がここで上手く対応してやるよ」


 と、そう言ってモントは立ち上がり、コツコツと歩いて部屋を出ようとし……こちらに先に出ていけとの視線を送ってくる。


 それに従い部屋を出ていくと、それと入れ違いになるように獣人の子供がモントの部屋に駆け込み……掃除というか片付けをし始める。


 モントがきっちり整理整頓しているためか、特にやることも無さそうだが、それでもしっかり働き始め……その様子を微笑ましげに眺めているモントの姿をちらりと横目で見やり……そこで私はあることに気付く。


 いつから西側関所の主がモントということに決まったんだったか……?


 元々はジョー達に任せていて……追々誰かに任せようと考えていて、そしてモントが警備の指揮とかを執りはじめて……気付けばいつのまにかそういうことになっているような……?


 ……まぁ、他に適任者がいるでもなし、ジョー達に不満が無いのならそれでも良いんだが……その辺りのこと、あとで確認しておくか……。


 なんてことを考えた私は……既に関所が上手く回っていること、ジョー達から特に抗議とかが無いことから、このままモントに決まりそうだなぁと、そんなことを考えながらその場を後にするのだった。




――――


お読みいただきありがとうございました。


次回は村に戻ってのディアスさんです。



そして気付けば400話達成!

ここまで来れたのも皆様の応援のおかげです!

これからも楽しんでいただけるよう、頑張らせていただきます!!

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