第386話 情報の値打ち
――――森を東に抜けた先の街道を進む馬車の中で 謎の男達
マーハティ領の街、メラーンガルの市場で店を出すことを許可された商人であることを示す許可証を偽造したものを屋根からぶら下げて、いかにも商人の馬車でございますと主張しながら街道を進む馬車の荷台で……全身をローブで覆い隠し物騒な武器を手にした男達が無言で時を過ごしていると……そこに一人の、安っぽい麻服姿の男が駆け込んでくる。
「いやぁ、駄目だわ、あの関所は突破できねぇよ。
あの代官の鎧と武器……アースドラゴンだ、例の大襲撃以来あちこちで素材を見かけるからなぁ、見間違えはしねぇよ。
その上、あいつは動き方がなぁ……多分、元兵士だぞ。
兵士上がりの全身アースドラゴン装備の代官とやり合うなんざ、冗談じゃねぇよ」
駆け込み馬車の隅に腰を下ろすなり男がそう言うと……ローブ姿の一際体格の良い男が大きなため息を吐き出す。
「つーか、正面からやり合うんじゃなくて今みたいに商人になりすまして通るとか色々あるだろ?
なんで正面突破の話ばっかなんだよ」
更に男がそう続けると、体格の良い男がようやく口を開いて言葉を返す。
「そんなのは真っ先に試したに決まってんだろ。
商人に成りすまし、旅芸人になりすまし……どんな手を使ってもどういう訳か、すぐにバレちまう。
領民になりたいとか、兵士になりたいと言っても駄目、そこらの女を雇って色仕掛けをさせても駄目……逃亡奴隷とか暴力旦那から逃げてきた妻子とか、お人好し好みの演出をしても駄目で……奴隷として雇った連中が言うには、嘘をついた瞬間態度が変わっちまったとかなんとか……。
そいつの嘘のつき方が下手なだけかと思ったが……その後何組か送り込んでも駄目だったからなぁ……。
その上、あの代官……しっかりとした教育を受けてんのか法にも詳しくて、デマカセでどうにかしようとしても通じやしねぇ。
あらゆる手を尽くして残すは正面突破しかねぇってのが現状なんだよ」
「……あの関所が塞いでるのは森の中の街道だけだろ?
関所を無視して森の中を通り抜けるってのは駄目なのか?」
「お前がやりたいのならやってもいいぞ。
……ただあの代官は俺達みたいなのがそう考えることを承知しているだろうし、当然のようにその対策をしているんだろうがな。
関所破りは即縛り首……森の中を抜けても同じことで、そんな森の中を地図も情報もない状態で通り抜けるなんてのは自殺と変わんねぇぞ」
「情報……情報かぁ。
まさか情報にあんな買値がつけらてるなんてなぁ……物や家畜盗むのが馬鹿らしくなるよな」
と、そんな会話をする男達は、職にあぶれて盗みを始めた盗賊達だった。
物を盗み家畜を盗み、それらを売りつけていた故買屋から、メーアバダル領の情報にとんでもない値段がついていると教えられ、慌ただしく準備をし出立し……そして森の中の関所に阻まれ何十日という時を無駄に浪費してしまっていた。
「……しかし、誰が情報なんてもんを買い取ってくれんのかねぇ?」
馬車の中にいた別の男がそう問いを投げかけると……どうやらこの一団の頭目であるらしい体格の良い男が答えを返してくる。
「仕事をするからには必要だと思って調べてみたが……買い手は複数いるようだな。
失敗するはずの開拓に成功し、新公爵となって次々ドラゴンを狩って大儲けして……その上、新領地を手に入れ岩塩鉱床まで手に入れて……珍しい羊でも手に入れたのか、とんでもなく質の良い布を次々出荷している。
最初は名ばかり公爵で終わると踏んで放置していた連中も、そこまでされちゃぁ黙っていられず、あれこれ調べるが情報は全く出てこねぇ。
人を送り込もうとしても全てあの関所に阻まれ……出入りしている商人を買収しようとしてみても、無視されるか何も知らないかのどちらか。
霧に包まれたかのように、何も分からねぇともどかしく思っていたところに王都に貴族を送り込んできての、社交工作をしてきやがった。
一体何が目的なのか……リチャード派閥なのか、それとも新たな派閥を作ろうとしているのか、何も分からな過ぎていよいよ貴族達が黙っていられなくなったってとこらしい。
更にはまぁ……お隣さんも良い値段をつけてるって話だ」
お隣さん、それはこの一団にだけ通じる隠語の一つで……隣国、帝国もしくはその手の者達を示す言葉だった。
国内の貴族達と帝国が情報を欲している、それがゆえの高額の買い取りで……その金額のことを思い出した男達は、その金で美味いものを食おうと喉を鳴らし、畑を買うぞと拳を握り……更に派手に暴れるための資金にするぞと目を鋭くする。
「……こうなったら仕方ねぇ、他にもメーアバダルを狙ってる連中がいるだろうから、そいつらと手を組むぞ。
……まぁ、手を組むっても関所を破った瞬間、商売敵になる訳だが……」
それはつまり敵を増やすことになり、目立つ分仕事の難度も上がり、報酬が少なくなる可能性もある訳だが……ここで何も出来ずにいる訳にもいかず、旅費や滞在費のことを考えるとここでの仕事を諦めるという訳にもいかず、苦渋の決断ではあるが他に道はなく、男達は納得し……すぐにどうやって他の連中を出し抜くかと、そんなことを考え始める。
それから馬車の中の盗賊団は……馬車が最寄りの町に到着するまでの間、無言で自分達になんとも都合の良い空想を続けるのだった。
――――日が沈み始めたイルク村で ディアス
ペイジン達やエルダン達、旅芸人達まで手伝ってくれたこともあり、パーティの準備はあっという間に……思っていたよりも豪華に出来上がった。
広場を囲うように柱が立てられ、柱と柱を繋ぐようにロープがかけられ、そのロープに色とりどりの布や造花、草原の白い草や薬草の花などの様々な飾りが下げられ……そんな飾りを明るく照らすかのように、広場の中央では大きな焚き火が燃えている。
そして洞人族達が組み上げたダンスのための台があり、休憩用の絨毯や椅子があり、料理を並べるためのテーブルもあり……当然のようにゴルディア達が用意した酒の場もある。
旅芸人達が芸を披露する場もあるし、ペイジン達が商売する場もあるし、広場だけでは場が足りないからと何軒かのユルトを移動させてまでして作り上げたパーティの場は、イルク村の今までの宴とは比べ物にならない規模となっていた。
そこに東西の関所で働く者達の何人かが合流したことにより、人数と言うか賑やかさもかつてないものとなっていて……そんな広場というかイルク村は、今までとはまるで別世界となっていた。
そんな様子を正装を着込んで見守っていると、エリーに用意してもらったのか、赤色のいつもより少しだけ派手な服を来たマヤ婆さんがやってきて、声をかけてくる。
「アルナーちゃんの準備はもうちょっとかかるから、坊やは皆の様子を見てくると良いよ」
私が正装を着込んだようにアルナーもパーティ用の衣装に着替えたり化粧をしたりとしているようで……婆さん達やエリー、ダレル夫人にフェンディアまでが手伝っているそれを待っていた私は「分かったよ」とそう言ってから、皆の様子を見て回るべく歩き出す。
どこから、誰の様子から見て回るか悩みながら足を進め……それから一段と賑やかとなっている一画、旅芸人とナイフ投げ勝負をし始めたらしい、セキ、サク、アオイの三兄弟が中心になっている場へと足を向けるのだった。
――――あとがき
お読み頂きありがとうございました。
次回はクラウス視点でのあれこれです。
そしてお知らせです
ニコニコ静画やpixivコミックにてコミカライズ最新47話が公開されています!
コメント付きで楽しみたい方はニコニコ静画さんの方をチェックしてみてください。
そしてコミックアース・スターさんでの48話公開は31日予定となっておりまして、いつもとは違うタイミングとなりますので、もう少々お待ちいただければと思います。
応援や☆をいただけると、クラウスのやる気が増々になるとの噂です。
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