第384話 桁違いの贈り物
セナイとアイハンと一緒に広場を巡り、一通り芸を見て……私達と同じようにフランシスとフランソワと一緒に芸を見ていたらしい六つ子達と合流すると、疲れてしまったのか六つ子達が大あくびをし始める。
それを受けてセナイ達は六つ子達を抱えてユルトへと戻っていって……その後ろ姿を見守りながら、私はどうするかなと考えていると……話し合いが終わったのかオクタドがこちらへやってきて、声をかけてくる。
「メーアバダル公のおかげでほっんとうに素晴らしい出会いに恵まれました、感謝感激でございます! このお礼に関しましてはまたいずれ……!
話は変わりますが、今回用意した品々も中々のものでして……そちらの説明をさせていただければと思うのですが、よろしいでしょうかな?
すでに商会の者達に荷下ろしをさせ、倉庫の前に並べさせて頂いておりますので、一旦そちらにご足労頂ければと思います」
ああ、そう言えば随分な量の馬車の列がやってきていたなぁ……あの全てが祝いの品という訳でもないだろうが、オクタドのことだからなぁ、かなりの量になっていそうだ。
その確認と整理は早いうちにやっておくべきで、すでにヒューバートが進めてくれそうではあるが……私も確認はすべきだろう。
「ああ、分かったよ、早速行くとしようか」
と、そう言ってオクタドと連れ立って倉庫の方へと向かい……倉庫の前に敷かれた赤い布の上にずらりと横並びになった……見慣れない箱の前に立つ。
黒塗りでテカテカとしていて……箱の四隅や要所には金の装飾、左右には鉄製と思われる取っ手があり、箱の底に短い足のような装飾もあり、それによって自立しているような形となっている。
見慣れない……なんてことを思いはしたものの、似た様式の小さな箱は以前ペイジンに見せてもらったことがあり……それを大きく、かなり大きくして派手にした、という感じだ。
その大きさは私でも持ち上げられるかどうか微妙なもので……あの左右の取っ手はどうやって持つものなのだろうか? なんてことを思ってしまうが……ああ、いや、あれは一人ではなく二人で持つためのものなのかもしれない。
それならばなんとかなりそうで……ただの荷箱とは思えない程に豪華で立派なその箱の中身は一体何なんだろうなぁ……。
なんてことを考えていると、倉庫の中から分厚い目録を見やりながらヒューバートが現れて……こちらに気付くなり駆け寄ってくる。
「ディアス様、積荷の確認ですか?
こちらでもある程度進めておいたのですが……名前だけではどんな積荷か分からない品もあって……ペイジン商会長、その辺りの説明もお願いしてもよろしいでしょうか?」
ヒューバートがそう言うとオクタドは大きく頷いて……目録を覗き込み、どの品のことなのかを確認してから……箱へと近寄り、蓋を掴み持ち上げ……箱から完全に外した蓋を横に置いてから、中身を取り出しこちらに見せてくる。
「こちらは琥珀でございますな、こちらは翡翠、そしてこちらはサンゴを削ったものでして、宝石とはまた趣が違いますが、獣人国では同じように愛されている品となっております。
そしてこちらの箱の中には厄除け人形……工芸品と思ってください。
それとこれは獣人国産の高級布でして……一番上等とされている染料で紫色に染めたものですな」
そして説明をし始め……私には分からないものばかりだったが、ヒューバートは「ああ、本で読みました」とか「名前だけは知っています」とか、そんな言葉を口にしながら説明に聞き入っている。
「そしてこちらの箱には獣人国の武器がいくつか入っております。
決して物騒な意味合いを込めた訳ではなく、獣人国ではこういった贈り物が喜ばれ、ありがたいとされているのです。
それでも武器ではありますから、王国に持っていくなんてことは普通は許可されないのですが、獣人国に現れたアースドラゴンを討伐し、神と邂逅したメーアバダル公の評価は獣人国でもかなりのものとなっておりまして……参議でもあるキコ様の働きもあって、今回正式な許可をいただくことができました。
こちらの箱には剣が数振り、あちらには槍、そして弓が入っておりまして……それぞれ作った職人の名が銘として刻まれており、目録に書かれているのは銘の方になりますな。
……ああ、それとこちらの箱には本が何冊か入っております」
本、という言葉を聞いた瞬間、ヒューバートの目がキラリと光る。
メガネをぐいと押し上げて位置を整え……鼻息を荒くして興奮を顕にして「外国の本!」なんて声を上げながらオクタドが示した箱へと飛びつく。
そしてオクタドに手伝ってもらいながら箱の蓋をあけて……そして中身を見た瞬間、ヒューバートは何故だか凍りつき、微動だにしなくなる。
「おや、宝石本は初めてご覧になられますかな?
本もまた武器と同じく王国へ持ち込むことは禁止されていたのですが、同様に解禁となりまして……獣人国の歴史書や、神話に関する本……などを数冊、用意させていただきました。
どれもこれも宝石本と呼ばれる装丁となっておりまして……表紙に金糸銀糸で刺繍をし、宝石をはめ込み、金箔でもって飾り立てた中々の逸品となっておりますな」
そんなヒューバートのすぐ側でオクタドが説明を続けると……ヒューバートは震えながら倉庫に入り……倉庫の中に置いてあったらしい手袋をして戻ってきて、宝石本とやらを手に取り、タイトルを確かめてから開き読もうとし……そしてがくりと項垂れる。
一体どうしたのだろうかと近付いてヒューバートが持っている本の中を覗き込んでみると……なるほど。
……まぁ、そうだよな、獣人国の本なのだから、獣人国の言葉で書かれているよな。
読めない本だとしてもその装丁からしてかなりの芸術品であることは明らかで、芸術品として持ってきてくれたのかな? なんてことを考えているとオクタドが懐からボロボロの……かなり使い古されているらしい本を取り出し、ヒューバートに手渡す。
それを受け取ったヒューバートは首を傾げながらも本を開き、ペラペラと数ページめくってから……どんなことが書いてあったのか目を丸くしてそれを読み進め始める。
これまた一体どうしたのだろうから覗き込んでみると……どうやらこの本はオクタドが王国語を勉強するために使った辞書のようなものであるらしい。
そしてオクタドはどうやらそれをヒューバートに贈るつもりのようで……ヒューバートは喜びのあまりにその辞書を抱きかかえて空を見上げて……感動でもしているのか動かなくなる。
どうやら復帰にはしばらくかかりそうで……ならばと私とオクタドとで、残りの箱の確認を進めるのだった。
――――一方その頃、広場で
ディアス達が倉庫で積荷の確認をしていた頃、旅芸人達の芸が一段落した広場では、エルダンやダレル夫人が中心になっての宴……ではなくパーティの準備が進められていた。
エルダンが考えた二人きりにするという案よりも、いっそのこと堂々と……皆の前で良い雰囲気になってもらった方が良いはずだというダレル夫人の提案が通ってのディアス達のためのダンスパーティだ。
そのための道具も飾りも揃っているとは言い難いが、エルダンがあれこれと持ってきていたし、エリーがいつか必要になるだろうし少しずつ準備をしていたし……楽器は旅芸人達が持っているしで、なんとかパーティを開催出来る状況にあり……その準備は着々と順調に進んでいくのだった。
――――あとがき
お読み頂きありがとうございました。
次回は東の関所で頑張っているクラウス視点となります
応援や☆をいただけると、ヒューバートの翻訳が順調に進むとの噂です。
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