第368話 アイサ達の……


――――まえがき


・登場人物紹介


・ゴルディア

 人間族、男。孤児時代のディアスの友人、ディアスに続くNo2であり、後に孤児の互助組織であるギルドを立ち上げる。


・アイサ

 人間族、女性。孤児時代にディアスが育てた子供の一人、ディアスのことを父と慕っている、後に孤児仲間のイーライと結婚し、ギルドの幹部として活躍した。二つ名は悪辣アイサ。


・イーライ

 人間族、男性。孤児時代に孤児時代にディアスが育てた子供の一人、ディアスのことを兄貴と呼んで慕っている。アイサと同じくギルド幹部で……やらかしがちなアイサのストッパー役。



――――




 何故だかアルナーに脇腹を突かれながら歩いていって、イルク村に入ったなら酒場に向かい、ドアを開けて中に入ると……掃除中だったのか、ホウキ片手でエプロン姿のゴルディアの姿が視界に入り込む。

 

 体格に合わせたものをナルバント達が作ってくれたのか、かなり大きなホウキを器用に使いこなしていて……酒場のテーブルの上に金塊をゴトリと置きながら声をかける。


「ゴルディア、隣領で家畜を何頭か買って欲しいんだが……支払いにこの金塊は使えるか?」


 するとゴルディアは、ホウキで集めたチリをチリトリで拾い上げ、窓の外に捨ててから言葉を返してくる。


「お前またずいぶんとでけぇ金塊持ってきたなぁ……そんなにあったらお前、隣領の家畜市場が丸ごと買えちまうわ。

 ……一旦金貨に替えてから使う方が良いだろうな。

 とりあえず隣領のギルド支部に行ってそこで両替、それから市場で家畜を買って……4・5日もあれば帰ってこられるだろうな。

 エリーはいつもの行商で忙しいから、アイサとイーライに頼むとするか……。

 あいつら酒場の仕事やギルド支部の仕事させてたら、もっと他のことしたいとか、自分の店持ちたいとか、そんなことばっか言いやがってよ……全く、いつの間にか生意気になったもんだよ」


 そう言ってからゴルディアが掃除を再開させようとしていると、酒場の奥からエプロン姿の……満面の笑みのアイサが姿を見せて、ゴルディアのことを見やりながら声を上げる。


「従業員をしっかり揃えていないのに立派な酒場を建ててもらったとかー。

 ギルド支部の仕事を半端な状態で投げ出したとかー、そもそもギルド長が半隠居状態になってるんじゃないとかー、色々と言いたいことがあるしー……ゴル叔父さんも大概生意気だと思うんだけどー?

 私達が手伝ってなかったら色々なことが破綻してないー?」


 その声はいつになく柔らかいものだったが、奥底には力が込められていて……ゴルディアは視線をそらし、ホウキを激しく動かし、懸命に掃除をしている振りをする。


 生意気と言われたことを根に持っているのか、アイサはそんなゴルディアから視線を逸らすことはなく……両手を腰に当てて、ずいと上半身を乗り出すような姿勢でゴルディアのことを見やり続ける。


「……いや、まぁ、そこまでにしとけよ、アイサ。

 ゴルディアさんをいじめてもしょうがないだろう……俺達だってそのくらいのことはする覚悟でここに来たんだし……」


 するとイーライもまたエプロン姿で奥からやってきて、アイサの肩に手を置いて落ち着かせようとする。


 イルク村に来てからずっとゴルディアの……ギルドや酒場の手伝いをしていたアイサとイーライだったが、二人は二人でやりたいことがあるのだろうか?


 ならばやらせてやるのが一番だろうと私が、


「アイサとイーライはイルク村で何をやってみたいんだ?」


 と、問いかけるとアイサとイーライはお互いを見合って……それからイーライが代表する形で返してくる。


「領内を移動する商店をやろうかと考えてるんだ」


「……移動する商店? それはエリーの行商とは違うものなのか?」


「んー……似て非なるものって感じかな。

 エリーはここの品を売ってよそにしかない品を仕入れてくる訳だけど、俺達は仕入れてきたその品や領内各地で手に入るもの運んで売ってって感じの商売をしたいんだ。

 今はほら、イルク村だけじゃなくて東西の関所があるだろ? 他にも迎賓館があるし、鬼人族の村もあるし、鷹人族との取引だってある。

 そこら辺のことまでエリー達に任せると流石に負担が凄いって言うか……帰ってきた時くらいは休ませてやりたいからな、領内のあれこれは俺達がやってやろうかと考えてるんだよ」


 と、そう言ってイーライは森の方を指差しながら説明を始める。


 森の中で手に入るものというと獣肉や木材、木の実やキノコ、ハチミツがある。


 それらをイーライ達が取ってきてイルク村や鬼人族の村、西側関所で売って……今度は西側関所側で鉄を仕入れてみたり、イルク村でメーア布を仕入れてみたりして、それらを東側関所なんかに運んで売る。


 今まではエリー達だったり犬人族達だったりがやってくれていたそういった運搬作業を専門にやる商人になりたいんだそうで……そのついでに、領外からやってきた商人の管理などもやりたいと考えているらしい。


 領内に入れる訳にはいかない商人からは品物を買い取って、その品を領内で売って……追々領内に入れても問題のない商人が現れたら、商売の場を用意してやったり案内をしてやったり……犯罪などをしないように見張ったりと、そんなことをやりたいらしい。


「―――つまりはまぁ、特権ありの御用商人とか調達商人とか言われる仕事をやりたいんだ。

 兄貴としても変なやつらに任せるより、俺達に任せた方が安心だろ?

 それにほら、俺達ならゴルディアさんやギルド相手でも『ちゃんとした商売』をやれるしな」


 するとゴルディアはなんとも言えない苦笑をする。


 ゴルディアとしては私達相手に変な商売をするつもりなんて全く無かったのだろうが、それでもアイサとイーライがこちら側につくというか、目を光らせるとなると気を引き締める必要があるのだろうなぁ。


「そう言うことならアイサ達のための馬と馬車もこの金塊で仕入れるとするか。

 ……えぇっとイルク村のためのヤギと、鬼人族の村のヤギと……ああ、そうだ、モールが白ギーも欲しいと言っていたな。

 それとアイサ達の馬と馬車と……それと一応冬備えのための保存食かな、そこら辺を買って欲しいんだが、どうだ?」


 私がそう言うとアイサとイーライはあえてそれを無視するというか、受け流すような態度と表情を見せてきて……そしてゴルディアが苦笑しながらもコクリと頷き、言葉を返してくる。


「ああ、ああ、その金塊がありゃぁ十分だろうよ。

 ただし、そこまでの買い物となると流石に人手を借りることになるぞ……ジョーとロルカは結婚だなんだで忙しいからリヤン隊になるかな。

 それとアイサ達が抜けた人手をなんとかしたいから、人を……洞人族か鬼人族をここで雇わせてもらうぞ、構わないよな?」


「本人達が良いのであれば問題ないよ……ゴルディアなら心配ないと思うが、賃金もしっかり払ってくれよ」


「あーあー、任せとけ任せとけ……っと、そうだな。

 酒もたんまり仕入れておかねぇとな……冬になれば外に出れねぇ体を温めてぇで需要が増えるからなぁ……ディアス、ついでに酒も仕入れさせてもらうぞ。

 ……だ、大丈夫だよ、ちゃんと売上出たら村に還元するよ、ディアスの金で仕入れて丸儲けなんてことしねぇよ」


 ゴルディアの言葉の途中でアイサとイーライが目を細くし……それを受けてゴルディアが慌てた様子で言葉を加える。


 正直商売に関しては分からないことばかりな私は、細かいことはアイサ達に任せることにして……酒場に来たからとさっさと席について、近くの棚の酒瓶をじぃっと見つめ続けているアルナーに付き合うため、向かい合う席に腰を下ろすのだった。




――――あとがき



お読みいただきありがとうございました。


次回は父メーアのことや、他の場所のあれこれになる予定です。



応援や☆をいただけると、アイサ達の馬の質がよくなるとの噂です。

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