第352話 討伐戦開始



 ドラゴン討伐軍の編成が終わったら、今度は装備の準備が始まった。


 私やサーヒィの装備は整っているが、他の面々は完璧とは言えず、洞人族総出で完成を急ぐことになった。


 以前現れたアースドラゴンの素材は売らずに装備にすることが決まっていて、ある程度準備していたというか、作業が進んでいたこともあって問題なく完成するそうだ。


 それ以前の装備は鬼人族の職人に作ってもらっていたが、今回は洞人族達が作る訳で……かなり出来が良いと言うか、段違いの性能になるらしい。


 クラウスの鎧よりも動きやすく使いやすく……クラウスが言うには全くの別物と言って良い程だとか。


 もちろんクラウスの鎧や槍にも手を入れて、出来る限り使いやすくしてくれるそうで……マスティ氏族達が使っていた竜牙、竜鱗のマントと名付けた装備も同様に手入れをするそうだ。


 ジョー、ロルカ、他10人もアースドラゴン装備、パトリック達はあくまで神官だからと神官服で挑むつもりらしく……せめて強度の高いものをということでメーア布で作ったものを用意する。


 洞人族の若者達……洞人族の中でも指折りの戦士達もアースドラゴン装備、それと以前フレイムドラゴン戦で使ったメーアワゴンも使い……鬼人族の戦士達は向こうで作ったアースドラゴンの弓矢。


 スーリオ達はあくまで隣領所属なのでアースドラゴン装備をこちらで用意する訳にはいかない……が、鉄の装備くらいは構わないだろうとのことで、洞人族製の鉄鎧と鉄爪。


 ゴブリン達にも洞人族製の鉄槍が用意されることになり……本人達の希望で三叉槍と言う三つの穂がある形になる。


 ペイジンにも鉄装備が用意されることになり……本人の希望でショートソードを5本程用意することになった。

 

 何故5本かと言えば戦い方の関係で数が必要らしく……予備という意味でもあるらしい?


 鉄の防具を使うのは苦手だとかで、ペイジンの防具はパトリック達のようにメーア布で作ることになり……何かこだわりでもあるのか、茶色に染めた全身を覆うような服になるようだ。


 私はいつもの戦斧にオリハルコンの鎧兜、投げ斧という装備でクラウス達と一緒に行動するためベイヤースには乗らない。


 サーヒィはウィンドドラゴン装備、サーヒィの妻達はあくまで連絡役ということで装備は用意しないようだ。


 用意しようにも出来ないというか……空を舞い飛ぶのに支障がない装備となると、どうしてもウィンドドラゴン素材が必要になってくるようだ。


 そしてアルナーは……まぁ、いつも通りの格好となる。

 いつもの服にアースドラゴンの弓矢、そしてカーベランに跨っての参戦だ。


 カーベランと一緒に行くならばと洞人族達が馬鎧……馬用の鎧を用意しようかと言ってくれたが、アルナーが言うには無いほうが動きやすいとかで、用意しないことになった。


 洞人族達が言うには薄い鉄板を、何枚も何枚も縫い合わせて、馬の背中から覆うようにしてかけてやると、そこまで動きを邪魔しない良い装備になるそうだが……アルナーとカーベランにはそれでも邪魔になってしまうようだ。


 鬼人族の戦士達も愛馬と共に参戦するが馬鎧は必要ないとかで……どうしても防具をつけるとなっても、メーア布製のものを使うのが常なんだそうで……それ以外の防具をつけての戦い方を知らない状態で馬鎧をつけるのは逆効果にしかならないそうだ。


 そんな感じで装備が用意されていき……完成次第慣らしを兼ねての鍛錬が行われ、戦闘中の合図や陣形などの確認も行われ……数日が過ぎた。


 マヤ婆さんの占いではそろそろドラゴンが現れるということになっていて……出現地点である北の山にはサーヒィや洞人族達が巡回をしてくれている。


 足の遅い洞人族達は巡回に不向きなのだが、地中の振動や山のちょっとした変化に敏感に気付くことが出来るそうで……メーアワゴンをマスティ氏族に牽いてもらってあちこちを見回ってくれている。


 その間、私達は装備をしっかりした上で、イルク村で待機していて……大体の面々が広場に集まっている。


 装備の手入れをしたり、体を軽く動かしてほぐしたり、馬の世話をしたり……誰かと談笑したり。


 そんな中で私は能力の発動のために日光と魔力が必要なオリハルコンの鎧兜の準備をしていて……太陽に向かって両手を大きく広げながら仁王立ちになり、兜の上のエイマと左右に立つセナイとアイハンに魔力を注入してもらっていた。


 ナルバントが言うには、そんなポーズを取らなくとも普通にしていたらそれで良いらしいのだが……セナイとアイハンが、


「いざという時のために準備しておく!」

「だいじなときに、ちからがたりなくなったら、どうするの!」


 なんてことを言っていつになく頑なな態度を取っていて……二人なりに心配してくれている、ということなのだろう。


「ドラゴンいっぱい狩ってきてね! モンスターもいっぱい!」

「にがしちゃだめだよ! ぜんぶたおしてきてね!」


 心配しながらも応援の言葉が勇ましいというか、妙に好戦的なのはアルナーの影響なんだろうなぁ。


「たくさん狩っていっぱい稼いで!」

「やせいのめーあも、どらごんきたらこまっちゃうから、ぜんぶだよ!」


 そんな二人の言葉は私やジョー達からするとちょっとだけ驚いてしまうものなのだけど、鬼人族からすると当たり前……というか、むしろ褒めたくなるようなものらしく、私達がなんとも言えない表情をする中、ゾルグを始めとした鬼人族の戦士達は嬉しそうというか満足げというか……立派に成長したセナイ達を微笑ましげに眺めていて、ゾルグに至っては「良い女になったなぁ」なんて言葉を感慨深げに呟いていたりする。


 そうやってなんとも言えない時間を過ごしていると、北の空から聞き慣れた大きく翼を振るう音が聞こえてきて……直後エイマは私の懐に潜み、ゾルグ達は乗馬をし、セナイ達はささっと私から離れ、出来たばかりのアースドラゴン装備のジョー達はクラウスと共に整列した上で全員が揃っているかの確認をし始める。


 洞人族達は巡回中、マスティ氏族はその手伝い。

 パトリック達が私の側へと駆けてきて、スーリオ達ゴブリン達も同様に、そしてペイジンは目元以外を布で包み、独特の……獣人国風らしい全身服を身にまとい、鞘に納めたショートソードを腰に下げ背中に背負うという、格好で静かに現れ……そうして全軍の準備が整う。


「山に異変ありです! 何かが山肌を突き破ろうとしています!」


 そこに鷹人族の女性、リーエスがやってきて声を上げて、それを受けて私達は北に向かって足を進め始める。


 見送りは村に残る皆で……ベン伯父さんやフェンディアは静かに祈り、オリアナは「ご武運を」と言いながら静かに一礼をし、マヤ婆さん達はシワを寄せた笑顔で「暴れておいで」とか「占いを忘れないで」とか「終わったらまた宴だねぇ」とか、呑気なことまで言っていたりもする。


 そんな皆に見送られながら足を進めて……しばらく進むと、またも鷹人族の女性、ビーアンネがやってきて、慌ただしく声を上げてくる。


「敵はドラゴンだけではありません、正体不明が多数! 洞人族の皆さんはそれらに追われる形でこちらへの合流を急いでいます!」


「アルナー! ゾルグ! 洞人族の援護を頼む! クラウス! ジョー、ロルカ! 駆け足!」


 反射的に私の口からそんな声が出ていく、クラウスやジョー達が側にいるおかげか戦争の時の感覚が戻っているようだ。


 緊急時でもしっかりと考えた上で指示を出すジュウハと違って私の指示は勘頼り、とりあえずの指示を直感的に出してから、内容に問題ないかと考えて行動していくというアレなものだが……うん、問題はないようだ、懐のエイマからも異論は上がってこない。


 足の遅いゴブリン達を置いていく訳にはいかないし、モンスターまみれの北の山近くで戦うのもどうかと思うし……騎馬のアルナー達に援護させた上で、次に速く移動出来るクラウス達に任せておけば状況に合わせて行動してくれるはずだ。


 私達は着実に仲間を置き去りにしないように足を進めることにし……焦れた様子で懸命に足を動かしているゴブリン達と共に北へと向かう。


 するとまだまだ草の残る、北の山まで後少しと言う所で、複数のメーアワゴンを展開し、それを防壁のようにして交戦しているクラウス達の姿が視界に入り……その相手を見た私達は目を丸くしながらも駆け出し、クラウス達と合流しようとする。


 すると今までの鬱憤を晴らすかのように、息が切れることも構わずゴブリン達が全力で駆け出し……しっかりと両手で構えた鉄槍を突き出しモンスターを攻撃し始める。


 それは一瞬、何らかの獣人かと思うようなモンスターだった。


 ぱっと見は私の膝丈程の小人で緑色の肌をしていて……毛のない顔は凶悪に歪み、鼻と耳が鋭く伸びている。


「あの邪悪な瘴気……確実にモンスターですよ!」


 懐から上がるエイマの声、どうやらモンスターで間違いないようだが……一体あれはどんなモンスターなのだろうか?


 今までに見たことのない系統というかなんというか……そもそもドラゴンは一体どこにいるのか……?


「この化け物共がぁぁぁぁ!」

「陸のモンスターとはここまで醜悪なのか!!」

「だが弱い、弱いぞぉぉぉ!」

「おお、我らが海神よ、誉れある戦いをご照覧あれ!」

「おおお、この槍のなんと鋭いことか!」

「はははは、手柄首が数え切れんぞ!!」


 ゴブリンのリーダー、イービリスを始めとしたゴブリン達がそう声を上げながら次々に倒していくモンスターは数え切れない程……数百はいそうで、私はしっかりと戦斧を握り直した上で、そんな戦場へと駆け込んでいくのだった。




――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、VSモンスターとなります!


応援や☆をいただけると、ゴブリン達の槍の鋭さが増すとの噂です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る