第353話 ドラゴン出現
緑色の小人は思っていたよりも厄介な相手だった。
体が小さいからか力はそこまでではないのだが、体が小さいからこそ小回りが効く上に素早く、他のモンスターと違って武器を持っているのも厄介だ。
武器自体は木の棒や石と、そこら辺で拾ってきた物でしか無いのだが、それでも力いっぱい振るえば威力は十分で……体格の割に力があるらしい小人の一撃は侮れないものがある。
それでいて小人達は賢いというか小賢しいというか、獣や他のモンスターではまず見ることのない動きを見せてくる。
群れでの連携となると狼もそうなのだが、それとはまた違い……自分達の体の小ささを上手く利用して草に隠れたり、武器をその場その場に応じて投げてみたり、新しく拾って獲得してみたり、仲間の死体を盾にしたり武器にしようとしてみたり、手段を選ばずただただ勝つことだけに執着しているような悪辣さがあった。
一匹一匹は弱い、戦斧を一振りするだけで何匹も倒せてしまうような弱さなのだが……その数の多さと悪辣さが、小人を厄介な存在にしてしまっていた。
……だがまぁ、私達が苦戦しているかというとそうでもなかった。
まずクラウスとジョー、ロルカ達。
長い間一緒に戦ってきただけあって連携が出来上がっていて、多数を相手することにも慣れているので全く問題がない。
アルナーやゾルグが率いる鬼人族達も、戦場全体を囲うように馬を走らせながら草の中に潜む小人達を次々に射っていて……生命感知魔法を使っているのか、小人達がどれだけ必死に体を伏せて隠れようとしていても全く問題ないようだ。
更にはその愛馬達。
小人達が近寄ろうとすると踏みつけるし、その攻撃を敏感に感知して回避をするし……馬上のアルナー達がいちいち指示をしなくとも、それぞれの判断で攻撃や回避をしている。
「ゾルグ! これだけの数が相手だと矢が足りない!」
そんな中、アルナーがそう声をかけるとゾルグは、
「ラァァァァ!」
と、声を上げ、それを受けて鬼人族達はすぐさまに動きを変えて……矢で射るのではなく、馬でもって戦場を踏み荒らし始める。
集団となって味方の邪魔にならないように戦場を駆け回り、次々に小人を踏み潰し……確かにあの方が効率的に小人を倒せそうだなぁ。
そしてゴブリンや犬人族達には背の低い小人は戦いやすい相手であるらしく、全く苦にせず、その武器や防具や鱗を上手く使って有利に戦っていて……獅子人族のスーリオ達は、普段から犬人族達と訓練をしていたからか、それなりに問題なく戦えている。
洞人族の戦士達は……まぁ、うん、なんと言うのかいつも通り。
相手が武器で殴って来ようが爪で引っ掻いて来ようが、噛みついて来ようが気にすること無く全てを受けて、そしてその防具や体の硬さで全てを弾いた上で小人達を殴り潰している。
しっかり戦えるか心配だったパトリック達も、相手が神々の敵とされているモンスターが相手なこともあってか、奮戦していて……この戦場の中で一番苦戦しているのは、私かもしれないなぁ。
戦斧を振るえば倒せるし、相手の攻撃は鎧が完全に防いでくれる……が、力いっぱいに振るう必要のある戦斧で数の多い小人を倒していくのはどうにも非効率だし、結構な確率で攻撃を避けられてしまうし、体格差もあってか死角に回り込まれてしまったりもしている。
投げ斧で対処するとなると一匹一匹丁寧に倒していくことになるし……うぅむ、なんとも戦いにくい。
それでも懸命に戦斧を振るい、振るって振るって振り回していると、まさかこれがマヤ婆さんの言っていた苦戦なのだろうか? なんてことが頭の中に浮かんでくる。
確かにまぁ苦戦と言えないこともないが……いや、そもそもドラゴンはどこにいるんだ? まさかこの小人がドラゴンという訳でもあるまいし……。
「公! 恐らくこいつらは穴ぐらに暮らしていただけの雑魚だ! ドラゴンにその穴ぐらを壊されたかして追いやられたのだろう!」
戦闘音と小人達の悲鳴やら雄叫びやらが響き渡る中、駆け寄ってきた洞人族の若者がそんなことを言ってくる。
「ならドラゴンはこれからやってくるということか?」
「これからやってくるのかこの先で待っているのか、なんとも言えん!
小人がこれで打ち止めなのか、他のモンスターまで追いやられて来るのかも分からん!
ただこの状況で追加は、特にドラゴンは厄介だぞ!」
戦斧を振るいながら私がそう返すと、若者はそんなことを言ってきて……それはまた厄介だ、どうしたものかと頭を悩ませていると、そんな私の隙を突いてか何十かの小人がこちらに突撃してきて……どこからか降ってきた影がそれらを切り裂き、影が投げたショートソードがそれでも私に襲いかかろうとしていた小人達に突き刺さる。
「ディアスどん! この先の様子を見てきたでん!」
その影の正体はペイジン・ドだった。
いつの間にか居なくなっていたと思ったら偵察をしてきてくれたようで……ペイジンと共に偵察に行ってきたらしいリーエスからも声が上がる。
「先程報告した山肌から、赤くゴツゴツとした甲殻を持つ多脚のドラゴンが出現しました!」
「恐らくあれはアクアドラゴンだでん! あっしらも話に聞いたことしかないんだども、水の中で生活している連中から聞いた特徴が合致するでん!」
ショートソードを両手と舌でもって器用に振るいながらペイジンが、これまた器用に口を動かしてそんなことを言い、リーエスは空を飛びながら器用に頷いて見せて同意を示してきて……私は戦斧を思いっきりに振り回し、以前ぶん投げた時のようにグルングルンと回転させながら振るい、そうやって小人達を寄せ付けないようにしながら、どうすべきかと頭を悩ませる。
このままここで小人を全て倒してからドラゴンの下に向かうか、ここは皆に任せて先行するか。
アクアドラゴン……サナトが言っていた水に棲まうドラゴンだったか、確かに山の中にもいるという話だったが……。
「ディアス様! 先に行ってください!」
私があれこれと考えながら戦斧を振るっていると、駆け寄ってきたクラウスがそう声をかけてくる。
「子供が好きなディアス様にとっては、子供みたいな体格なこいつらはやりにくい相手でしょうから、俺達に任せてください! なぁに、すぐに全部倒して追いつきますよ!
見学したいだろうし、スーリオさん達もどうぞそちらに!」
更にそうクラウスが続けると、即座にロルカとリヤンが私の穴を埋めるように動き、スーリオ達が駆け寄ってくる。
子供どうとかは正直意識していなかったのだが、確かに子供との戦闘経験などないし……私が一番苦手な相手なのかもしれない。
そういうことなら悩んでいる暇は無いだろうと駆け出し……更にペイジンが、
「あっしも連絡役として同行しまひょ! サーヒィどんは大軍を俯瞰してこそでっしゃろから、あっしの方が適任でっしょ!」
と、声を上げてついてくる。
更にはゴブリン達が、
「アクアドラゴン狩りであれば我らが本領!」
と、そんなことを言いながら駆けてきて……そうして私、懐のエイマ、スーリオ達3人、ゴブリン達6人、ピョンピョンと跳ね駆けるペイジンという面々でドラゴンがいるらしい北へと向かうことになり……ドラゴンの位置を把握しているペイジンが先導する形となる。
ショートソードを構えたまま、なんとも器用に跳ねて跳ねて、よくもまぁあんな移動をして疲れないもんだと感心するような姿を見せて……草原と荒野の境目といった辺りに到達すると、件のドラゴンが視界に入り込む。
フレイムドラゴンと同じくらいの大きさか、それ以上か……赤いという点もフレイムドラゴンに似ているが……その姿形はドラゴンらしいとはとても言えない。
「ザリガニか? いや、ザリガニにしてはハサミが小さいし、妙に触覚が大きいが……でもザリガニだよな、あれ?」
その姿を見て足を止めた私がそう言うと……懐からはため息が漏れて、スーリオ達は何を言っているんだと、そんな顔を向けてくる。
「ディアスどん、あれはドラゴンだでん、確かにあっしの国でとれるお高いエビに似ちょりますけど、どう見てもドラゴンだでん」
更にはペイジンがそう言ってきて、私はなんとも腑に落ちない気分になりながらも、ザリガニをしっかり見据えた上で構えを取って、フレイムドラゴンよりは戦いやすそうだと、そんなことを思いながら戦斧を振り上げるのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
応援や☆をいただけると、ペイジンの跳躍力が増すとの噂です。
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