第351話 メーアバダル軍
――――まえがき
・登場キャラ紹介
・ジョー、ロルカ、リヤン
人間族、ディアスの元戦友でそれぞれ10人程の領兵を率いる。
・サーヒィ
鷹人族の狩人、三人の嫁がいる
・スーリオ
隣領マーハティの若者で獅子人族、同族のリオード、クレヴェと共にメーアバダル領にて日々修行中
・シェフ
犬人族小型種のシェップ氏族長、黒白毛で快活、嫁は多くモテモテ。
本名はライハートゴードフニャディシェフ・オースン・シェップ
――――
マヤ婆さんの占いは大体こんな内容であったようだ。
来週かそれ以降に北の山にドラゴンが現れる。
それは今までにない強敵で私が苦戦することになる。
……が、諦めずに立ち向かっていれば必ず勝利することが出来るだろう。
私としては『必ず勝てる』という部分に安心していたのだが……他の皆にとっては『私が苦戦する相手』という部分が問題だったようで、安心なんてしていられないと言わんばかりの結構な大騒ぎになってしまった。
来週までに全戦力を揃える必要があるとか、そのための装備を揃える必要があるとか、長期戦になることを見越して食料なんかも多めに用意すべきだなんてことまで始まって……最初はそういった騒ぎを止めようと考えていた私だったが、それらの準備も勝利のために必要なのかもしれないと考えを改めて、傍観することにした。
傍観した結果……来週のドラゴン襲来に向けての話し合いがどんどんと進み、翌日には話がまとまり、こんな戦力でドラゴンに挑むことになった。
まず私、私の補助ということでクラウスとアルナーとエイマ。
鷹人族のサーヒィ達4人、ジョーとロルカが率いる10人、パトリック達神官兵4人、マスティ氏族が10人、洞人族の若者が5人。
鬼人族の村からの援軍ということでゾルグ率いる鬼人族の戦士達が10人、隣領からの援軍ということで獅子人族のスーリオ、リオード、クレヴェの3人。
更にゴブリン族とペイジン・ドまでが参戦を表明し……それぞれ6人と1人。
リヤンは何人かを率いてクラウスの代わりに東側関所の警備、モントも何人かを率いて西側関所の警備、残りの領兵達と、マスティ氏族や他の犬人族達はイルク村の警備に付くことになっていて……そんな中で特にやる気を燃やしているのはジョー達になるだろう。
鬼人族の女性と結婚することが決まったジョーとロルカと領兵5人は、ここが男気の見せ所だと張り切っていて……出稼ぎのような形でイルク村に滞在している女性達も、その手伝いをするぞと張り切っている。
更には同じく結婚することが決まり、相手との関係も順調らしいゾルグもやる気を出していて……そうやって結婚に向かって突き進むジョー達に当てられてなのか、他の領兵達や鬼人族の戦士達もやる気を出している。
ドラゴンを狩れたとなれば、相応の男気を見せたことになるだろうし、相応に盛り上がった宴も開かれるだろうし、その勢いで……なんてことを考えているようだ。
スーリオ達やペイジンに関しては客人なんだからゆっくりするなり、避難してくれて良いと言ったのだが……本人達がドラゴンと戦ってみたい、役に立ちたいとやる気になってしまっていて、こちらが止めても聞かない状態だ。
特に商人であるペイジン・ドの参戦には反対したのだが……行商であるペイジン・ドは盗賊とやり合ったりモンスターとやり合ったりで腕に覚えがあるそうで……今回は特別、ということになった。
ペイジン家に伝統的な武具まであるそうで……そんなものまで引っ張り出して参戦してくれるそうだ。
商会の護衛達はペイジンの馬車やドシラドの護衛に集中するそうで……ついでにイルク村で何かあればその手伝いもしてくれるらしい。
そこまでの大人数な上に客人まで参戦するというのは不安というかいざ何かあったらと心配になってしまうというか、あまり乗り気にはなれない話だったが……いざとなったらあの絨毯があるし、なんとかはなるのだろう。
怪我を治せる不思議な絨毯……色々試した結果、骨折くらいの大怪我でも時間さえかければなんとかなってしまう不思議で物凄い道具。
少し前にジョー隊の一人が鍛錬中の事故で足を骨折したなんて騒動があったのだが、それすらもあの絨毯は治してしまっていて……今回のドラゴン退治でも頼ることになるのだろうなぁ。
仕組みがよく分からないものに頼りすぎるのは良くないとは思うのだが……まぁ、それに関しては戦斧も同じだしなぁ、今更なのだろう。
……今回の編成で問題になったのは軍馬の数だった。
現在イルク村にいる軍馬は8頭で……うち3頭は東側関所で使っていて、1頭はモントが愛用、残り4頭のうち3頭は西側関所で使うということになっていて……残るは1頭。
明らかに数が足りていないというかなんというか……ジョーとロルカの分さえもまかなえていない。
足りないのだったら増やせば良いのかもしれないが……軍馬はそう簡単に買える値段ではないし、買えたとして誰が世話をするのかという問題もあるからなぁ。
軍馬がいれば移動はもちろん、戦闘や連絡にも役立つ訳だし……出来ることなら人数分揃えてやりたいんだがなぁ。
なんてことを考えながら村の見回りをしていたからか、足が自然と厩舎の方へと向かい……家畜達の世話をするシェップ氏族とアイセター氏族の姿が見えてくる。
19頭の馬に7頭の白ギー、2頭のロバに4頭のヤギに3頭のラクダ……それらの世話をしている二氏族は本当に忙しそうで、これ以上数を増やしてしまうと彼らの負担が限界を越えてしまうのは明らかだ。
ガチョウ小屋の方でもそろそろ50羽近くになるガチョウの世話をしているそうだし……うぅむ……。
「いつの間にやら大所帯だなぁ……特にガチョウは一体いつのまにあんな数になったのやら」
思わずといった感じで私の口からそんな言葉がこぼれると、いつの間にやら足元へやってきていたシェップ氏族長のシェフが声をかけてくる。
「ガチョウはですね! エリーさんがちょくちょく買い足してくれるんですよ!
それとどんどん卵が孵ってまして……ボク達の夢のために目指せ300羽です!」
「さ、300羽か? 300羽もなんで必要なんだ?」
私がそう返すとシェフは大きく頷いて、両手で丸い何かを描きながら言葉を続けてくる。
「丸焼きです! ガチョウの丸焼きを一人で一匹ずつ食べるんです! 皆で食べたいんです!
絶対美味しいですし楽しいですよ! 丸焼きのお祭りです!」
「ま、丸焼きかぁ……しかしそんな数になると世話が大変なんじゃないか?」
「別に平気ですよ? 手が足りなければ人数を増やせば良いんです! ボク達の子供もそろそろ働けるくらいに育ちますし……来年はもっと増えますから!」
「しかし……そんなに人数が増えるとそれはそれで大変じゃないか? 管理しきれないというか目が届かないというか……」
「そうですか? 大丈夫だと思いますよ! 大変なくらいに数が増え過ぎても誰かに任せちゃえば良いんです!
任せる人が足りないなら任せる人を増やしちゃえば良いんです! ボク達で言うなら氏族長を増やす感じですね!
あ! もしかして人間族さんも、ボク達みたいにどんどん子作りして増えるんですか? 最近よく増えてますもんね!
なら簡単ですよ、クラウスさんとかモントさんを氏族長にしたら良いんですよ、ベンさんとかエリーさんでも良いんじゃないですか?
なんて名前の氏族になるんでしょうね、今から楽しみです!」
身振り手振りを交えながら、せわしなく楽しそうにそんなことを言うシェフ。
恐らくそれは深い考えがあってのものではなく、自分達もそうだからそうしたら良いという、単純な考えでのものだったのだろうが……思わず「なるほどなぁ」と声が漏れてしまうものだった。
昨日は領民はもう十分だ、なんてことを考えてしまったが……現状軍馬が足りておらず世話をする人が足りておらず、そうなると人を……領民を増やす必要がある……。
シェフの夢を叶えてやるためにはガチョウと世話係を増やす必要があり……今の人数で十分とはとても言えないのだろう。
私にはもう管理しきれないが、クラウス達なら上手くやってくれるかもしれないし……クラウス達に任せたからこそ良い結果に繋がることもあるはずだ。
私が苦戦するような、あるいは負けるようなドラゴンが今後現れるかもしれないのだし……出来るだけ戦力は増やしておくべきなのだろう。
まだまだ結論は出せないというか、あれこれ考えたり皆に相談したりする必要はあるかもしれないが……悪くない考えだと思う。
「ディアス様? どうしました? あ、もしかして氏族名で悩んでるんですか?
あ! ボクの名前参考にしてもいいですよ! ライハートゴードフニャディシェフ氏族とかとても良いと思いません?」
考え込んでいる私を見てか、シェフが良い笑顔でそんなことを言ってきて……それを受けて私は、したたかと言うかなんと言うか、もののついでに自分の名前を氏族名にしようとしているシェフの頭を、これでもかと撫で回してやるのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、謎のドラゴンのあれこれの予定です
応援や☆をいただけるとシェフの毛艶がよくなるとの噂です
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