第346話 思わぬ形での結論
今後の方針が決まり、話し合いが終わり……それから話し合いに参加した面々は、細かい部分の確認を行ったり雑談に花を咲かせたりと、それぞれの時間を過ごし始めた。
ナルバントはゴブリン達に子育てのための施設にはどんな設備があったら良いのかと聞き、ナルバントからあれこれ聞き出そうとしていたヒューバートはそれを諦めてゴブリン達に普段暮らしている海域や海岸の話を聞き、ゴルディアは普段ゴブリン達がどんな取引をしているのかを聞き……エイマとダレル夫人はそういった細かい話をメモしていく。
そしてペイジンはゴブリン達の生活ぶりが気になるのか、日々の生活のことをあれこれと聞いて……その流れでこんな質問を投げかけた。
「そう言えばさっき、鉄器を欲しがってたんども、海の中じゃぁすぐに錆びてしまうでん?
錆びて捨てて新しい鉄器を手に入れてじゃぁ、いっくら船仕事が儲かるっちゅうても厳しいと思うでんども?」
するとゴブリンのリーダーであるイービリスは頷いて、腰紐に下げていた革袋から小さな……本当に小さな鉄のナイフを取り出して、その刃を軽く撫でながら言葉を返してくる。
「全くもってその通りだが、海水に浸かった鉄でも必ず錆びるという訳ではないだろう?
陸に上げてしっかり真水で洗ってから火に当てて水分を飛ばせば、それなりに長持ちしてくれる。
子育てだけでなく、そういった用事のためにも陸地は必要なのだが……陸地の連中はどうにも頑固でなぁ……最近では我らが拠点にしていた孤島にまで入り込んでくる始末で、手に負えんのだ」
「それはまた随分な話でん……。
……ふと気になったんだども、ゴブリンどん達が関わっていた連中ってのはどの辺りに住んでるんで?
南海っちゅうても色々あるもんで……相手が人間族っちゅうことは、獣人国ではなさそうでんども……。
王国語だからーっちゅう話もありましたんども、王国語は言語としては最古参で、あっちこっちに広がっちょりますからねぇ」
ペイジンがそう返すとイービリスは少し悩むような素振りを見せてから、鋭い爪のある指でもって地面を削り、地図のようなものを描いていく。
スタートは恐らくイルク村、それから荒野を描いていって、話にあった大入江が描かれ、それが海へと繋がっていく。
「正直なところ我らは陸地に関しては詳しくない。
相手がどこの誰かなんてことは気にもしなければ詮索もせんのでな、はっきりとしたことは何も言えん。
……が、海から見て大体の位置を示すことは可能で……ここから東に行った辺りとなる。
貴殿らが荒野と呼んでいる死の大地は広範囲だ、西にも東にも広がっていて……東の奥地からは砂舞う風が吹くと聞く。
そんな死の大地はこんな風に南に大きく膨らんでいて……それに沿って迂回した先にある街が取引相手になるな」
大入江を出たら大きく南に膨らんだ陸地に沿う形で東へ進んで行き……絵図から見てもかなりの距離離れた地点にその街があるらしい。
そんな絵図を見て説明を受けて、絵図を覗き込んだ私とペイジンが「ふんふん、なるほど」なんてことを言っていると、海岸などの話を聞いていたヒューバートが合流し、口を開く。
「その位置からすると王国内で間違いはないでしょう。
そして王国内の港町で自分の知っている範囲となると、王都南の港町が該当しそうですが……これ程の距離を行き来しているとは驚きですねぇ……海流の関係で速く移動できるのでしょうか?
そして王都南までやってきていると仮定した場合、気になるのは王都でゴブリンさん達の話を聞いたことが無いということですね。
……港町の者達があえて隠していた? そうする理由は……?
……ゴブリンさん達の存在が知られたら、漁や海運の仕事を奪われるとでも考えたのでしょうか? 確かにゴブリン達がそれらの仕事を始めたら大変なのでしょうが……。
この辺りのことが東部での亜人蔑視に繋がっている……というのは考え過ぎでしょうか」
自問自答のような形でそう言ってからヒューバートはあれこれと思考を巡らせ……それからポンと手を打ち、何か思いついたことでもあるのか目を輝かせながら私に顔を向け……私の側へと近づいてきて、私だけに聞こえるよう小声で、言葉を続けてくる。
(ディアス様、ゴブリンさん達の件は基本的には秘密にし、公にすべきではないと考えるのですが……お一人だけ、陛下にだけこのことをお伝えしてもよろしいでしょうか?)
(うん? 王様にか? それはもちろん構わないが……なんだってまた王様だけに?)
私が同じくらいの小声で返すとヒューバートは、更に声を潜ませてくる。
(あくまで自分の直感なのですが、そうしておくことで陛下にもディアス様にも利があるのではないかと……。
もしかしたら陛下が船を用意してくださる、なんてこともあるかもしれませんし……陛下の御身に何かがあった際、海路でこちらに……ということが可能になるかもしれません。
王都南の港町には、陛下が所有する船が十数隻ありまして……うち三隻は旗艦級と呼ばれる国内最大のものとなっていまして、それを下賜してくださる……という可能性もありますし、悪い結果にはならないかと思います)
(ふーむ? そういうことならまぁ、ヒューバートが上手くやっておいてくれ。
手紙はエルダン達に託せば問題なく届くだろうし……内容に関しても任せるよ)
私がそう言うとヒューバートは大きく頷いて、早速手紙を書く気なのか自分のユルトの方へと駆けていく。
それを見送ってから皆の方に向き直ると……その大きな耳でしっかりと話を聞いていたらしいエイマは「まぁ良いんじゃないですか」とでも言いたげな顔をしていて、なんとなく話の内容を察したらしいダレル夫人も似たような表情をしている。
この二人には色々な意味で敵わないなぁと苦笑してからゴブリン達の……イービリスの下へと戻り、とりあえず空気を仕切り直そうかと口を開く。
「あー……ゴブリン達に船を運んでもらうことになったとして、仮に今話題に出た港町まで運んでもらうとなったらどれくらいの鉄器を報酬として渡したら良いんだ?
大体の量が分かると依頼もしやすくなるんだが……それとペイジン、獣人国にも港町ってあるんだよな? そこまで船で向かったら商売ってしてもらえるものなのか?」
そんな私の言葉を受けてイービリスは、具体的な量までは決めていなかったらしく、顎に手を当てて悩み始めて……他のゴブリン達とあれこれと相談し始める。
そしてペイジンは、ピョンッと物凄い勢いで跳ねとんで、私の目の前までやってきて……これまた物凄い勢いで揉み手をしながら言葉を返してくる。
「もちろんもちろん、港町にあるペイジン商会の方で商いさせていただく……んども、勝手に他国の船が港町まで来たとなったら大問題になるでん、事前の連絡と許可が必要かと思いますでん。
ただまぁ……商売が出来ること自体は国としても大歓迎のはずで、無法を働くという訳でもなければ許可は問題なく下りると思いますでん、その際はあっし共にご相談くだせぇ。
幸いにしてディアスどんは参議のキコ様と友誼を結んでおられて、その上キコ様のご子息がこの地で商人までやっているでん!
キコ様のご子息をば代表に据えれば獣人国の船扱いを受ける可能性まであるでん、大変良いお考えかと思うでん!」
「あー……そうか、そう言われてみればセキ、サク、アオイの三人は獣人国生まれだったものなぁ、すっかり忘れていたなぁ。
エリーの話ではもう少しで一人前になれる……かもしれないとのことだったし、港や船が出来る頃には立派な商人になっているかもしれないな。
商売のついでに故郷に帰ったりキコに会ったりしても良い訳だし……これから来るという血無しの者達にも手伝ってもらえば、上手くいきそうだな」
思わぬ提案を受けて感心しながらそう返すと、ペイジンはなんとも良い笑みで何度も何度も頷き「そうでん、そうでん」と言葉を繰り返す。
まぁ、港も船もまだまだ先のことになるのだろうけども、それでも思わぬ形で道筋が整っていって……ここまで話が固まってくると出来るのだろうし、やる意味はあるのだろうなぁと、そんなことを思う。
鉄器の支払いをどうするかと頭を悩ませているゴブリン達も、そうなるくらいにはやる気があるようだし……うん、港作りに関する話も洞人族達と本格的に進めてみても良いかもしれないなぁ。
なんてことを考えていると、またも考えていることが顔に出たのかエイマとダレル夫人だけでなく、ゴルディアまでが「それで良い」とでも言いたげな表情で頷いてきて……なんとも言えない気分となった私は、頭を掻きながら、
「じゃぁそんな感じでやってみるとするか」
と、そんな言葉を口にするのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、数日後のイルク村となります
応援や☆をいただけると、ゴルディアの筋肉が盛り上がるとの噂です。
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