第334話 フロッグマンの子と家宝
――――まえがき
登場人物紹介
・ペイジン・ド
フロッグマンの商人、父ペイジン・オクタドが経営するペイジン商会所属
ペイジン家の長男で、弟にレ、ミ、ファ、他がいる。
二足歩行のカエルといった見た目で、簡単な上着と帽子、大きなカバンという服装で……諜報員のような仕事もしている? 様子
――――
「いやぁ、ディアスどん! こんな立派な関所が出来上がってるだなんてもう、あっしは驚くやら嬉しいやら! これから行商に来る度にこの立派なお宿でゆっくり休めるのはありがたいことこの上なし!
ペイジン商会の代表としてお祝いと感謝の意を示させていただくでん! いやぁ、あっしらの未来は明るいですなぁ!」
と、そんなことを言ってペイジン・ドはその手を更にペシンペシンと叩いてくる。
どうやらそれは関所が完成しつつあることを祝う踊りのようなものであるらしく、私が礼を言うとペイジン・ドは更に嬉しそうに手を叩く。
そんなペイジン・ドの後ろでは大きな目をした、黒くツルンとした頭の子が興味深げにこちらを見ていて……私がその子に視線を返し、挨拶をしようとすると、それに気付いたペイジン・ドがなんとも楽しげな様子で言葉を続けてくる。
「ああ! すっかり紹介を忘れていたでん!
こっちのはペイジン・ドシラド、あっしの長男でして……未来のペイジン商会を担うことになる我が子を、お得意様であるディアスどんに紹介しておこうと連れてきましてん!
ほれ、ドシラド、おとんが教えてやった言葉で挨拶するでん」
「ハ、はじめまして、ドシラド、でス!」
ペイジンに促されてその子が、なんとも可愛らしい……ペイジン一族とは思えない程の綺麗な声で挨拶をしてきて、それを受けて私達はドシラドの前へと進み、しゃがんでから挨拶をし、ドシラドの小さな手と握手をしていく。
ペイジン・ドに似てその手はしっとりとしていて形もそっくりで……こういう種類のフロッグマンなのだろうか? と、私が首を傾げていると、
「……ああ、確かにカエルの子は、こんな見た目をしていましたね……」
と、挨拶を終えたヒューバートがそんなことを呟いて……子供の頃に湖で見たカエルの子供のことを思い出した私は、妙に納得してしまって「なるほど」との言葉を口にする。
そんな私達の様子を見てか首を大きく傾げたドシラドは、ペイジン・ドが自分に視線を向けていることに気付いて慌てて姿勢を正し、
「ミ、未熟ながら懸命に励んでいきますノデ、今後ともご贔屓頂ければと思い、マス!」
と、そう言って、ペコリと頭を下げてくる。
見た目も声も可愛らしく、ペイジン達とは似ていないようにも思えるが……大きな目や表情、仕草なんかもそっくりで……ペイジン・ドの我が子を見る温かい視線からも、二人が親子であることがよく分かる。
そんな風に我が子の挨拶がちゃんと出来たことを確認したペイジン・ドは、満足げに頷いてから後方に控えていた馬車列に指示を出し……それから私の方へ向き直り、その大きな口を元気よく開く。
「さてさて、本日は商売ではなくお礼に参りましたでん!
あっしらの土地に湧いたアースドラゴンを討伐してくれた上に、避難民を手厚く保護してくださって、本当に本当に感謝の意に耐えないでん!
領主不在の地の弱き民を守り、大きな被害が出る前に事態を終息させたこと、大手柄だと獣王様からのお褒めのお言葉も頂いて……ペイジン商会の立場も評判もうなぎのぼり! それもこれも全てディアスどん達のおかげでございまさぁ!
父オクタドも大変な喜びようで……今回のお礼はそれはもう、奮発ってな言葉では表せないような奮発っぷりでん!」
そう言ってからペイジン・ドは、分厚い紙を長方形に……変わった畳み方でもって畳んだものを持ってきて「目録でん」と手渡してくる。
それを受け取り広げると、王国語で長々と様々な品が書かれていて……、
「いや、多いな!?」
と、思わずそんな言葉が口から漏れ出てしまう。
それを受けてペイジン・ドは、にっこりと微笑み……私の周囲で目録の内容を気にしているヒューバート達や犬人族達や関所で働く皆にも教えてあげようとしているのか、大きな声で目録の内容を口にしていく。
「まずは食料でん! 鷹人族っちゅー人らが活躍してくれたと聞いたでん、彼らのための干し肉を4樽! それから麦に米っちゅーあっしらが好む穀物と保存が効く野菜も合わせて馬車一台分の食料を持ってきたでん!
獣人国で作っとる香辛料や茶もあって……それと酒の方も頑張ってくれた兵士どん達のために用意させてもらったでん!
もちろん相応のお礼ということで金銀も用意させていただきましてん、それと宝石をいくらかと獣人国の上等な服と布も山ほど用意させていただきましたでん、奥方達もお喜びになられると思いますでん。
そんでまぁ……目録の最後にあるように我が家の家宝もお持ちしましたでん」
そう言ってペイジンは先程と違ってバチンッと力強く手を叩き、それを受けてペイジンの部下の熊人族が大きな包みを両手で抱えて持ってくる。
「家宝……? 家宝をくれる気なのか? 大事なものなのだろう?」
その様子を受けて驚いた私がそう言うと、ペイジン・ドはこくりと頷き言葉を返してくる。
「あっしも驚いたんども、父上がそう決めたもんで。
理由は父上の勘がそう言ってるからだんとか……大商人である父上の勘は侮れんでん、あっしらも反対せずその決定に従うことにしたんでさぁ。
まー……家宝とは言えんど、ただ古いだけの絨毯でしかないでん、友好の証とでも思ってくれたら良いでん。
柄は古くっさいのに妙に頑丈で、ほつれもしないもんだから、いつまでも新品みたいでん。
そんな訳だからこの絨毯を持っていると家が没落しないとか、いつまでも繁栄するとか言われている縁起の良い品ですん」
ペイジン・ドの説明が続く中、包みが私に手渡されて……それを両手で抱えた私は、なんとも言えない感覚を覚えて首を傾げ……それからすぐにその感覚が何であったのかと思い出し、包みを床に置いて広げていく。
「……もう何度目だろうなぁ、これだけ続けばいい加減覚えるというか……。
しかし絨毯か、武器が多かった中で絨毯とはどういうことなんだろうな」
広げながら私がそんなことを言うと、私が言わんとしていることを察したヒューバートが、
「ディアス様、室内で試すべきでは……?」
と、声をかけてくる。
戦斧や火付け杖のような力を持っているかもしれない絨毯、その力をペイジン達の前で見せるべきではないと、そう言いたいらしいが……まぁ、ペイジン達なら大丈夫だろう。
「これだけ友好の意志を示してくれている訳だし、ペイジン達の家宝だった訳だし……ペイジン達には知る権利があるだろう。
……力の内容次第ではオクタドに返した方が良いかもしれないしなぁ」
ヒューバートにそう返した私は包みの中の絨毯を……赤い鳥だけが中央に描かれた不思議な柄の絨毯を包みの上に広げる。
それからどう使ったものかと首を傾げて……とりあえず両手を絨毯の上に置いていつものように力を込めてみる。
すると鳥の模様が赤く光って……光って……光っただけで特に何も起きない。
「な、何事だでん!?」
そう声を上げてペイジン達が、そしてダレル夫人が目を見開いて驚く中、私とヒューバートは首を傾げ……そして何故だかわぁっと声を上げた犬人族達が駆け寄ってきて、ズザーッと絨毯の上へと飛び込む。
そうしてゴロゴロと寝転がり、絨毯の柔らかさを堪能しているのか目を細め……そんな様子を首を傾げながら見ていたダレル夫人が、何かに気付いて悲鳴に近い声を上げる。
「き、傷が!?」
そう言って犬人族の足の裏を指差し……裸足で駆けてきたからかその犬人族の足の裏の肉球が傷ついていた……のだが、赤色の傷がすっと塞がり癒えていく。
それだけでなく犬人族達のザラつき固くなっていた肉球がツルンとした、柔らかそうなものへと変化し……それに驚いたヒューバートがそっと絨毯に手を置くと、書き仕事が続いたせいか荒れ気味だった手が綺麗な、肌艶のあるものへと変化していく。
そしてそんな光景を見てか、それともダレル夫人の声を聞いてか、コツコツと義足の音を鳴らしながら駆け寄ってきたモントが絨毯の上に手を置き……それから自分の足に変化が無いことに露骨に落胆する。
「チッ、そう上手くはいかねぇか」
なんてことを言ってモントは犬人族達の様子を見やり「ふぅーむ」と声を上げ……それから懐からナイフを取り出し、袖をまくってからザクリと腕を斬りつける。
すると血が流れると同時に傷が治っていき……絨毯から手を離したモントが血を拭うと、傷は綺麗さっぱりになくなっていて……それを見た私達は、赤い光を放つ絨毯を驚くやらなんて力だと興奮するやらで目を見開き……見開いた目でもって絨毯のことをじぃっと見つめるのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
続きは絨毯やらペイジンやらとなります
そしてお知らせです
来月12月12日発売のコミカライズ8巻の表紙及び、特典が公開となりました!!
近況ノートにアップしておきます!
また既に各通販サイトや各書店で予約開始しています
さらにYouTubeのアース・スターエンターテイメントのチャンネルでもCM動画が公開されています
お手数だとは思いますが是非是非チェックしてみてください!
余談ですが
特典のセナイとアイハンのオオトカゲきぐるみが結構なお気に入りです。
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