第325話 赤い貴族との邂逅

――――まえがき


・登場キャラ紹介


・エルアー伯爵

 年は40、大きな腹に薄くなった金色の頭髪、友好的な態度でもってディアスを利用してやろうと画策中


・アールビー子爵

 年は30、赤い目に赤い髪、年の割には若々しく見える、敵対的な態度でもってディアスを利用してやろうと画策中



――――





 行儀作法を身につけて、相応しい所作で動けるようになって、それで終わりという訳ではない。


 相手と顔を合わせれば会話をする訳で、会話のために相応の教養を身につけ、近々の出来事に関する情報をしっかり集める必要もあるし……相応しい格好をする必要もある。


 それ相応の価値のある服や貴金属でもって己を飾り立てて貴族らしい格好をして……ただまぁ、これに関しては既に準備が終わっていた。


 以前サーシュス公爵と会った時に着た貴族服、あれであれば相応しい格好と言えるはずで……それをダレル夫人に見せてみると、こんな声が返ってきた。


「……アートワー商会長が自ら仕立てた服に文句を付ける貴族は存在しないでしょうね……。

 彼……いえ、彼女のセンスは王族が注目する程とされていますし、素材も希少かつ高品質なメーア布を使っている訳ですし……。

 ……余裕があったらわたくしの分も仕立てて頂きたい程です……」


 更には洞人族達が作ってくれた鎧もある。


 武功でもって貴族となった私であればそういった格好も正装ということになるんだそうで……私の金鎧を見てのダレル夫人の反応はこんな感じだった。


「これはまた件の貴族達が喜びそうな意匠を……。

 よく見てみればこれ以上なく精巧な作りをしていますし……王都の鍛冶師でもこれ程の品を作り上げることは不可能でしょう。

 ……超一流の仕立て職人に鍛冶師に……これだけの品が作れるのであれば道具も一流のものなのでしょうし、それらに負けない程の素材も手に入る……辺境地とは一体……?」


 貴族服でも良い鎧でも良いとなると、どちらにすべきか? という話になってくるが……ダレル夫人によると鎧で良いだろうとのことだった。


 相手は私に難癖をつけようとしている、友好という言葉から縁遠い者達だ、鎧で威圧するくらいがちょうど良いんだそうで……そういうことなら戦斧を持っていってガツンと威圧してやろうかと思ったのだが、なんとも面倒くさいことに武器で威圧となると、やり過ぎというか宣戦布告とか敵対宣言として取られかねないそうで……武器は腰に剣を下げる程度にして欲しいとのことだった。


 ……そう言えばサーシュス公爵も仕込み杖なんてものを持っていたしなぁ、どうやら貴族の武器というか手に持つ物は、なんともややこしいことになっているらしい。


「戦斧よりも火付け杖を持ってください、貴族が杖を持つのは流行と言いますか、もはや作法にまでなっていますから……。

 ああ、だけどそのまま持つのではなく布で包んでおいて……いざという時だけ顕にすると言いますか、見せつけると言いますか……。

 ……その際はわたくしが合図いたしますので、布を広げて顕にして―――はい、そのように使っていただければ問題ありません」


 こんなことを言われてしまう程にややこしいようで……正直ただ火を付けられるだけの杖が貴族の持つ品として相応しいとは到底思えないのだが……他の誰でもないダレル夫人がそう言うのだから、何かこう……それっぽい理由があるのだろう。


 ……そこら辺の理由を聞いてみたのだが、すぐに顔に出てしまう私にそれを教えるのは危険なんだそうで……理由に関してはその時が来たら教えてくれるらしい。


 まぁ、うん、ダレル夫人がそう言うのなら仕方ない……服装と杖が揃って、あとは会話のため教養だが……これに関しては貴族成り立ての私であればそこまで求められないとかで、最低限……連中が来るまでの間に学べる範囲で問題ないらしく、そこら辺の話が終わった後はそこら辺の教養と彼らについてを学ぶことになった。


 領地は隣領の東端、エルダンの父親に領地を買われまくった結果、隣領に張り付いたような形になってしまったらしい場所。


 エルアー伯爵は普通の貴族と言える人物らしい、普通に優秀でそれなりに賢く、誰にでも友好的に接し……そうしながら相手の隙を探って相手を蹴落とすか傀儡にしようとしてくる。


 アールビー子爵は貴族にしては変わり者であるらしい、優秀ではあるのだが少しだけ短慮で直情的、自分は常に正しいと思いこんでいる節があり、それがゆえに他者に対して攻撃的で……貴族のたった一人の男子として生まれてこなければ、ひどいことになっていたであろう性格をしているらしい。


 そんな二人はエルダンの情報によると、ここまでの道中でどういう訳が気が合って手を組むことにしたらしく、二人同時というか同じ馬車でもってメーアバダル領にやってきた。


 その連絡を受けて私は鎧を着込み、腰に剣を……ナルバントがモント達のために作っていた剣を一振り下げて、メーア布に包んだ火付け杖を持ってベイヤースに跨がり森の関所へと向かった。


 同行するのはダレル夫人とヒューバート、エイマは私の懐に隠れてアルナーは隠蔽魔法を使って、空からはサーヒィ達が見張り犬人族達が護衛につき、ついでにベン伯父さんとフェンディアさんまでが私の後に続く関所行きの馬車へと乗り込んできた。


 関所で働く鬼人族の報告によるとエルアー伯爵とアールビー子爵は見たことのないような真っ赤だったそうだ。


 盗賊でもここまで赤くないぞというくらいに赤かったそうで……同行する皆としてはこれから戦場に赴くくらいの気合が入っているようだ。


 私としてはそんなことよりもダレル夫人に教わったことがしっかり出来るかが心配で……ベイヤースの背中の上でピンと背筋を伸ばしながら今までに教わったことを1から思い返していく。


 背筋をピンと伸ばして堂々と、何をするにも急がず落ち着いて周囲の状態をしっかり把握してから行う。


 手足の指の先まで力を込めて、だけども力んではいけない、硬くなってはいけない、しなやかに堂々と、体全体の動きを思い浮かべながら丁寧に優雅に。


 自分が領主であるということを……この領を代表する人物であるということを自覚し、意識し短慮は敵であるということを忘れない。

  

 私の行いはあっという間に王国中に伝わる、王様に伝わる……別に王様に伝わっても良いかなぁ、なんてことを思ってはいけない。


 私は考えていることが顔に出る、だから無表情に徹する、愛想笑いは必要ない、貴族なんだから許される、公爵は細かいことを気にしない。


 そう語りかけてくるダレル夫人のあの表情……無表情ながら柔らかくどこか母親を思い出す表情まで思い出していると、関所が見えてきて……既に打ち合わせが終わっているというか、どういう手筈で行くかと承知しているクラウスを始めとした関所の面々が動き始め……関所の門が開かれる。


 そうしたら私はゆっくり……ベイヤースの足をゆっくり進ませて、ベイヤースには顎を引かせて以前アルナーが話していた訓練された馬にしかできないポーズをさせて……あとでたっぷり岩塩と砂糖を舐めさせてやるからなと、ベイヤースに小声で話しかけてから、関所の門の向こうを見る。


 するとそこには二つのグループが私の到着を待っていた、エルアー伯爵と思われる人物が率いるグループと、アールビー子爵と思われる人物が率いるグループ。


 その両グループの面々は私の姿を見るなり目を丸くして動揺し……伯爵と子爵も表情が崩れているように見える。


 怯んでいるというか恐れているというか……私の登場を予想していなかったという訳でもないだろうに、まさかのことが起きてしまったとそんな表情をしている。


 そんな面々の前まで進んだならゆっくりとベイヤースから降り……首を一撫でしてやってから伯爵達へと向き直り、口を開く。


「わざわざこんな所までご足労いただき感謝します、私がメーアバダル領を預かるディアスです。

 お二人はエルアー伯爵とアールビー子爵と見受けますが、一体全体何用でしょうか」


 ゆっくりと力を込めて、少しだけ偉そうに。


 何度も練習したそんな言葉を私が口にすると……ダレル夫人の話だと二人はすぐに言葉を返してくるはずだったのだが、どういう訳か二人は口を開けたまま硬直し……そのまま少しの間何も言わずに硬直し続けてしまうのだった。




――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、VS? 二人の貴族です



そしてお知らせです

コミカライズ8巻の発売日が12月12日に決定となりました!


これから公開となる40話までの掲載となっていまして……早速一部通販サイトなどで予約が始まっています!


表紙やオマケなど公開され次第にお知らせしていきますので、今後の情報にご期待いただければと思います!!

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