第315話 目的地まで後少しとなった女性達の道中

――――登場キャラ紹介


登場人物紹介


・オリアナ・ダレル


 人間族、40代の女性、王都で礼儀作法の教師をしており、貴族としての礼儀に欠けるディアスのためにヒューバートが手紙で呼び寄せた。

 公爵に呼ばれたことを誇らしく思うと同時に、見知らぬ遠方での暮らしに不安も抱いている。


・フェンディア


 人間族、高齢の女性、神官。ディアスの伯父ベンが新しく作る神殿のために呼び寄せた。

 たまたま出会ったオリアナとは妙に気が合ってこの旅路を心の底から楽しんでいる。


――――







――――マーハティ領を横断する大街道を進む馬車の中で オリアナ・ダレル



 代官との面会を終えるとすぐに立派な箱馬車と護衛が用意され、それからオリアナと神官の女性フェンディアとその道連れは快適な旅を楽しむことになった。


 4人の獣人の護衛達はいずれも紳士的かつ旅に慣れていて、オリアナ達が困ることのないように手厚いサポートしてくれていて……ほとんど初めてと言って良い獣人との交流に対する戸惑いも、旅の中であっという間に解れていった。


 護衛達はただオリアナ達を守るだけでなく、立ち寄った街や隊商宿や軍事施設の観光案内なんかもしてくれていて、それはこれまでの旅路が嘘かと思う程に楽しく快適で……馬車の窓から外を眺めているだけでも、二人の心は高く弾む。


「あちらは最近出来た芸術の館と呼ばれる施設になります。

 歌や踊り、絵画や彫像などを芸術と呼び、誇らしいものとして推奨、領民達に広めることを目的としていて、観覧は領民であれば無料で行えます。

 そちらにある施設も最近作られたもので番所と呼びます。領主様直属の兵士達が常駐しており、治安維持だけでなく領民達からの相談にも対応しており……どちらも軍師殿が提案したものだと聞き及んでおります」


 窓の外には馬車に並走する馬上の護衛の姿があり、その向こうには街道沿いに作られた街の光景があり……爽やかな風が吹き込む開かれた窓の向こうからそんな説明をしてくれる。


 オリアナ達が宿などで耳にした噂によるとマーハティ領では少し前に反乱騒動が起きていたらしい。


 そしてそれを防げなかったことを悔いている軍師があれこれと手を打つことで反乱の芽を摘もうとしているそうで……施設が芸術の館と兵士の番所はその一環であるらしい。


 芸術で領民達を楽しませ日々の不満を解消させ、ひとたび戦火が広まればこの楽しみが失われてしまうのだと教えることで平和な日々を愛するように誘導し……普段から領内を巡り続けているらしい兵士達とは違った視点を持つ番所でもって治安維持と情報収集をし、反乱を未然に防ごうとしているのだとか。


 更には年老いて体力が落ち始めた兵士達に、新たな働き場所を提供してやることで、兵士達の将来への不安を取り除いてやり……兵士になりたいと望む領民が増えるようにとの画策もしているらしい。


「……あの館の意匠に設立目的に……何故だかあの男のことを思い出してしまいますね」


 噂で得た情報のことをあれこれと思い浮かべながら芸術の館のこと見やっていたオリアナの口から、無意識のことなのかボソりとそんな言葉が漏れる。

 

 かつて王宮に仕えていたあの男、過ぎた女好きで酒好きで遊び好きで……自称芸術を愛する文化人。


 そんなあの男は貴族令嬢の教育係として活躍していたオリアナの教え子を口説こうとしたために、オリアナと何度も何度も衝突していて……さっさと王宮を追い出されないものかと願っていたら、本当に追い出されてしまった。


 貴族がどんな存在であるかを理解しないまま、貴族の欲を甘くみたまま貴族達との政争に挑み敗北し、無能として追い出されて……それから戦地に向かい活躍したとか、女遊びにふけっているとか様々な噂を聞いたが今はどうしているのか……。

 

 優れた人物であったことは確かなので、国のため……あるいは誰かのために活躍してくれていることを願うばかりだが……あの性分だ、どこかでとんでもないトラブルを起こして命を落としていてもおかしくはないだろう。


「おや、あちらの方々は……」


 オリアナがそんな事を考えていると隣の席のフェンディアが窓を覗き込みながらそんな声を上げる。


 それを受けてオリアナが視線をやるとそこにはいつかに見た貴族と配下達の姿があり……どうやらまた何かトラブルを起こしているようだ。


 偶然同じ旅路を進むことになっているらしいあの貴族達は、各地で度々トラブルを起こしているようで……こんな風に二人の視界に入り込むことが何度かあった。


(王都の貴族とは全く違った野卑さ……王都の貴族もろくでもないものですけど、辺境の貴族とはこれ程までに……)


 そんな事を考えてオリアナが、これから自分が向かう先にいるのも辺境の貴族であり、平民生まれの公爵とは一体どんな人物であるのかと、本当に自分なんかになんとか出来る人物なのだろうかと不安に思っていると……そんな思いを察したらしいフェンディアがニコリと微笑みながら言葉をかけてくる。


「大丈夫ですよ、メーアバダル公の人品の良さは噂になる程ですし……かのお方はあのベンディア様が手ずから教育した甥だそうですから、心配する必要は全くありません。

 偉大なる成果を上げながらそれを秘して甥のためだけに旅立ったベンディア様の下、新たな神殿を建立なさろうとしているそうですし……一廉(ひとかど)の人物であることは確かでしょう」


 それを受けてオリアナがなんと返したものかと迷っていると、観光案内をしてくれていた護衛とは別の護衛が、馬を馬車に近付けながら声をかけてくる。


「自分は何度かメーアバダル領に足を運びましたが、ディアス様は気さくな人物で、とても親しみやすいお方ですよ。

 我が領から移住した者達からも好かれているそうですし、出稼ぎにいった労働者からも待遇は良いし飯は美味いし、変なトラブルもないってんで好評ですね。

 払いも良いもんですから向こうで仕事があるとなると取り合いになる程で……最近街道敷設の工事が終わって仕事が減っちまったと、嘆いてる連中がいる程ですよ。

 領境の森ん中に立派な関所を作ってて、その工事が終わったら更に嘆く連中が増えるんでしょうね」


「……なるほど。

 誘ってくれた方の手紙にもそのようなことが書いてありましたが、隣領の方にもそう言って頂いているのであれば中々の好人物であるようですね」


 オリアナがそう返すとその護衛はにっこりと微笑んで言葉を続けてくる。


「自分はエルダン様を一番尊敬していますし、これ以上ない程の敬意も抱いていますが……親しみやすさで言うならばディアス様が一番かもしれませんね。

 なんと言ったら良いのか、あの方には言葉に出来ない妙な魅力があるんですよねぇ……偉大で威厳のあるエルダン様とは全く違った不思議な魅力が」


 そう言ってからその護衛はかなり不自然な形で前方へと視線をやる。


 その周囲に居た護衛達も似た様子を見せて……そして馬車が少しずつ速度を緩めていく。


 それを受けてオリアナが何事だろうと首を傾げていると、護衛の一人が前方へと馬を駆けさせたかと思ったらすぐに馬車の側へと戻ってきて、


「エルダン様がいらっしゃいました、皆様を歓待したいとのことです」


 との報告をしてくる。


 それを受けてオリアナはまさか公爵が自ら出迎えをするなんてと心底から驚き唖然とし……それから少しの間があってから大慌てで手鏡を取り出し、自らの髪や化粧、服装の確認をし……その隣でフェンディアは至って落ち着いた様子で神官服を整え、壁に立てかけていた杖を手に取る。


 それから二人は馬車のドアが開かれたことを受けてゆっくりと立ち上がり、馬車の外で待っているらしい若き英雄マーハティ公エルダンに挨拶をするために、ゆっくりと馬車の外へと足を進めるのだった。





――――あとがき



お読みいただきありがとうございました。


次回はディアス視点に戻り、お見合いのその後のあれこれとなります



そしてお知らせです

コミックアース・スターさんでコミカライズ最新38話が公開となりました!

ついにあの子達が産まれる素敵な一話となっておりますので、ぜひぜひチェックしてみてください!



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