第312話 ヤギとお見合い

――――まえがき


・イルク村の商人達


・ゴルディア

 人間族、ディアスの孤児仲間、幼なじみ、ギルドの長で経験豊富、読み書き計算はディアスから習った


・アイサ、イーライ、エリー

 人間族、ディアスが育てた孤児の子供達、ギルドに所属していて、アイサとイーライは夫婦として店を経営していて、エリーは一人で店を経営していた、ゴルディアと同じくディアスから読み書き計算を習った。


・セキ、サク、アオイ

 狐人族の子供達、エリーの下で修行中、普段は行商をしているためイルク村ではあまりみかけない。

 読み書き計算は母親から習った。



――――




――――マーハティ領 東部の街バーンガルの役所の前で オリアナ・ダレル



 神官の女性……フェンディアと名乗った女性とオリアナは言葉を交わすうちにすっかりと意気投合し、旅路を共にするだけでなく宿も共にすると決めて、そうして一晩の静かな夜を過ごした。


 多くを語らずともお互いが求めているものが分かり、して欲しいことが分かり……生まれも生き方も違うが、その心根がよく似ていて……それはまるで姉妹のようで。


 そんな風に信頼し合えている者が近くにいるからか、深い安眠を得ることも出来て……そうして朝を迎えて。


 朝食を終えるとタイミングを計ったかのように役所からの返事が届き、支度を終え次第に二人は役所へと足を向けた。


 石造りの二階建て、いざという時の拠点となることも考慮しているのか役所にしては厳つい作りになっており立派な見張り塔があり、奥には厩舎があるのか馬のいななきが聞こえてくる。


 そんな役所の前には貴族なのだろうか、異様に大きな茶毛の獣と十数人の従者を連れた男が何やら喚き声を上げている。


 やれ物資を寄越せ、情報を寄越せ、自分は前の公爵と付き合いがあってその時はこんな悪い対応はされなかったぞ、とそんなことを。


 揉め事に巻き込まれるのはごめんだとそれを避けて役所の中へと入り、所員の案内を受けて返事をくれた代官がいるという最奥の部屋へと足を向ける。


 すると役所の中ではまた別の貴族の一団が何か揉め事を起こしていて……その一団が上げている言葉を耳にしたオリアナは、貴族達が何故そんな揉め事を起こしているのか、大体の事情を察する。


 どちらの貴族に対しても応対しているのは獣人だった。

 そしてどちらの一団からも獣人を見下すような発言が上がっていて……役所に何故獣人がいるのかと、そんな憤りがどちらの一団にもあるらしく、そのせいで揉め事へと発展しているらしかった。


(マーハティ領での獣人の扱いは王都でも噂に聞いていたのに……。

 彼らは知らなかった……? いえ、知っていても受け入れられないといったところでしょうか?)


 そんなことを考えながらオリアナとフェンディアは気配を殺しながら石造りの廊下を進んで階段を上がり、そうして立派な扉を構える代官の部屋へと足を踏み入れるのだった。



――――鬼人族の村の側で ディアス



 関所や神殿の出来具合を確認した日から数日が経って……隣領から帰ってきたゴルディアが大量のヤギを連れ帰ってくれて……その販売会が鬼人族の村の側で開かれることになった。


「……いや、うん、いくらなんでもこれは多すぎないか?」


 私が一帯を埋め尽くさんばかりの数のヤギのことを見やりながらそう言うと、ゴルディアは腕を組みながらふふんと荒い鼻息を吐き出し……それから言葉を返してくる。


「ヤギってのは群れの生き物でな、群れから無理矢理離しちまうと悲しみのあまり病気になっちまうんだよ。

 ただでさえ長距離の移動で負担をかけるってのに、そんなことで病気にしちまうなんて馬鹿らしいだろ?

 だから買うときはまとめて、群れごと買っちまうのが一番なんだよ。

 群れごとの大量買いとなりゃぁ商人もご機嫌で割引してくれるし、ヤギ達も群れの仲間と一緒なら安心ってな具合に、大人しく移動してくれるからなぁ」


 草を食んだり寝転んだり、興味深そうに鬼人族のことを眺めたり、数え切れない程のヤギ達の運搬はかなり大変だったようで……隣領から関所まではセキ、サク・アオイの三人や数十人の隣領の領兵達に手伝ってもらい、関所からここまでは犬人族やジョー達に手伝ってもらうことで、どうにかこうにか無事に一頭も失わずに済んだようだ。


 運搬を終えたジョー達はそのまま、ヤギの世話や逃走防止のためにここに来ていて……そのついでというかなんというか、モールとアルナー主催のお見合いもこの場で行われている。


 エリー達やセキ達が懸命に商談を進めている場の側で、アルナーがこいつはこんな男で何歳でこれだけの貯蓄をしていて、戦争ではこういう活躍をしたんだと紹介をすると、それを受けてモールがこの子はこれだけの働き者で、これだけのメーア布を織って刺繍をして、それでもって寝具を作ってきたと実物を見せながら紹介し返す。


 するとアルナーが家族はどうだ、王国での立場はどうだと説明をし……モールもまたそれに他にどんな特技があるか、どんな芸が出来るかなんて説明を返していく。


 そのやり取りの中、本人達は何も言わずにお互いのことを見合っていて……本人達が何も言わないままお見合いが進んでいく。


「ヤギが多すぎたとしてもうちで飼うなり肉にするなりしたら良いだけで、困ることはねぇんだから良いだろう?

 そんなことよりもあのお見合い……あれはあのザマで良いもんなのか? あれでちゃんとお見合いになってんのか?

 いや、俺もお見合いなんてもんしたこともねぇし、見たこともねぇんだけどよ……」


 そんな光景を見てゴルディアがそう言葉を続けてきて……私はこちらへと近付いてきて、興味深そうな目でこちらをじぃっと見つめてくるヤギのことを撫でてやりながら言葉を返す。


「私もお見合いなんてどうしたら良いか分からないからなぁ……。

 これで駄目ならその時にまた別の方法を考えれば良い訳だし……鬼人族も色々と大変なようだからな、とりあえずはアルナー達に任せてみるとしよう」


 お見合いをするとなって私が、


『ジョー達と結婚しても良いと考えてくれている女性は、鬼人族の村にどれくらい居るものなんだ?』


 と、問うとアルナーは、


『……まぁ、それなりに居るな』


 と、返してきた。


 鬼人族の男性は狩りに出る、遠征という形で草原の外に出ることもある、モンスターがやってきたなら村と草原を守るために戦う訳で……そのどれもが相応に危険で命を落とすことも珍しくないそうだ。


 そういう訳でどうしても男性の方が少なくなり、結婚相手を見つけられない女性や夫を失った女性が多くなってしまうらしい。


 その女性全てが結婚や再婚を望んでいる訳ではないし、ましてや鬼人族以外が相手となれば尚更のことらしいが、それでも結婚したいという女性はそれなり居るんだそうで……実際結構な人数がお見合いに参加してくれている。


 若い女性もいればジョー達くらいの歳の女性もいて……そのほとんどがジョー達のことを好意的に見てくれているようだ。


 体は鍛えられている、礼儀正しく規律正しく乱暴者という印象はない、隣領の反乱騒動でそれなりの財貨を得ることに成功していて……流石にメーアとなると難しいかもしれないが、ヤギや白ギー数頭なら問題なく手に入れることが出来るだろう。


 個人で持つことは難しいメーアだが、イルク村には誰のものでもない村の仲間としてのメーアがそれなりの数いて……しっかり働いてさえいれば報酬としてメーア布が手に入るとなれば、生活に困ることも無い。


 平和のため家族のため、鬼人族と私達の縁を結び、強固にしたいという想いもあるようで……私がこの草原にやってきてから今日までの間に特に悪いこともなく、それどころか良いこと尽くめで……日々生活が豊かになってきたという点も、その想いを後押ししてくれているらしい。


 女性達に不評な点があるとすれば、それはジョー達が馬を持っていないということだろう。


 馬に乗れるのか、何故馬を持っていないのか、馬をどう思っているのか、馬の重要性を分かっているのかと、そんな質問が続いていて……馬が好きでないのなら結婚できないという女性もいる程だ。


 どうやら馬が好きなのはアルナーに限った話ではないようで、好きというよりも生活……というか人生に欠かせない大切なものだというような認識であるようだ。


 ジョー達としても馬は嫌いではないし、欲しいと思っているし、手に入る機会があるなら手に入れたいと考えていて……まだ草原に来たばかりなので、その点は勘弁して欲しいと、そんなことを言いながら頭を下げている。


 すると女性……ではなくモールが、


「そういうことならアンタ達、馬に乗るところを見せてみな、まさか乗馬の心得も無いなんてことは言わないだろうね? そんなのは男じゃぁないよ」


 と、そんなことを言い出して……それを受けてジョー達は、モントにずっと鍛えられてきた自分達に出来ない訳がないと胸を張り……そうしてジョー達はそこまで経験が無いはずの乗馬に挑戦することになるのだった。



――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、ジョー達の挑戦となります。


そしてお知らせです。

アース・スターノベルさんのHPで、最新8巻の特集ページが公開となりました

キンタさん懇親の口絵などが確認できますので、アース・スターノベルで検索し、チェックしてみてください!


そして近況ノートで、8巻で登場するキャラ達のラフをどどんと一挙公開です


ゴルディア

アイサ

モント

サーシュス

エーリング


8巻で大活躍するキャラ達ですのでご期待いただければと思います!!



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