第291話 対策会議

――――まえがき


・鷹人族について


 山にある『巣』で暮らしているという狩人の一族、かなりの数がいて……巣の詳細な位置は不明。

 領民となったのは、サーヒィと、その妻であるリーエス、ビーアンネ、ヘイレセの4人。


 見た目としてはその大きさ以外は普通の鷹と大差はない、飛ぶ際には魔力を使って体重を軽くしたり速度を増したりも出来る様子。


――――



 それから私達はイルク村へと戻り、積荷の受け渡しや書類へのサインを行い、オクタド達のことを見送り……そしてスーリオ、リオード、クレヴェの歓迎会を開くことにした。


 亀がやってくる……かもしれないという問題はあるものの、それは今日明日のことではなく、その足の遅さから予想するにまだまだ当分先のことになりそうで……対策を始めるにしても、歓迎会の後からでも問題はないはずだ。


 三人のユルトはそれぞれ一軒ずつ、アルナー達の手で既に建てられていて、生活に必要な道具なんかも用意がされていて……三人は早速自分のユルトに荷物を運び込んで、生活のための準備をしているそうで……それが落ち着いたなら、広場で歓迎会をやろうと、そういうことになった。


 スーリオやオクタドが大量の食料を持ってきてくれたため、料理はかなり豪華なものとなり、酒もそれなりの量が用意されて……皆で夜遅くまで楽しもうと篝火もいつも以上の数、規模で用意されて。


 歓迎会だけでなく亀討伐を控えての戦勝祈願のような意味も含まれているようで……今夜の主人公であるスーリオ達三人は予想以上の規模となった歓迎会の間中ずっと目を丸くし続けることになった。


 踊りも歌も、いつもの宴以上に盛大に賑やかに行われて……領民が増えたこともあって、盛り上がりに盛り上がって。


 まだまだイルク村に来たばかりといった感じのアイセター氏族も洞人族も、新たな住民を歓迎するために盛り上がり、楽しんでくれて……クラウスやカニスを始めとした関所で働く皆も、交代しながらではあるものの参加してくれて。


 そんな宴の中で亀の襲来に関する情報交換や簡単な会議のようなものも行い……隣領への連絡は明日、カニスが行ってくれるということになり……そうして翌日。


 集会所にて、私、アルナー、フランシス、エイマ、ベン伯父さん、ヒューバート、モント、マヤ婆さん、犬人族の各氏族長、サーヒィ一家という面々での対策会議が行われることになった。


 と、言っても大体のことはエイマやヒューバート、モントとマヤ婆さんが昨晩のうちに話し合ってくれていたそうで……話し合いの結果生まれた方針を、集会所に置かれた大きなテーブルの上にちょこんと立ったエイマが説明してくれる。


「まずすべきはアースドラゴンが本当に来るのか、来るとして何処に来るのかという情報の確認です。

 これに関してはサーヒィさん一家にお願いし……それだけでなくサーヒィさん達の一族にも、食料や金貨を報酬として支払うことで、依頼したいと思います。

 鷹人族なら空を飛べますし、目も良いですし……一族全員の力を借りられたなら、かなりの広範囲の偵察が可能となるはずです。

 サーヒィさん達に確認したところ、ドラゴン狩りを名誉としている一族にとっては、協力や偵察もまた名誉なことなんだそうで……その上報酬までもらえるとなれば断られることはまず無いそうです。

 偵察の結果アースドラゴンがメーアバダル領に来ない、あるいは来ても一頭ということになれば……来ないなら何もしなくて良い訳ですし、一頭だけならディアスさんがなんとかしてくれるそうですし……仮に複数来るというならそのための対策が必要になりますし、偵察は入念に、これ以上ないくらい徹底的に行うことにしましょう」


 そう言ってエイマは一旦言葉を区切り「ここまでで質問はないですか?」との声を上げ……一つ気になったことがあった私は、手を挙げてから問いを投げかける。


「概ね問題ないと思うのだが……一つ気になったことがある。

 ……鷹人族は金貨を欲しているものなのか? 

 金貨を欲していなかったり、価値を知らなかったりして、犬人族の時のように家に飾る、なんてことになってしまうと問題だと思うのだが……?」


 私のそんな問いに対してエイマは、こくりと頷いてから答えを返してくれる。


「その点についてはご安心ください。

 今回金貨を支払うことにしたのは、一度に大量の食料を渡されても、腐らせたりするだけだろうという配慮からのことでして……鷹人族さん達には、しっかりと金貨の価値についての説明をした上で……それをイルク村に持ってきてくれたら、いつでも同価値の食料をお渡しする、という約定を交わす予定です」


「なるほど……それならば問題はないか。

 それでは鷹人族には……この草原周辺と、それと王国全体の北部というか北側というか、モンスター達がやってくるという、北の山の辺りを見回ってもらう感じになるのか?」


「いえ、王国全体というのは流石に広すぎると言いますか、東部の端までの距離を考えると、鷹人族さん達への負担が物凄いことになっちゃうので……あくまでこの辺り、王国西部をお願いする形になりますね。

 王国の他の地域に関しましては、エルダンさんやギルドにお願いしてふんわりと……噂という形で情報を広めてもらって、後の対策は王国の偉い人達に任せる形になります。

 今回アースドラゴンが来るかもしれないという話は、まだまだ不確定と言いますか、あくまで伝承のお話でしかないので……大々的に、たとえばディアスさんの名前を使って広めたりしちゃうと、いざアースドラゴンが来なかった時に家名に傷がついたり、責任問題とかになったりする可能性があるんですよ。

 ですので、そこら辺が限界と言いますか……アースドラゴンを発見して襲来が確定したなら、改めて情報を広めますけど……他に出来ることは無さそうです。

 ……信頼のおける人がどこかにいるならその人には知らせても良いかもですけど……」


 そう言ってエイマは苦い顔というか、悔しそうな……自らの力不足を恥じているような顔をする。

 

 それを見て私は、エイマがそこまで気にすることではないと思うのだがなぁと、首をひねりながら悩み……そしてある二人の顔を思い出し、声を上げる。


「……エーリングやサーシュス公なら問題ないかもしれないな。

 そこまで深い仲ではないが……信頼出来る人物だと思うし、魂鑑定も青だったし、私達のことを貶めるようなことはしない……ような気がする。

 それにあの二人なら、こんな伝承を耳にしたと伝えるだけでも、それなりの備えをしてくれるかもしれない」


 以前迎賓館が出来たばかりの頃に来た他の地域に住まう貴族……シグルなんとか伯爵のエーリングと、サーシュス公爵の名前を出すと、私と一緒に二人に会ったエイマやヒューバートやベン伯父さん、魂鑑定をしたアルナーやその顔を見る機会のあったマヤ婆さんが手を打ったり頷いたりなどして、私の意見に同意してくれる。


 モンスターから領民を守ることも領主の……貴族の義務だとのことだから、ドラゴンへの対策方などもあの二人ならば心得ているはずだ。


 二人共、遠方で暮らしているため、手紙なんかを普通の方法で送ったのでは間に合わないだろうが……鷹人族とエルダンの所の鳩人族の力を借りればなんとかなりそうでもあるし……エルダンと相談してみるとしよう。


「……しかしそうなるとサーヒィ達にはかなりの負担がかかってしまうなぁ」


 そこら辺の話が一段落してから私がそう言うと……集会所に立てられた止まり木の上で、リーエス達と一緒に静かに様子を見守っていたサーヒィが、クチバシを開く。


「オレ達は全然構わないぜ、領民となった以上はこの領のために働くのは当たり前だし……巣の皆が腹を満たせる上に、備蓄まで出来るとなったらむしろありがたいってもんだ。

 それに正直、その程度の仕事っていうか……この辺りを飛び回るだけなら、オレと嫁達だけでもなんとかなるからなぁ……巣の皆まで力を貸してくれるとなったら、負担どころか余裕過ぎてあくびが出るってもんだよ。

 ……いや、ほんと、なんだって巣の皆まで使うんだ? 巣の皆がいれば王国全部は無理でもかなりの広範囲はいけるはずだし……もしかして何か他の狙いがあったりするのか?」


 その言葉を受けて私がエイマへと視線をやると、エイマはちらりと西の方を見てから口を開く。


「……んー、これはここだけの話にして欲しいんですけど、鷹人族の方々には獣人国の偵察もしてもらおうと考えていまして……そのために力を借りたいんですよ。

 獣人国とは現状良い関係を築けていますし、太っ腹な投資もしてもらえています。

 そんな獣人国に被害が出ることは私達にとっても損になる訳で、できる限りの助力をしたいと考えていて……そうかと言って王国民のサーヒィさんが、空の上とはいえあちらの国に入り込むのは問題ですから、王国民ではない鷹人族さん達の力を借りたい、という訳ですね。

 ……まぁ、そのついでに国境近くの地理情報が手に入ったりするかもしれませんし、手に入れた情報をオクタドさんに渡すことで、安全と商機という多大な恩を売れたりするかもしれませんけど……そこら辺はまぁ、副産物と言いますか、なんと言いますか……。

 ……あっ、出来るだけ多くの方の力を借りて、入念な偵察を徹底したいっていうのも本音ですよ、何しろ相手はあのアースドラゴン、一頭でも見逃しちゃったら大惨事ですからね」


 その言葉を受けて私とヒューバートはなんとも言えない顔をし、アルナーとマヤ婆さんは笑い……ベン伯父さんとモントはもっと何か出来るのではないかと、そんなことを考えているのか悪い顔をし……フランシスと犬人族達は首を傾げ、そしてサーヒィ達は、どんな形であれ自分達が活躍できるのなら嬉しいと、その大きな翼を軽く広げて胸を張り、自分達に任せろと、そんなことを言いたげな格好をするのだった。



――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


次回はこの続き、鷹人族達の偵察についてになります。

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