第282話 早速働く洞人族達



「いやぁ、確かに只人が力を借りてぇって言ってるとは聞いてたけどよぉ、まさか本当にいるとはなぁ」


「オレたちゃぁてっきり、酒に酔った族長が場を盛り上げるために適当なこと言ってるんだと思いこんじまっててなぁ」


「でもまぁ、こうして只人が生き残ってたのは良いことだぁなぁ、只人は弱っちぃからなぁ、病気とかですぐにいっちまうからなぁ」


 洞人達がイルク村にやってきてから数日が経って……3人の洞人族がそんなことを言いながら元気に、掘棒のような道具を振るっている。


 掘棒よりも鉄を多く使っていて……先端が尖っていながら幅が広く、大きなスプーンのようになっていて、それでもってどんどんと地面を掘り返していく。


「ほーれほれ、喋ってばっかいるとぉ、メーア達に置いてかれちまうぞぉ、さっさと掘れ掘れ、まずは掘らんと何も始まらんぞぉ」


「なぁに、オレ達が本気だしゃぁ、駆ける馬にだって追いついてみせらぁなぁ」


「ワッシャッシャ、掘ったら踏み固めて砂利敷いてぇ、道作りは楽しいなぁ!」


 更にそんなことを言いながら洞人達はどんどん地面を掘り返していって……そんな洞人族の先には、総出で草を食べまくっているメーア達の姿がある。


 洞人族達の道作りはまず地面を掘り返して、掘り返した地面をしっかり踏み固めて……踏み固めたなら砂利を隙間なく敷いて、砂利の上に切り出した石を置いて並べて……という方法で行われるらしい。


 そんな風に地面を掘り返したなら当然そこの草は駄目になってしまう訳で……それをもったいないと思ったらしいメーア達が、洞人族達を先導する形で……小さな草一本逃さないといった勢いで草を食んでいて……その先頭には地図を睨み、上空のサーヒィと声をかけ合っているヒューバートの姿もある。


 ヒューバートとサーヒィが地図通りにメーアを導き、メーアがそこの草を食べていって……草を食べつくされむき出しとなった地面を道標にして、洞人族が作業をしていって……そんな流れが上手い具合に出来上がって、道……になる予定の掘り返された地面は曲がることなく歪むことなくまっすぐ伸び続けている。


 その道はイルク村からまっすぐ西に、西側関所の予定地まで通ることになっていて……関所の予定地ではすでに、洞人族達による関所建設が始まっている。


 32人のうち10人が南の荒野で石の切り出し、10人が関所で建設、6人が道作り、6人がナルバントの工房でナルバント達と共に関所建設や道作に必要な道具作り。


 男も女も関係なく総出で毎日のように働いていて……モントやジョー達も関所での作業を手伝っている。


 東側の、森の関所の主はクラウスと決まった。


 西側の、獣人国と接する関所の主はまだ誰とも決まっていない。


 ジョーもロルカもリヤンも他の皆も、更にはモントまでも、関所の主という責任重大な役職には憧れのようなものがあるようで……そうやって働くことで自分こそが主に相応しいと懸命にアピールしているらしい。


 アピールされる側としては、一体誰にしたら良いのだと困ってしまう話だが、しかしまぁ皆がそうやってやる気になってくれているのは、良いことなのだろう。


 ……と、そんな事を考えていると、


「ようぅっし、とりあえず石畳にする石の加工が終わったぞぉい」


「ディアス様よう、石畳の組み方は重要だからこっち来てしっかり見とけよう」


「ナルバント様から色んなこと教えるようにって仰せつかってるからなぁ、しっかり勉強してくれや」


 と、そんな声が背後の、イルク村の方から響いてくる。


 道作りを担当する6人のうち3人が地面を掘り返していて……もう3人は荒野から運ばれてきた石材を、なんだかよく分からない面白い形に加工している。


 私はてっきり石畳の道というのは、薄い石板を並べて作るものとばかり思い込んでいたのだが、ナルバント達が言うにはそんな作り方ではまともな道にならないそうで、すぐに石板が割れたりずれたりして使い物にならなくなってしまうんだそうで……立方体に近い形に加工した石を使うのが正解なんだそうだ。


 壊れたりずれたりない、私でも持ち上げるのに苦労しそうな大きさの立方体に近い石。


 立方体に近いのだが立方体ではなく……基本は立方体ながらところどころ出っ張っていたり、へこんでいたり……面の部分に様々な細工がされていて、一体全体どうして、こんな訳の分からない形になっているんだろうか?


 と、私がそんなことを、首を大きく傾げながら考えていると、そんな私のことを見た一人の洞人族がある面の中央が出っ張っている石材を持ち上げ、別の洞人族がある面の中央がへこんでいる石材を持ち上げ……そしてその二つの石材をゴスンッとぶつけ合う。


 折角切り出し、加工した石材をなんだってそんな風にぶつけ合うんだと驚いていると……2人の洞人族達は、私のすぐ側までやってきて二つの石材ががっちりと組み合って、まるで一つの石材のようになっている様を見せつけてくる。


 どうやら彼らが加工していた石材は全てがそんな風に、隣接する石材と組み合う作りになっているようで……私がそのことに驚くやら疑問に思うやらしていると、もう一人の洞人族が西の、関所予定地の方を指差しながら声を上げてくる。


「あっちの関所はよう、他国と繋がってるんだろ?

 他国ってこたぁよう、もしかしたら将来、敵になるかもしれねぇ、攻めてくるかもしれねぇ相手って訳だ。

 もっちろんオレらが作った関所はよう、どんな敵が来ても防いでくれるがよう、それでも関所を大回りして入り込まれるかもしれねぇ。

 そうやって入り込んできた敵が、石畳の道を見て何を思うか知ってっか?

 こりゃぁ良い石だ、投石機でぶっ飛ばすにゃぁ最適だって、そんなことを思うわけよ。

 何十何百って石がこっちの拠点まで真っ直ぐに、ずぅっと転がってんだ、敵としちゃぁありがたいったらねぇだろうよ。

 だからよう、敵に楽させねぇためによう、石材同士を組み合うようにして、掘り返しにくいようにしとくんだよ。

 がっちり組み合って、隣の石同士がお互いを抑え込むようにしてやって……ちょっとやそっとじゃ掘り返せねぇって訳だ。

 石の隙間によう、鉄の工具なんかを突っ込んでよう、テコの原理で持ち上げようとしても、隣接する他の石達がそうはさせねぇって感じだな。

 その分、石が割れたりして交換するって時には苦労する訳だが……そこら辺を楽にやる工夫とか道具はよう、オレらが知ってるからよう、つまりこれは敵だけを困らせるための工作って訳だぁなぁ」


「おぉ……! なるほど! それは凄いな!」


 洞人族の説明を受けて、私がそう即答すると、3人の洞人族達は髭を揺らしながらニッコリと笑って……早速とばかりにその石材を、すでに踏み固め終わって隙間なく砂利が敷かれた地面にはめ込んでいく。


 まずは真ん中に一つ、次に左右、そこからは決まった順番でもあるのか、それとも適当にやっているのか、右だったり左だったり、前だったり後ろだったり、グネグネとした線を描くかのような感じで作業を行っていって……そうして少しずつではあるが着実に石材が設置されていって、西側へと続く道が出来上がっていくのだった。




――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、洞人族に関してのあれこれとなります。

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