第237話 素材の使い道とか色々


 ウィンドドラゴンとの戦いが終わり、少しの時間の休憩をして……休憩を終えたサーヒィがイルク村に決着したことを知らせに行ってくれて、それからすぐに軍馬に荷車を牽かせたナルバント達が素材の回収に駆けつけてくれた。


 洞人族のナルバントとオーミュンとサナトと、犬人族のアイセター氏族と、鷹人族のリーエス、ビーアンネ、ヘイレセという面々での回収が始まり……私とサーヒィはその様子を何も言わずに静かに見守る。


 本当は手伝いたかったのだが、戦いで疲れているだろうから手伝わないで良いと言われてしまっていて……そういうことならばと、皆の作業中にモンスターや狼がやってきても良いようにと見守ることに徹し……そうやって少しの時が流れたところで満面の笑みのナルバントが魔石を持ってこちらへとやってくる。


「おうおう、改めて見ても良い感じに似合っておるじゃないか、えぇ?

 鎧も体も特に傷もないようだし、頑張って拵えた甲斐があるというもんじゃわい。

 多少の汗をかいたようだから、鎧も兜も後でオラ共の工房に置いておけ、手入れの方はこっちでしておいてやるからのう。

 で、魔石じゃ魔石! 無事に五個の魔石が取れたからのう、ドラゴンの魔石がこれだけありゃぁ魔石炉は当分は安泰じゃのう」


 やってくるなり笑みを深くしながらそう言ってきて……私は首を傾げながら言葉を返す。


「五個も取れたのか? 一匹は私の戦斧で砕いてしまって、中の魔石も砕けてしまったとばかり思っていたのだが……」


「確かにの、一番の大物の折角の甲殻が粉々になっておったが……運が良かったのか魔石の方はほぼ無傷で手に入ったわい。

 ほれ、この一番の大物のこれがそやつの魔石じゃ」


 そう言いながらナルバントはその顎髭で両手で抱えた魔石のうちの一つを指し示し、そうしてから言葉を続けてくる。


「同じドラゴンでここまで大きさに差があるのは珍しいことでの、もしかしたら別種のモンスターに変異する途中の個体だったのかもしれんのう。

 モンスターというのはそういうよく分からん生態をしているので油断ならんのじゃが……ま、こうして無事に討伐できた以上は、今更気にすることも無いだろうのう。

 で、だ、ディアス坊、この五個の魔石……全部をオラ共が使ってしまって良いのかのう?」


 そう言ってナルバントはその目をキラキラと輝かせてきて、遅れてやってきたサナトとオーミュンもまた似たような目をこちらに向けてきて、私は「あー……」と声を上げながら少しの間頭を悩ませて……サーヒィに視線をやり「ディアスの好きにして良いぞ」との言葉を受けてから頷き、ナルバント達へと言葉を返す。


「四個は好きにして良いが、一個だけ……その一番大きいのは王様に贈っても構わないか?

 王様からそうしろと言われた訳ではないんだが、今までもそうして来た訳だし、出来ることなら今まで通りにしておきたいんだ。

 王様としても魔石をもらうのは嬉しいようだし……今回もエルダン達に頼むことにして、素材の一部もそのお礼としてエルダン達に贈っておきたい所だな」


 するとナルバントは満面の笑みのままこくりと頷いて、機嫌を崩すことなく弾んだ声を返してくる。


「ああ、良いとも良いとも、魔石なんてのは大きかろうが小さかろうが炉に入れちまえば一緒じゃからのう、四個も好きにして良いのなら一個を分けてやるくらいなんでもないのう。

 素材の方も他所に贈っても問題なさそうなのを見繕っておくからのう、それと一緒にお隣さんに送ってやれば問題無いじゃろう。

 ……で、他の素材はどうするんじゃ? 行商の際に売っぱらっちまうのか?」


「あー……それについてなんだが、ウィンドドラゴンの素材は軽くて、軽い割には硬い素材、なんだよな?

 ならそれでサーヒィ達の武器と防具を作れないか? クチバシと爪を補強するようなものと、兜とそれと……可能なら翼全体を覆って、ちょっとした攻撃を弾けるようにしてやりたいんだが」


 ナルバントの言葉に対して私がそう返すと、満面の笑みだったナルバントは驚いたような表情になり、更にサーヒィもクチバシを大きく開けての物凄い顔をする。


「鷹人族の武器と防具と来たか。

 ……ま、作ること、それ自体は可能じゃろう、ディアス坊の鎧よりはよっぽど楽に作れるんじゃろうが……それが鷹人族に受け入れられるかはまた別問題じゃのう。

 ……で、どうなんじゃ、実際、武器や防具があれば使ってみたいと思うのかのう?」


 そうナルバントに問いかけられてクチバシを大きく開けていたサーヒィは慌てて閉じて、そうしてから少し悩み……それから言葉を返していく。


「確かにな……今回の戦いでディアスの投げ斧を使った訳だが、重いやら大きいやらで空中じゃぁ扱えたもんじゃなかったからな、オレ達が扱えるように作られた軽い武器や防具があればありがたいはありがたいな。

 オレ達は翼の骨が折れたらそれでお終い、死ぬしかない運命を背負ってるからなぁ、それを防具で防げるってのは……うん、本当にありがたいし、安心出来るだろうな。

 翼を覆う防具となると空を飛ぶ際に多少の邪魔になるかもしれねぇが、そこはアレだ、そこらの鳥と違ってオレ達には考える頭があるからな、逆に防具を上手く使いこなして風に乗るくらいのことは出来るかもしれねぇし……ナルバント達とオレ達で相談しながら作るってなら賛成だな」


「そういうことなら決まりじゃの、サーヒィ達に色々と……空を飛ぶということがどういうことなのか話を聞かせてもらって、そこら辺をしっかりと理解した上で立派な武器と防具を拵えてやるからのう。

 元々空を飛んでいたドラゴンの素材だけあって、そう時間をかけずに仕上げられるはずじゃのう」


 サーヒィの言葉にそう返したナルバントはその笑顔を更に深くして、そうしてから魔石を積み込むべく荷車の方へと向かっていく。

 それにウィンドドラゴンの素材を抱えたオーミュンとサナトが続いて……そしてアイセター氏族の若者達が、頑張って拾い集めてくれたらしい粉々になった素材をしっかりと両手で持ちながらこちらへとやってくる。


「ドラゴンをこんなにしちゃうなんて! さすがですよ、凄いですよ!

 こっちに来て良かったです!」


 なんてことを一人が口にし、続いて他の若者達も似たようなことを口にし……笑顔を弾けさせながら元気いっぱいに騒いで、そうしてからナルバントを追いかける形で荷車へと合流し……魔石と素材と、何人かのアイセター氏族を乗せて荷車が走り出し、そのまま一同はイルク村へと帰っていく。


 そうやって皆が帰った後に、空からの目でもって砕け散った素材集めを手伝っていたリーエス達がこちらへとやってきて……私の兜の上にちょこんと立っているサーヒィの側へと降り立って、サーヒィへと視線を……熱視線を送り始める。


 今回サーヒィはドラゴン狩りに成功したと言っても過言ではないだろう。

 一番の大物に立ち向かい、奮戦し……あれがイルク村に行ってしまうのを防いだ訳で、トドメの方は私が持っていった形になるが、それでもあれはサーヒィのおかげで狩れたということになるはずだ。


 婚約状態のままで、一緒の小屋に暮らしながらも一定の距離を取ったままで……そうやって出来上がっていた最後の壁を乗り越えるために必要な手柄を今回立てることにサーヒィは成功していて……そんなサーヒィのことをリーエス、ビーアンネ、ヘイレセの三人は改めて見直したようで、惚れ直したようで……。


 そうして積極的になったらしい三人に囲まれたサーヒィは、追い詰められるようにして私の兜から飛び降り……そのままトトトトッと後ずさっていく。


 後ずさりながらも私へと救いを求めるような視線を送ってくるサーヒィだったが、私はあえてその視線を避ける形で動き、兜を拾い上げ、地面に突き立てておいた戦斧を引き抜き……そのまま荷車の後を追いかける形で、その場から歩き去るのだった。

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