第27話 ディアスとエルダン
「ディアス殿!ディアス殿!
ディアス殿のお話も聞かせて欲しいの!」
長話に付き合わせてしまったし少し休憩していって欲しい、そんな言葉でベッド型馬車の上へと招かれた私とアルナーが寝具の上に腰を下ろすなりに飛び出したエルダンのそんな言葉に、私はそう来たかと思わずに苦笑してしまう。
あれだけ深い部分の事情までエルダン達は話してくれたのだ、当然私も可能な範囲で話をするべきなのだろうが……エルダンの凄絶な話の後に私なんかの話をしてもなぁという決まりの悪さがどうしても私の口の動きを重くしてしまう。
「ディアス殿の最近のお話とか、戦場でのお話とか、王都で何があったのかも聞きたいであるの!」
そんな私の葛藤に気付いているのか、いないのか、耳をパタパタと揺らし鼻をグルグルと振り回し、ワクワクが止められないといった様子でエルダンは言葉を続けてくる。
そんなエルダンの目は期待の色に満ち溢れながらこれでもかと輝いてしまっていて……その目を見た私はこれは逃げられないだろうと諦めて……小さく溜め息を吐き出す。
大した話は出来ないがとの前置きをしてから、エルダンとエルダンの後ろで自分達も話を聞きたいとの態度を隠さないカマロッツやエルダンの嫁達に向かって、私の事情……私のこれまでの話を思い出しつつゆっくりと語っていく。
孤児になったことや、それから志願兵となったこと、戦場での話は細かく話し始めるとキリが無いのでそれなりに活躍したと簡潔に。
それから終戦後の領主となった経緯に、アルナーとの出会いに……鬼人族については勝手に私があれこれ話す訳にはいかないので、隠せるとこは隠しておく。
その後の草原での生活の話に始まり、アースドラゴン狩りの話や、クラウスにマヤ婆さん達の話をして、セナイとアイハンのことにも軽く触れておく。
そんな私の話を聞いたエルダン達の反応は様々だった。
戦争の話がすぐ終わってしまったことには残念そうにしつつ、アースドラゴンを倒した話には大いに盛り上がり、アルナーとの婚約の話にはエルダンの嫁達が特別な盛り上がりを見せたりもした。
クラウスとの再会の部分にはエルダンが何度も質問を繰り返し、マヤ婆さん達の話には棄民の件についてエルダンが平謝りしたりして……セナイとアイハンの話にはその場の誰もが微笑んでくれた。
「やっぱりディアス殿はお母様が話してくれた通りのお人柄だったの!
ディアス殿と仲良くなれてほんとに良かったのー」
私の話を聞き終えてのそんなエルダンの感想に私はふとあることが気になって、首を傾げながら口を開く。
「ふと気になったんだが……ネハはどうやって私のことを知ったんだ?
私はアルナーと出会うまでは亜人の存在なんて知りもしなかったし……当然ネハに会った覚えも無いのだが……」
「その答えはディアス殿の武勇伝にあるの!
お母様はディアス殿の武勇伝の数々を耳にしてディアス殿のことを知ったの。
戦地から‥…王都から離れた所にあるカスデクス領でもディアス殿の武勇伝は皆が知っているお話なの」
そう言うとエルダンは鼻を器用に折り曲げて右へ左へと動かしながら、身振り手振り鼻振りといった様子で英雄ディアスの武勇伝についての話をし始める。
なんでも私に限らずあの戦争で活躍した者達の武勇伝は戦場から王都へと伝わり王都の劇場で演劇となっていたのだそうだ。
戦意高揚の為、志願兵を多く集める為にとそれらの演劇は毎晩のように上演されていたらしい。
孤児出身の志願兵でもある英雄ディアスは無双の強さを誇り、万の敵を愛用の戦斧で薙ぎ払い、万の味方を敵の凶刃から守り抜く。
ただ戦果を上げ続けるだけで無く、両親の遺言を大切にする英雄ディアスは弱きを助け強きを挫くそんな生き方を良しとして、戦地で横暴を繰り返す貴族達を拳でもって窘めたり、かと思えばそんな貴族達を命の危機から救い出したりと数々の武勇伝を今でも戦場で生み出し続けている……と私の演劇はそんな内容だったのだそうだ。
そこそこの人気となったらしい私の演劇、しかし貴族達はそんな演劇の内容を問題視したとかで、公開から一週間も経たないうちに公開中止命令が出されてしまったのだそうだ。
だがそんな公開中止命令は逆に人々の関心を呼び起こす結果へと繋がって、それから演劇の中で語られた私の武勇伝の数々は人の口から口へと伝えられる物語となって国中へと広まることになり……それらがカスデクス領にも伝わって来たのだそうだ。
奴隷として……使用人として働きながらネハはそんな英雄ディアスの話のいくつかを耳にして、特に両親の遺言に従っての生き方はまるでかつての象人王のようだと絶賛、以来幼いエルダンに私のような立派な大人になるようにと言い聞かせるようになったのだとエルダンはなんとも楽しげに語ってくれる。
うーむ……なるほどなぁ……。
私は戦場で貴族に会った覚えなどは一度も無く、当然改心だとかの話にも覚えは無い訳で……父母の遺言についてはまぁその通りだとしても、それ以外の武勇伝のほとんどの部分が嘘というか……完全に演劇用に創作された物語になってしまっている。
「あー……エルダン、その貴族だとかの話、私は全く覚えが無くてだな……。
どうやらエルダン達が知る『英雄ディアス』と『私』には大きな隔たりがあるようなんだ」
「ディアス殿、僕も話に聞いただけの武勇伝全てが本当だとは思っていないの。
でも皆褒めていたの、帰還兵の皆とか、戦場帰りの商人達だとか、家庭教師の先生とか、戦場のディアス殿を知る人は皆ディアス殿を褒めていたの、だから僕はディアス殿に憧れたの。
そして実際にディアス殿と会ってお話をしてみて、さっきのディアス殿のこれまでのお話を聞いて、やっぱりディアス殿は憧れていた通りのお人だと僕は思ったの、だからディアス殿は間違いなく英雄ディアス殿であるの!」
私の言葉の後、間髪入れずに返って来たエルダンの笑顔でのそんな言葉に私は返す言葉が無くなってしまう。
その言葉と笑顔はとても力強く、エルダンが虚像に憧れてしまっているのでは無いかという私の愚かな考えは何処かへと吹き飛ばされてしまう。
「だからディアス殿、僕と、僕達ともっともっと仲良くして欲しいの。
仲良くして一緒に頑張りながら領を大きくしていって、そして一緒に亜人と人間が笑顔で暮らせる世の中を作るの!」
そう言ってエルダンは笑顔のまま握手を求める手を私へと差し出してくる。
年齢以上の大きな器を見せてくるエルダンに私は敵わないなと胸中で呟いてから……差し出された手を握り、力強く握手する。
エルダンはそんな私の手をしっかりと、両手でもって包み込むようにして握り返してきて、今日のエルダンの笑顔の中でも一際の満面の笑顔を見せてくれたのだった。
それから私とエルダンは、カマロッツの淹れてくれたお茶を飲みながら色々な事柄について話し合った。
例の三人娘の話だとか、クラウスの言っていた王都の後継者争いの話だとか、エルダンがやたらと興味を示した私とアルナーの仲のことだとか、エルダンの体調のことだとか、いつか暇を見つけてネハに会ってみたいだとか、そういったことを色々とだ。
そして話は互いの領内の食料の備蓄の話へと至り、その話の途中で私はエルダンにこんなことを言われてしまう。
「ディアス殿、もっと保存食だとかの備蓄が無いと大変だと思うの、もし何かあったらすぐに足りなくなって大変なことになってしまうの。
それに領民を増やすだけじゃなくて食糧生産も領内でやっておかないと駄目だと思うの……。
冬は遠いようで近いの、今から準備しておかないと駄目なの」
え?あれ?そうか?
結構な種類も揃ってきたし量もあるしで十分だと思うんだが……?
……そうか、全然足りないか。
よし……なら今後は食料のことを念頭に置きながら行動していかないとだな。
とりあえずは……草原を耕して畑でも作ってみるか?
なぁに、戦争前は散々農作業の手伝いをしてきたんだ、畑の一つや二つ、完璧に作って見せるともさ!
・第二章リザルト
領民【1人】 → 【16人】
ディアスはアースドラゴンの素材を加工して【クラウスの装備一式】を手に入れた。
ディアスはアースドラゴンの素材との交換で食料【小麦】【干し魚】【干しブドウ】【くるみ】【塩漬けの腸詰め肉】【チーズ】を手に入れた。
既に持っていた食料と合わせて、16人で【三週間】分の量になるようだ。
ディアスはアースドラゴンの素材との取引で、【金貨】10枚を手に入れた。
ディアスはアースドラゴンの素材との交換で素材【牛のなめし革】2頭分を手に入れた。
ディアスはアースドラゴンの素材との交換で素材【鉄鉱石】1箱分を手に入れた。
ディアスはアースドラゴンの素材との交換で調味料【塩】3樽分を手に入れた。
ディアスはアースドラゴンの素材との交換で道具【遠眼鏡】2個を手に入れた。
ディアスは他にもいくつかの【道具】を手に入れたが用途を理解していない。
ディアスは隣領の領主エルダンと【友好関係】を結ぶことに成功した。
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