第21話 行商人と護衛のよもやま話
――――草原を去りながら ペイジン・ド
「ゲッコゲコゲコゲコ、上客上客。
お人好しのディアスどんはひっさびさの上客、企み知らずのお客様のありがたきこと~……この上なし!」
イルク村での取引きは上出来も上出来、そんなに儲けのない取引きだったけっどん、厄介な荷物を下ろせて極上の献上品まで手に入ったんじゃし不満は無いでん。
手綱を持つ手も御者台に座りっぱなしの腰もご機嫌でご機嫌で疲れ知らずってモンやでん。
早う早う西へ真っ直ぐに草原を抜けて、獣王国に行きたいもんや、ドラゴンの牙やらを獣王様に献上したらどんなお褒めの言葉があるやらな楽しみで仕方ないわぁ。
国境向こうのあの草原の歴代領主はどいつもこいつもしょうもない阿呆だらけで、厄介で危険でしょうもなかっただっどん、あのディアスという男なら何の警戒もする必要なさそうでん、獣王様に良い報告も出来そうだでん。
「……ペイジン・ドよ、それで良いのか?
ドラゴンを一人で倒すような化物だぞ、獣王様の……いや、我々の障害となるんじゃないか?」
そんなしょうもないことをのたまうのは護衛の熊人族、いつの間にやら鉄の兜も脱いでまって黒い毛に覆われた頭上の耳が剥き出しになっちょる。
「ゲッコゲコ、腕っ節ばっかいっくら強うても問題無い無い。
アレは根っからのお人好しで呆けモンじゃ。
家族やら友人にするにゃ良いが、王に向かん男だでん。
覇気も無し、王器も無しでん、そもそも野心もあらん。
なんも無い草原のみすぼらしい村で満足そうに笑う男はそこまでだでん」
「そういうものなのか?
……お人好しってのは確かに同意だがな。
奴隷嫌いというだけでも人間族として稀有なのに、異族の子供の為にああも怒ってみせるとはな……」
「お人好しのディアスどんは、幼子抱えながら争いを起こそうだなんて思わないはずでん、アレは安全安心優良お隣さんになってくれるでん。
……ああいう手合は誰かの下で働いて初めて真価を発揮するモンだや、あっしらのような獣人だら獣王様の良い牙になったどもな~」
「いや……お前達は獣人というか……どちらかと言えば魚人寄り……」
「あぁん?!
リザードマンが獣人やればフロッグマンも獣人じゃろ!
水棲ってだけで差別すいなや!!」
なんてこと言い出すんじゃ、馬用の鞭で引っ叩いたろうか、このアホ熊人!
おい、兎人に犬人に猫人も笑って無いでん、しっかり護衛の仕事せぃや!
「……リザードマンも獣人というかなぁ……毛があるだけ人間族のが獣人に近いような……」
「は~~~、差別主義者はこれだかんら!
毛のあるなしだけで差別するでん、まるで人間族の貴族のようだでん!」
「おっ、お前っ、それは言い過ぎだろう!」
「ゲッコゲコゲコ……ああ、そいで思い出したや、ディアスどんを危険視しない理由は貴族と縁遠そうな態度もあんで。
貴族特有の面倒な礼儀を知らん無骨さに、賄賂も要求せん素直さ、アレは絶対貴族とは反りが合わんだでん、挨拶の時に家名も名乗らんかったしなぁ。
あれだけの腕っ節であんな草原に押し込まれたんもそのせいじゃろ」
人間族はやたらと家名を欲しがって、家名をありがたがるものらしいけんど、何故名乗らんかったんじゃろうな、領主なら家名があろうもんに。
「……なるほどな。
あいつの体とあのとんでもない斧には人間の血の匂いが染み付いていた……それと奴隷嫌いを合わせて考えると奴隷好きの貴族でも斬って都を追放されたか?」
「流石にそこまでやったら死罪になりそうだども、近いことをやったかも知れんでん。
ディアスどんが貴族達の敵っちゅうならあっしらの味方みたいなもんだでん。
そんなディアスどんがこの草原に居てくれれば女子供を拐いに来る阿呆も減ってくれるかもしれんで、もしディアスどんが貴族達と揉めだしたら支援しても良いくらいだでん」
熊人はそいで納得したのかなるほどなと頷いて護衛の仕事に戻ったん。
口には出さんだでん、本当は理由はもう一つあるでん……そいは草原の北の山。
ディアスどんがあの村を育てて発展させたなら遠くないうちに北に手を伸ばすはずでん。
北の山は魔物の巣窟だどん、ディアスどんの腕っ節ならそれも苦にならんはず……そうなったらディアスどんはあの山の主だでん。
あの山は鉱物の宝庫と予測されてる山だでん、そんな山を手に入れたディアスどんを良い取引き相手のままにして旨味を分けて貰うんか、それとも山ごと獣王国に飲み込むかは獣王様が判断することだどん、どちらにせよ今は仲良うしとくべきだと思うでん。
うまーくディアスどんと獣王様に渡りを付けて、お二人があれやこれやとやる間にちょっとだけ……ほんのちょっとだけ利権の端っこを齧らせて貰う為にもこれについては誰にも言わずあっしの胸の奥の奥に秘めておくとするでん。
さぁさぁ草原も後少しで終わりでん、獣王国の国境も見えてくる頃、あと少しの旅路を気張って行くとしまひょ。
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