第12話 深まる縁


 亀を鬼人族の村まで運ぶのはそれはもう大変だった。

 何しろ亀はでかく、重い、亀の死体を押すにしても引くにしてもかなりの力が必要だった。


 様子を見に来た男衆だけでは手が足りずに、鬼人族の村中の男が集められることとなって、数頭の馬達の力を借りもしたが、それでも亀を運ぶには一苦労でかなりの時間がかかることとなって、村へと辿り着いたのは夜が明けた翌日のことだった。


 村ではモールをはじめとした女衆全員が今か今かと私達と亀の到着を待っていて、私達と亀が村に到着するなり鬼人族の村は大歓声に包まれる。

 

 ドラゴンだ、ドラゴンだとの声を上げて大合唱をしてから男衆と女衆は協力し合っての亀の解体作業を始める。

 中々に刺激的なその光景をぼんやりと見ているとモールが杖を突きながら近寄って来る。


「まさかアレを一人で倒すとはねぇ……。

 それで?こんなもんを寄越して私達にどうしろってんだい?」


「ああ、井戸と厠を作って欲しくてな、代金はアレの素材で足りるかな?」

 

「足りるどころの話じゃないよ、アレを売った金でそこら中一面を埋め尽くす数の厠と井戸が作れちまうよ。

 アンタ、ドラゴンの価値ってもんを知らないのかい?」


「……まさか……アレは亀ではないのか?……アルナーの言う通り本当にドラゴンなのか?」


「何を馬鹿なこと言ってるんだい、アンタは。

 あそこで解体されているドラゴンの口を見てみな、亀に牙があるのかい?

 火球を吐き出しての攻撃だってして来たんだろう?そんな亀がいるものかね」


 確かにアレの口の中には鋭い牙が並んでいて……うーむ、まさか本当にドラゴンだったとは。

 伝説に名高いドラゴンを私が倒しただって?……なんとも現実感の無い話だなぁ。


「ディアス、解体が終わったら素材のほとんどはアンタに返すよ。

 ドラゴンの素材は価値は高すぎて村の全てを明け渡したって足りやしないからね。

 私達が差し出せるのはドラゴンをアンタの代わりに解体してやることに、井戸に厠の建設、それとユルトの資材に食料の追加分に薬草かねぇ、素材やらを入れる倉庫用のユルトも建ててやるよ。

 それで革と甲羅の一部に爪を何本か貰うとしよう……ああ、それにいくらかの素材を預かっとくよ、行商人が来た時にそれを渡せば行商人がアンタに興味を持つはずさ、行商人との縁は欲しいだろう?

 ……後はアルナーの結納分かね、ドラゴンの牙の一本もやれば両親は大喜びだろうさ」


「ちょ、ちょっとまってくれ、素材とかはモールの裁量に任せるし行商人のことも任せるが、結納って何の話だ?!」


「ここまでのことしでかしちまったんだ、結婚は嫌でもして貰うよ。

 隣人がドラゴン殺しとなったらもう深い縁を結びでもしないと、私達は恐ろしくて夜も眠れなくなっちまう。

 それにね、ドラゴンを殺す程の男気だ、アルナーと結婚しなきゃ村中の独り身女達がアンタに群がり始めるよ、それで良いのかい?

 今、女達が大人しくしてるのはね、王国の人間は一人しか嫁を娶らないというのを知っていて……アルナーがその一人だと思ってるからだよ。

 もしアルナーと結婚しないだなんて話になったら……ドラゴンを倒す程の男気だ、大変なことになるだろうねぇ」


「じ、事情は分かったが……どうしても結婚しなければ駄目か?

 そ、その……婚約で済ませるとか……」


「婚約ねぇ……生憎鬼人族にそんな習慣はないからねぇ。

 結婚するだけして、手をいつ出すかはアンタの自由、そこら辺が妥協点だろうね」



 そうして私とアルナーとの結婚は決まった、決まってしまった。

 私へと向けられた女衆の熱すぎる熱視線に気付いてしまっては、もうその話を受け入れる他無かったとも言える。


 アルナーのことは嫌いでは無いし、美人だとも思う。

 家事は出来るし、私のことを好いてくれているし……。

 うーむ、そう考えると悪い話では無いのか……私も35歳になるし、結婚を急ぐ歳ではあるか……。

 ん……?そういえばアルナーは何歳なんだろうか?


 モールはドラゴン狩りを祝う祭りと結納と結婚式の準備だと何処かへ行ってしまったから……あそこにいる男衆に聞くとしようか。


「なぁ……忙しそうにしてる所に悪いんだが、アルナーが何歳なのか知っているなら教えてくれないか?」


「ん?ああ、ドラゴン殺しの旦那かい、アルナーは今年で15だぜ。

 結婚解禁の歳になってすぐに旦那みたいな大物を捕まえるんだから大したもんだよ、アルナーは」


 聞きたいことはそれだけかと男は立ち去って、私は呆然としながら立ち尽くす。

 15歳……若いだろうとは思っていたが、まさかそこまでだとは……。

 35歳と15歳……まるで父と娘じゃないか。

 第一に王国法じゃ結婚は18歳からだ。


 これは当分は婚約状態のままだろうな……アルナーが18になるまで、3年。

 そうだな、3年間は婚約状態のままで……それまでに領内を発展させて……立派な領主になるとしよう。

 そうしてアルナーと結婚するに相応しい、家庭を持つに相応しい男にならないとな。

 その頃には私の気持ちの整理も付いているだろうし、覚悟も決まっている……はず……。

 いや……それまでには覚悟を決めてみせよう、領主としても男としても。


 とりあえず今日の所はこれから始まるらしい祭りと結納と結婚式か。

 鬼人族の結婚式がどういうものなのか想像も付かないが……きっと鬼人族に相応しい騒がしい式なんだろうなぁ。


 ドラゴンと戦って徹夜でドラゴンを運んでそして鬼人族の結婚式か……。

 35歳にはなんともきついスケジュールだが……気合で乗り切るとしよう。

 

 ……そういえば結婚してアルナーが私の家族になるってことは、それはつまり領民ってことで良いの、かな?

 ああ、いや、婚約状態だし、その場合はどうなるんだ……?

 領民なのか、領民じゃないのか。

 うーむ、どっちになるんだろうな?




 ・第一章リザルト


 領民【0人】 → 【1人】


 ディアスは【黒ギー】93頭の討伐に成功した。

 ディアスは【アースドラゴン】の討伐に成功し、ドラゴン殺しの称号を得た。

 ディアスは【アースドラゴン】の素材を入手した。

 ディアスは黒ギーとアースドラゴンの素材との交換で家【ユルト】20軒分の資材を手に入れた。

 ディアスは黒ギーとアースドラゴンの素材との交換で食料【干し肉と干し芋】二ヶ月分(2人分)を手に入れた。

 ディアスはアースドラゴンの素材との交換で【薬草】5壺を手に入れた。

 ディアスはアースドラゴンの素材との交換で施設【井戸】と【厠】と【倉庫】を建設して貰うことに成功した。


 ディアスは鬼人族と縁を結び【友好関係】を深めることに成功した。

 ディアスは【アルナー】と結婚し、その事実を婚約だと言い張っている。


 

 

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