天使2
「リョウ。リョウ」
昨日とまったく同じ状況で意識が覚めた。
結局これが夢なのかどうかも分からなかったが、天使と会話をすればよいのだろう。
「一日ぶりですね。天使様」
「そうなりますね。……なるほど、あなたの選択は分かりました」
「え、もうですか?」
まだ挨拶を交わしただけであり、特に頭に何か浮かべていたわけでもないのだが読み取ったらしい。
「明確に意識していることは読み取りやすいのです。あなたは元いた世界に戻りたい。そして願いとして、イツキリサに届け物をしたい」
「えっと……はい」
どうやら本当にすっかり伝わってしまったようだ。ということはこれでもうすべて終わりということだろうか。
「説明があります」
「説明?」
「注意事項のようなものです。あなたは元いた世界に戻りますが、覚えておいて欲しいことがあります。まず、あなたが去った瞬間に戻るわけではありません。あれから元の世界では五年と九十七日が経過しています」
「そのことなら少しだけ聞きました。代わりに生きていた自分が存在しているんですよね?」
「はい。今のあなたはそこで目覚めます。加えて注意点として、あなたは元の世界での五年と九十七日の記憶を持ちません。しかし生きていた事実はあります。対策はしてありますが、お気を付けください。以上です。質問はありますか」
五年の月日が経っている。別の自分が生きていた実績がある。記憶喪失で突き通せばなんとかなるのだろうか。後は特に困ることはなさそうに思える。
「大丈夫です」
「分かりました。それでは、あなたを元の世界に戻します。目を閉じてください」
言われた通りに目を閉じる。おそらく天使との接触もこれで最後になるのだろう。はじめのやり取りで、思考をそのまま読み取るだけではないことが分かった。しかし、そうであれば昨日は尚更もう少しましな対応をしてもらいたかったものだ。そういえば終わり方が丁寧である。反省という概念があるのだろうか。
「……昨日は失礼しました。きつく言い聞かせましたので、どうかご容赦ください」
少し控え目に声が響いた。まだ心を読んでいたらしい。悪いことを言った。またどうでもいいことだが、昨日とは別の個体だったようだ。天使の謎は深まるばかりである。薄らいでいく意識の片隅でそんなことを考えていた。
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