第80話 ラストスパート(7)

 スタート直後、恵は先頭集団にまじり走行していた。目の前に「603」、「604」が走っている。


(新川さんは、3番目。目の前の2人は速い。全力で行かないと追いつけないか)


 クネクネコースに入り込むと恵は「604」の後ろにピッタリとつく。いつでも抜く体制で迫っていた。


(生意気!黄色の奴)


「604」がスピードを上げる。「603」もそれを察知して加速する。前を走る有紀を追っていく。

 距離を詰めていく恵。それを阻止しようとする「604」の攻防が続く。自然にスピードは増していく。

 

(置いて行かれるわけにはいかない。ジャンプは・・・・・・下手だな私。でも、行かせてもらう)


 恵は2連ジャンプに加速を増して迫る。

 「604」はそんな恵に対してニヤリと笑う。


(生意気!私がジャンプできないと思ったら大間違いだよ)


 「604」は速度を増してジャンプに入る。綺麗に2連続ジャンプを決める。

 恵も同じタイミングでジャンプをする。単純に山なりのジャンプをした。


(なに、こいつ。ここで抜く訳じゃないの?そんな気の抜けたジャンプをしてガッカリだわ。所詮その程度。神沢さんには近づけさせない)


 「604」が恵の方に目を向け舌打ちした直後、その目が大きくなり頭の中にサイレンにも似た警告音を感じた。


(このままのスピードではいけない。この先は!)


 思わず減速する「604」。そう、この先には急勾配が待っていた。ここぞとばかりの勢いでジャンプした「604」はそのまま突っ込むことになる。


(しまった!まさか、コイツ。私の転倒を待ってるのか。そうはいかないよ)


 「604」は必死で転倒に耐えながら、なんとか制御できるスピードで急勾配に入る。減速は大きかったが、それでもハイスピードでのコントロールは流石であった。勢いを保ったまま急勾配を下る。自分でコントロールできるギリギリのスピード。これで凌げると思った瞬間、「604」の背中に熱く突き抜ける衝撃波が襲ってきた。


 一瞬だった。横に何かが並んだかと思うと、次の瞬間には目の前にASAMIの文字が浮かんでいた。


(そんな。でもそのスピードは)


「604」はついて行けず、下り行く恵を見送るしかできなかった。恵は急勾配の出口のクッションに張り付くのではないかという勢いで迫ると、前輪をロックさせて車体をコースの方向に90度回転させた。


「いけっー!」 


 相変わらずの非効率走行だが、多少なりとも勢いを保ち「603」追撃に入った。


 「604」は遅れをとりながらも恵を追い急勾配を抜けた。


(あのスピードで下るなんて。私が必要以上に減速するのを狙って追いつめたっていうのか?だとしてもブッ飛んでいる。あいつ、水城って言ってたかしら)


 「604」は恵の背中を見つめ追撃を開始した。

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