第79話 ラストスパート(6)
冷静な感覚で走っていれば芽久美が近づいてくることは、気がつくかもしれない。だが、多くの選手は芽久美の未熟的な雰囲気に気を許し、油断をしてしまう。気がついたときには手遅れ。芽久美が前を走る結果となる。
「605」が芽久美の動きに気がついたのは、意外にも早かった。後輪と前輪が接する程の距離になったときだ。
(わあ、凄い。気がつかなかった。この子、追いついてたんだあ。私の勘鈍ってたのかなあ)
「605」が抜かれまいとスピードを上げ、ペダルをこいでいく。
(この子、ここで抜く気だ。どうしてここなのかなあ)
興味津々で芽久美を見る「605」。レースはそっちのけな感じで後ろを振り向いている。ゴーグル越しに芽久美を見ている。芽久美はその行動に驚いて目をパチクリさせていた。
本来なら近づいて抜きにかかる寸前に気がつくはずだった。それが近づき、抜く前にガン見状態で振り返るのだから、芽久美が驚くのも無理はなかった。
(あー、この人バカにしてる~。もう、ここで抜くもんね!)
芽久美はプクーっと頬を膨らませるとペダルの回転速度を上げた。車体の半分を抜きにかかる。そのような状況でも「605」は逃げることなく、追い抜いていく芽久美の顔を見続けていた。
(この子可愛い~)
見送る「605」に対して芽久美は、ここぞとばかりに加速していく。目指す細い林道が迫る。
(ここで前にでるもん)
芽久美は「605」をかわすと、すかさず右におれて林道に入った。
「605」の目の前にSSSの文字が浮かんでいた。
(わあ、二人も抜いちゃったあ。こんな私、誉めちゃいたい!恵ネエ、有紀ネエに追いつくからあ)
芽久美が力強く林道を駆け上がっていく。その後ろを「605」が追いかける。
今度は芽久美が追われる側になった。自分のペースで上る芽久美は、前に意識を集中した。このコースは細く抜くことはできない。どうしても詰まることになる。後の者はペースを乱すことなく走ることが要求される。芽久美がここを制したのは追いつくための必要条件だった。
芽久美の目に「604」の姿が見えた。
(いける。追いつける。あれ、恵ネエもやったんだあ)
出口を目指しながら芽久美は「604」を追いかけた。
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