第78話 ラストスパート(5)
クネクネコースも出口に近づく。芽久美が静かに加速する。
「606」は沈黙していた芽久美にすっかり気を許している。ノーマーク状態だった。気がついたときには、横目で見える位置に芽久美が迫っていた。赤と青のウェアが重なっていく。
目の前に2連ジャンプが迫る。芽久美はグッと体を沈めるとサスペンションに力を溜めた。
「いっけー!」
芽久美が叫ぶ。
地面から前輪が離れた瞬間に思いっきり体を伸ばす。
勢いよく芽久美が飛び出していく。
山を越えるように飛ぶ「606」に対して、芽久美は一気に2連のジャンプ台を飛び越える。
着地したときには完全に「606」の前に出ていた。
(やったー!高校生と勝負した私、すごい!)
グッとペダルを踏み込む。ここぞとばかりに加速して、急勾配にたどり着く。目の前に「605」の選手がいる。
芽久美は後から突っつくように走る。
「605」が芽久美の走りに動揺した。無理もない。「606」の後ろで沈黙していた芽久美が一気に迫ってきたのだ。
急勾配に「605」が入る。芽久美が後ろにピッタリと張り付いて下りていく。接触するのではないかというほどの距離で迫る。
出口で「605」が曲がりきり加速して坂を上っていく。芽久美は遅れることなくついて行く。ペースが同じ。離れることも詰めることもない。
(なに、なにい?この子。いつの間にか後ろにきてた。ビックリ!)
「605」は芽久美の追いつきに驚き、口に手を当てて驚くポーズをする。
(ピッタリついてきてるう~。じゃあ、いっちゃうよ~)
「605」が芽久美を離すために加速をした。緩やかな坂をスピードを上げて上っていく。
(離れたらだめだあ。抜くのここじゃないもんね)
芽久美も加速をして離されないようについて行く。
二人が同じ距離を保ちながら坂を上がっていく。
(どうして抜かないの?力尽きちゃったかなあ。あ~、私、こういう状況、苦手だなあ。この子何考えてるんだろう。気になる~)
「605」が芽久美がピッタリとついてきていることに気持ちをヤキモキさせていた。
同じ距離を保っていたはずの芽久美が少しずつ詰めていく。分からないほどの間隔で少しずつ。芽久美のアタックはこの時すでに始まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます