第67話 思い今は気づかず(4)
恵と美樹雄が食堂に行くと、軽く10人は掛けられそうな大きなテーブルに浩一、瞬、奈美がすでに席についてワイワイと話していた。
「遅いよ。お二人さん。待ってたんだぜ」
瞬がコンコンとテーブルを叩いて、抗議していた。
「ごめんごめん。星が綺麗に見えるからつい見とれていまして」
恵は頭を掻きながら席についた。
「すごーい。おいしそうだね」
恵の前には、菜の花のおひたし、アマゴの塩焼き、手羽元の唐揚げ、山菜の天ぷらに炊き込みご飯などなど山の幸がふんだんに並べられていた。
「ではでは。今日はみんなよくやったね。水城は初陣とはいえ、事実上の決勝と言われるほどの成績を残した。これは、かなり手応えがあったと思う。相沢と三井も1位、2位の成績。互いに思うところはあるだろうけど、朝見校としては申し分ない成果だ。これで部にも弾みがつく。それでは、朝見校自転車部の繁栄と部員の健康を願って乾杯と。あと、奮発してくれたこの宿のご主人に感謝していただきます!」
「かんぱーい。いただきまーす!」
浩一の景気いいかけ声に恵たちも元気に応えた。その様子を見て若夫婦は笑っていた。
「そう言えば競技の後、メグが三井を探していたけど。会いましたか?」
美樹雄がタラの芽の天ぷらを口にしながら言った。
「ああ、会ったよ。走り方教えてくれって」
「えっ、瞬から?」
瞬の答えに恵は唐揚げを落としそうになった。
「そんなに驚くなよ。まあ、俺も驚いたけど。美樹雄に教えてもらえって言っといた」
「ありゃまあ。メグちゃんてけっこう大胆だね。今日だって、決勝の二人をチーム関係なく応援していたし。私、メグちゃんは好きなタイプだな」
恵は隣の奈美を見ると、奈美も頷いた。
「確かにメグなら僕よりも三井の走りが合っているかもしれないですね。彼女が自分から教えを請うなんて珍しいですよ」
「そうなの?明日のためにも情報が欲しいなあ。教えて」
「そうですね。相沢、先生からもお願いする。良かったら教えてくれないか」
恵は、まあ、一杯とばかりにコーラを美樹雄のグラスに注いだ。もはや飲み会の情報戦のような光景だった。
「メグは、見た目が幼く何も考えてないように思われがちだけど、舐めてると痛い目にあいます。彼女は地力が強い選手です。追いつめられれば追いつめられるほど、力を発揮します。言い換えれば、彼女の力を発揮させる選手は、優秀な選手だということです」
「そう言えば、新川さんがメグちゃんは体幹を鍛えているって言ってました」
奈美が綺麗な箸使いでアマゴの塩焼きを食べ終えて言った。身一つ残さずに食べているところは、見ていても美しく気持ち良かった。
「ええ、メグは自分が決めたことに対しては忠実で努力家です。その反面、自分から積極的に動くということは滅多にないです。だから、他人に教えを請うのは珍しいことなんです」
「・・・・・・なぜ俺を見る」
浩一も含めて4人が一斉に瞬に注目していた。
「いやいや、瞬ちゃんも隅に置けませんなあ」
「あほか!」
恵の揉み手をしながらの言葉に瞬が答えると、一斉に笑いが起こった。
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