第62話 男子×意地×アメリカンドッグ(12)

 加速を増して瞬は美樹雄を追う。諦めは微塵もなかった。いまさらながら不安が吹っ切れた。ミスが瞬を奮い立たせた。

 

(負けるのは嫌さ。ああ、こいつには勝ちたい。だけど、こんなちっさなことで諦めるなんてもっと嫌だ。俺は、こいつをぶち抜く。やってみるさ)


 二人の前に山がそびえ立つ。瞬はこれでもかという加速で上る。美樹雄との差がわずかに縮まる。


(ここで仕掛ける。ここで差を詰める)


 瞬はフル加速で駆け上がる。美樹雄がワンテンポ早く頂上に着くと、歓声が上がった。瞬もそれに続く。会場は再び、二人の姿に目を奪われた。


 美樹雄は高く飛び上がると車体を左にひねり、軌道を左側にずらした。そのすぐ後に瞬が飛び上がる。全く同じ事をしたのだ。


ーーーーーー あーーーーーっ、これは二人とも同じ走法だああ。1回目と同じで二人ともまるで示し合わせたようだあーーーーーー


(うそだろ?あいつ)


 瞬は、空に舞い上がるなか、美樹雄が水鳥のように美しく降りていく姿を眺めていた。


(あいつ・・・・・・運なんかじゃない。これが美樹雄なんだ。本当の姿。あいつは力で勝つつもりだ)


 会場も驚いたが、瞬も驚いた。美樹雄が自分と同じことを考えていたとは思っていなかった。


 左に軌道をそらせることで、1本目のフラグの突入をスムーズにする。そのまま加速させてゴール寸前で追いつく計算だった。


 いま、その計算が崩れた。


「そうかい!じゃあ、これで行く」


 瞬は、宙に浮いたままでギヤを1段上げた。山の中腹に着地すると、勢いを利用して加速する。1本目は、そのまま抜けられるからそこまで加速するのだ。


(限界の限界を超える)

 

 美樹雄もそこまでの走法は考えていなかった。1本目すり抜け2本目に入る。


 会場は再び熱くなった。


 美樹雄も気がついていた。瞬がすぐ横にいることに。


 1本目より更に増した速度で突入してスラロームを駆け抜ける。完全に力でねじ伏せて車体をコントロールする。ねじ伏せれば速度は落ちる。だが、瞬時に加速して立ち上がる。それの繰り返しだ。


 瞬の走り方だからできる技である。


(すごい。あの走りは真似できない。もし、あと2本フラグがあったら、美樹雄は完全に追いつかれる。どちらが勝つか分からない)


 惠はレースに見入っていた。

 奈美はまばたきをすることなく見守っていた。


 美樹雄はラストのフラグをすり抜けると、加速してゴールにむかった。瞬もほぼ横に並び加速をする。かすかなリードを保ち美樹雄と瞬が駆け抜けていく。あれほどの差があったことが信じられない展開だった。


 もう、実況が何を言っているのか分からないほど、会場から声援が飛んでいた。


 美樹雄と瞬はゴールすると息を切らしていた。

 二人ともタイムを見る余裕がなく、ハンドルに顔を乗せている。


 会場が沸き立っていた。

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