第61話 男子×意地×アメリカンドッグ(11)

 二人は一斉にスタートをした。どちらも最高のタイミングだった。ポールをなんなく抜けていく。差が全くついていない。


 S字に入る。二人の走りに狂いはなかった。滑らかに走る美樹雄、素早く動く瞬。スピードにのった二人が綺麗にカーブを曲がっていく姿は、サーカースのショーのようで、レースを忘れさせる光景だった。


 S字を抜けると、ジャンプが待つ。ここも観る者を引きつけるように飛び、会場が沸いた。だが、差は全くついていない。二人の技と力が互角だと言わんばかりの展開である。


ーーーーーおーっ、二人とも魅せてくれる。華麗な走りだ。全く差がない。最終のS字に突入だあーっーーーーーー


 二人が同時にS字に入った。

 瞬が、勢いをつけ右から左に移る。地面にタイヤが接地した瞬間、全身が凍えるほど震えた。

 滑ったのだ。


(なっ!これは)


 瞬は自分の状態をすぐに理解した。弱点といえばそうなのである。

 いままでのレースで削られた地面が柔らかくなっていたのだ。それなりに計算して走っていたが、この一部だけが特にもろくなっていた。


 実は、1回目のレースで走行した美樹雄も当然気がついた。美樹雄が瞬の飛ぶような走りをしたのは、この滑りを調整したからだ。それも咄嗟にとった行動だった。


 瞬も即座に自分の状況を理解して回避行動をとる。しかし、タイミングが悪かった。差をつけようとこのときばかりは勢いをつけて飛んだ。当然、その分滑りは大きくなる。カーブの軌道を大きくそれていく。スピードがあればあるほど、軌道はそれる。このままではコースアウトするか、無理に倒し込み転倒するかしかなかった。


「こんちくしょう!」


 瞬が叫んだ。美樹雄と同じように後輪を滑らせると、車体を倒し込んだ。カーブの出口に前輪が突き刺さるのを避けるため、前輪を浮かして無理に軌道を変える。力業である。本当なら、カーブ出口に突き刺さるところであるが、転がる寸前に、瞬は地面を蹴り上げ体制を整える。スピードは落ちたが、転倒は免れた。差は車体半分ほどひろがり、抜けたときにはさらにひろがっていた。




ーーーーーーあーっ、ここで三井選手、痛恨のミスか。この差をどこまでつめられるのかあーーーーーー


 実況の声に会場を「やっぱり」の空気が包んだ。




「まだだー!」


 瞬はペダルに渾身の力を込めた。


「まだ、負けちゃいない!」


 瞬の目が前を走る美樹雄を捕らえた。

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