第15話 揃い踏み強敵達!登場、神沢妃美香(1)
抜けるような青空、太陽の暖かみを帯びた空気が辺りを包んでいた。
「わー、見て見て奈美ちゃん、川よ。水がきれいだね」
恵は車の窓に顔を近づけてはしゃいで言った。
「本当、水が澄んでいるね」
奈美がピョコンと恵の横からのぞき込んでいた。恵と奈美はしばらく透き通るばかりのエメラルド色の水の流れに見入っていた。
春を迎えた山の中の国道を一台の大型ワンボックスが走っていた。屋根にはMTBを二台積み上げ、さらに最後部の座席にもう一台が乗り込んでいた。運転手の浩一はにこやかに鼻歌混じりで運転をしていた。浩一の隣では美樹雄がナビゲートをし、その後ろに恵と奈美が座っていた。さらに後ろには黄色のMTB、クーラー、その他荷物に混じって瞬がふてくされて座っていた。この席順、必然的と言えばそれまでだが、出発前に瞬がジャンケンで決めるよう提案したのが始まりだった。しかし、世の中にはなぜか「言いだしっぺ負けの法則」が存在し、その法則に従いこのような結果になってしまったのである。哀れにも瞬はカーブの度にMTBやクーラーとおしくらまんじゅうをして呻いていた。
「山の中に来るとなんか安心するんだよね。こう、なんて言うか『帰ってきた~』て感じで」
「お前はアルプスの少女かよ!」
恵の夢中なおしゃべりに合いの手を入れるようにクーラーに肘をつきながら瞬が言った。
「あらー、どうしたの瞬君。そんな所ですねちゃって」
「うるせー、別にすねてなんかないわーいっ!」
瞬は急カーブのために崩れた荷物を押しのけながら必死で自分の場所を確保していた。
「あのー。やっぱり私が後ろに行きましょうか?」
奈美が心配そうに声を掛けた。
「いいの、いいの奈美ちゃん。瞬はね、自ら進んでそこを選んだのだから」
「そっ、そうなんだよ」
瞬は奈美の心配そうな顔に思わず怯んでしまった。
「だいたいね、大会に出るときは大抵こういう席だから慣れてるし、それに俺、奈美ちゃんより背がちっちゃいし・・・・・・」
車内は一瞬、沈黙した。実際、瞬は奈美よりも確かに背丈が低くい。瞬は自分の言葉に自分で傷ついたのである。さすがにこの瞬の姿は誰の目にも同情を誘った。
「まっまあ、瞬君。アメでも喰いねえ」
恵は精一杯の笑顔で瞬の肩を叩いた。
「あっそう、じゃあ遠慮なく喰う」
そう言うと瞬はアメを口に放り込んで、カリカリコロコロと口の中で遊んでいた。
(どうやら瞬は立ち直りが早い男らしい)
恵は瞬の脳天気なたくましさに思わず感心してしまった。
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